第6話 はい、マイケル♥ アーネストだ!
少々こむつかしい運転を要求することと見た目がちょっとボロい事を除けば、安定性も回頭性も加速力も振動も言うことはない。ラジオを付ける。カーステレオなどという洒落たものではなくラジオだ。ラジオがついてればデラックスだった時代のクルマだなこれは。
お前についてるラジオ感度最高って歌あったが、あの歌のクルマは壊れてて、ラジオも壊れかけだったがコイツは一応全機能異常なし。異常が無くてもかなり変な運転を求められるのだが、それは慣れだよ慣れ。
にしてもコイツに付いてるラジオは感度最低だな。ひたすら雑音ばかり流れてる。まあいつか電波拾うやろとそのままにしたおいたら、雑音がフェードアウトして、DJがパンソニックやらメルツバウやらの話を始めた。
「今の雑音じゃなくてそういう曲だったんかい!」と思わずツッコミを入れるとラジオが何故か反応した。
「ピロピロ はい、マイケル♥」
ラジオのスピーカーからいきなり効果音が鳴ったと思ったら脈絡のない言葉が飛び出してきた。なんだ?
「はじめましてマイケル、わたしクリスティーンと申します。このクルマの制御コンピュータです。」
よりによってクルマの人格に、クリスティーンなんて名付けるとは制作者はなんと悪趣味な。しかもコイツ、オレを誰か他人と勘違いしてるし。
「俺はマイケルじゃない、アーネストだ。アーニーと呼んでくれ。」
「はい、マイケル♥。承知しました。」
全然わかってないじゃん。
「こら、KITT、いい加減にするんだ。」
「クリスティーンです。KITTって誰ですか?」
こいつ作った奴絶対確信犯だよな。
「私のデータベースに照会したところ、あなたはマイケルで99パーセント間違いないようなのですが。」
そんなところまでKITTのくせにKITTって誰ですかかよ。冗談キツイぜ。
「まあ、構わない。お前が俺をマイケルと呼ぶ限り、俺はお前をKITTと呼ぶぞ。」
「それだけは勘弁してください。あんなのと一緒にしないでください」
なんだよ、知ってるんじゃねぇか。にしても、あんなのとは?全世界20億人の男の子たちが夢中になった夢のスーパーマシンだぞ。おふざけであっても名誉な役じゃないか? むしろクリスティーンのほうがよっぽど不吉な名前だと思うぞ。うん。いや、もしかしたらクリスティーンとKITTを入れ替えてデータ登録してあるんじゃないだろうな?
邪悪な自我を持った妖怪車がKITTで、正義のヒーローの相棒のスーパーマシンがクリスティーンにコイツの頭の中ではなってるのかもしれない。
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