第27話 復興のバイト

 隣国でバイト。聖女様御大自らご指名のかなりワリの良いバイトだ。就労ビザも顔パスで手続きも超スムーズ。すげぇな。

 もちろんバイト紹介会社による中抜き無し、単価100%取り分の免税扱い。ただし通貨は違うので両替手数料は少し掛かる。


 というわけで、週末2日のスポットのバイト。どうせ物資運搬だろと自慢の50リットル登山リュックとお水取り用のポリタンクをいくつかトランクに突っ込んで、国境を通過する。税関では最敬礼される。サンディはこの国では誰もが知る敬愛すべき聖女様なんだなと感心する。政体と国体とは違って、王が追放されても聖女の地位はそんなに変わってないらしい。


 サンディに指示される通りに、王宮に向かう。準備はしてあるので着いたらすぐ仕事だと言うから現地集合現地解散だと思ってたが、一回王宮に集めて説明とか役割分担とかの指示があるんだろう。流石に発注主の直接雇用だと余裕が違うね。王宮も国王一家の住居だと思うと腹が立つが、集まって打ち合わせる場所は必要だ。


 王宮に着くと、そのまま執務室に案内されて、誰もいない。サンディ……?


「機密だから言えなかったけど、仕事はデスクワークで、相互に矛盾を抱える提案書をファイルに綴じてあるから、そのうちのどれかを選んでこのハンコ押して。選択の基準はアーネストが思ったほうでいいし、全部ダメなら差し戻しにチェック入れてどこを直せって書いといて」


 サンディから渡されたハンコはずっしり重く、御名御璽と書いてある。これって、もしかしなくても国王代行?

 確かに先日のクーデターで国王一族郎党皆殺しにされたと言ってたから、そういう仕事する人居ないんだな。でもこの仕事、バイトにさせて大丈夫なのかよ?


 アーネストはバカではない。もちろん天才というほどでもないが中の上くらいの学力はあるし、この仕事の結果は国策事業の成否や国民の生活に繋がるので、それを良くすることが職業倫理的に求められているということを直感的に理解し、山のような賛否両論の対立軸を多角的に判定、片付けられるものと片付けられないものに分類して、片付けられる方はチャチャっと単純作業としてハンコ押し、そうでないのはサンディに相談することにした。


 出来ないものは出来ない。判断つかないものは判断つかない。プライドがやたら高い王侯貴族にはそれを言うことは出来ないだろうが、幸いにもこれはバイト。わからないのはわからないと印つけといて後でバイトリーダーのサンディに相談しよう。


―――

書類の山を分類していると、執務室の扉がノックされた。


「はい、少々お待ちください」


 デスクワークのバイトでは持ち場を離れるときはクリアデスク。このやたら広い執務室ではドアに行くまででも持ち場離れるようなもんだ。幸い机の上をまるまるそのまま退避できる巨大な引き出し付きだ。

 机の上の作業状態をそのまま引き出しの中に移し、鍵を掛ける。

 お待たせしましたと扉を開くと、メイドさんが待っていた。何その格好?ここ、ふざけてんのか本気なのかよくわからない職場だな。


「国王陛下、お食事の準備が出来ました。」

恭しくメイドが礼をする。


メイドさんに国王陛下かよw。いや、やってる作業は紛れもなく国王代行だ。


「苦しゅうない、近うよれ!」(笑)

そういうノリにお付き合いするくらいのサービスしても良いだろう。


「近うよれと仰せですが、そちらからこっちに出てきてませんか?」


そうでした。「国王陛下」らしく、クリアデスクしたら返事するだけで良いんだ。何自分から扉まで開けに行ってるんだよ。

(※作者注:クリアデスクも必要ありません)


「あぁ、昼休みですね。わかりました。行きます。行きます。」


メイドさんに案内されて食堂に向かう。さて、ここの社食は何があるんだろ。ろくなの無ければ麺類にしとけば間違い無い。

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