第19話 修理引き渡し

 修理が完成したと連絡があり並木モータースに取りに行く。今日もサンディが付いてくる。いや可愛いからいいんだけど、この子なんか普通と違う意味で危なっかしくて心配になるんだよな。


 並木モータースの店内に入り、ステッカーや電飾を横目に見ながら奥のレジに行き、受け取りに来た旨伝えると、並木が出てきた。


「よお、来たな。出来てるぜ、とびっきりのライトニング号がよ!」

ライトニング号?クリスティーンじゃなかったっけ?


並木に案内されて店舗裏のガレージに行くと、そこには前の姿は何処にもない、まさしくナイトライダーのKITTそのものと言っていいピカピカの車両が鎮座してた。


「ライトニング号なんですか?」


「あ……いや、そこは変えてくれて構わないが店として販売する商品としては版権料払いたくないからな、別のモノとして売りたいと言うだけだ。差し替え用の音声は、俺の口からは言えねぇが、ネットに落ちてる。」


個人で勝手にやる分には誰にも文句言われないが店として販売するものに勝手にいれるわけには行かないらしい。なるほど。なりきりパーツセットは非公認グッズなのだな。


コクピットに座る。ロールケージと6点シートベルトは前と同じで安心するが、ほぼ触れる部分に残ってるクリスティーンの面影はそれだけだ。本当になりきりセットだった。画面に灰皿型の物質スキャナーに腕時計型リモコンまでセットだ。腕時計形リモコンはペアウォッチになってて、サンディの分もある。


 サンディはさっきから興奮しっぱなしだ。

早速ライトニング号のコンピューターとリモコンを通じて会話を楽しんでいる。


 本当になりきりでサンディの趣味丸出しの道楽改造ではあるのだが、この改造で実益も兼ねてるのがあって、前はラジオだったモノが、なりきりセットの音声再生サブシステムとしてなんと念願のカーステレオになってなんとCDが掛けられるのだ。ちょっとはデートカーらしくなってきた。


 「申し訳ないとは思うのだが、骨格こそ大丈夫だったのだが、外装がバカ三波のパワーに耐えられないから外装も全身骨格並みの強度の素材に替えさせてもらった。大砲の直撃受けても車体が変形しないことは約束できる。」


そう、あのボロボロの外観が全部別になっている。一応骨格は残っているらしいが、10万馬力の加速に耐えるにはFRP外装では駄目らしい。

前の数百馬力でも外装落ちてたからな~。桁が違うから作り直しか。


並木はボンネットをあけ、エンジンを指差し

「ヤツの組んだこの忌々しい怪物のせいで……。」と言う。


ボンネットの中は油圧装置でいっぱいで、エンジンがどこに行ったのかよくわからないが、大きい変速機の片隅にチョコンと付いて四方八方からフレームに固定されてリード線のような極細のホースが付いている何かを指さしていた。


サンディが腕時計型のリモコンで会話を楽しみ、並木は三波サイクルエンジンに不満をこぼし、アーニーが並木に付き合っていると、来客があった。


「よくやった、並木。俺達の最速神話の続きが、これから始まる。」


三波だった。確か前身も三波と並木がその時持てる全てを注ぎ込んだ記念碑的な作品だって言ってたよね。


「三波さん、いくらなんでもコレは反則ですよ。クルマが耐えても人体が加速に耐えられないですって。」そう言う並木の背中に達成感とともに目標を見失った寂しさと悔しさの混ざったものがにじみ出ていた。


「バカモノ、人体の限界がカンストしたらその限界を超える方策を考えるのがボディ職人の仕事だろ。オレの組んだ三波サイクルエンジンはまだまだ加速をやめようとしない。もっとだ、エンジンはもっと回ろうとしている。あとはお前次第だ。信じろ、お前こそ天才だ!」


三波さん。ドライバーが加速で潰れるって話のとき北見淳の真似してる場合じゃないから。

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