第30話 王宮の夜

 陰謀渦巻く負のパワースポット王宮。つい先日王家一家惨殺事件があったばかりの思いっきり事故物件だ。でも、鉄壁の警備のはずの最高権力者が一家もろもも惨殺されるなんて、どんだけ恨みを買っていたんだろう?


 軽い手抜き仕事とか食べ物の少しの好き嫌いで人の人生変えてしまうこの統治システムちょっとヤバいよな。本人自覚ないまま恨みを集めてしまう。それは長年同じなら確実に自分に返ってくるし、広くコイツだと広まる前に早く後任見つけてこのバイトから卒業したい。

 もっと恐ろしいことに、世襲でこの仕事に就くと生まれた頃から決まってる人間の場合、感覚が麻痺して、一挙一動に人の人生が掛かってるなんてこと気にしてたらやってらんないで思い付きで身を振ったら本人意識なくても暴君誕生だ。


 いろいろと想定外のバイトだったので疲れが溜まってる。今日即断出来なかった書類の仕上げはノルマというわけでもないが明日とっとと仕上げて帰りたい。そのためには身体は資本。ベッドに潜り込む。


 流石は贅を尽くした王宮のベッドだ。ふかふかでありながら背骨にも負荷がかからない人間工学に則った理想的な寝具。入ったものを寝させて回復するための職人の知恵と創意工夫が隅々までコスト度外視で搭載されているので、アーネストが眠りにつくのに1分と掛からなかった。


 オレ、もしかして歓迎されてるのか?


 サンディの計らいではじめから内部はもとより対外的にも正式な国王という扱いにされていることをアーネストはまだ知らない。そして任期は最低一年あるし、来年再来年とサンディは変える気がまったくないということを。


―――

 幽霊など出るわけもなく、気持ちの良い朝を迎える。何故か隣に柔らかいものが……

サンディ!なんでここにおる?


 サンディはアーネストの寝間着の袖を掴んですやすやと眠っている。


 酒呑んでベッド入って、起きたら隣に女性がいる。何も起きてない筈がない……というかこの状態自体が既に起こってる事象そのものじゃないか?


 ナニかやったということはなさそうだ。それはそれとしてかわいいなぁ。歳はそんなに違わないしこのバイトの雇い主で上司だけど。


 こうして寝ているサンディには大人の女性の持つセクシーさというのはあまりなく、ただただ可愛い。だから性交渉したいという願望はそそられない。むしろ庇護欲をそそられるっていうのかな。


 この尊い寝顔のサンディを起こさないように、掴んだままの寝間着からそっと身を取り出すように脱ぐ。


(※鬼神か悪魔のような世にも恐ろしい冬至祭でのサンディの姿をアーネストは見ていません)

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