第36話 トーコⅩ
「ミナトよ、我のレアスキル【
まじか……
そんなの、ズルだ。
俺が攻撃するまでどのトーコも本体の可能性も、分身の可能星もある。
俺が攻撃してから、トーコは『これが分身でした』と答えを〝確定〟させてしまえば、それは分身になるって事だ。
それじゃ、俺は誰を攻撃しても、絶対に勝てないじゃないか。
やはりレアスキルだけあって、思った以上にやっかいだ。
俺は、迷ってしまった。
「さあミナトよ、せっかく最初に攻撃する
十人のトーコは全く同じ動きで、俺を挑発する。
くそう……どうすればいい……
どうすれば……
俺は、目を閉じた。
単にどうしようもなくなって、なんとなくで閉じただけだった。
だが……
なぜか、俺は不思議な感覚に囚われた。
この感覚、何か覚えがある。
なぜか、俺はそう思った。
そして、目を閉じると、真っ暗な中に、ほんのりと、ぼやっと、あかりが見えるような気がした。
なんだろう……この灯り……
これは……まさか。
あの時の感覚だ。
俺が最初に、森でナインテイル・オルトロスを見つけた時の感じ。
シークレットスキル・ノートリアス・シーカー
あの時の感覚が、今、俺の中に感じられた。
まさか……
ぼんやりとした光は、徐々に収束していく。
そして、はっきりとした形を作り上げた。
光は、カーバンクルの形になった。
うーたん……
目の前には、うーたんの形の光の塊がいる。
うーたん、俺を案内してくれるのか?
俺を、本物のトーコの元に案内してくれるっていうのか?
うーたんは「みゅー」と一声鳴いた。
俺は、目を開けた。
目を開けても、光のうーたんはまだ消えていなかった。
消えないどころか、うーたんは、十人いるトーコの分身の中の一体の元に走り寄って行った。
うーたんは、トーコの足元につくと「みゅ」と鳴いた。
俺は、杖を取り出し構えて、うーたんのいるトーコに向けた。
十体のトーコは、少し驚いたような顔をした。
トーコは、うーたんには一切、反応を示してはいない。
俺にしか見えないのだろうか。
今のうーたんは、ノートリアス・シーカーを持つ俺にしか見えない。
そのうーたんが、一人のトーコの元に俺を案内してくれた。
今のトーコは、観測されるまで確定される事はない。
だから、本来なら、絶対にトーコの本体に当てる事はできない。
だが、うーたんは、できるのだろうか。
観測される前の本体のトーコを、観測されたと確定させる事ができるのだろうか。
確かめる方法は、ただ一つ。
俺は、杖を構えて、叫んだ。
「
俺の放った炎は、トーコに直撃した。
攻撃を喰らってトーコが膝から崩れ落ちる。
九体の分身がフッと消えた。
「やった!」
その瞬間、視界が歪んだ。
体から力が抜ける。
歪んだ視界は、真っ暗になった。
……
……う
……痛た
頭が痛い。
俺は、目を開けた。
気がつくと、教会の中で床に倒れていた。
どうやら、ようやくトーコのかけた【
半身を起こす。
それにしても、まだ少し頭が痛い。
やっかいなレアスキルだった。
俺はフラフラとした足取りで立ち上がった。
向こうでホビエルフのトーコが倒れているのが見えた。
俺は、トーコに駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
トーコの体を揺さぶる。
「……う……ミナト……か」
トーコは、ゆっくりと目を開けた。
トーコは、体を起こす力は残っていないように見える。
無理も無い、レアスキル二つを二重に使っていたのだ。そして、俺に敗れた。
「さすがじゃの……ミナト。我の【
「本当はわかっていたのか?俺が分身を見破れると?」
「【
「言っている事の意味がわからない……」
「ミナト、お主のスキルはそれだけ強力じゃ……という事じゃよ。それが知れただけでも、我は満足しておる。お主と戦った価値は、大いにあったのじゃ。さて、我はそろそろ、消えるとしようかの。控え室でお茶させてもらうとしようぞ」
「そうか」
負けた方が気楽そうなのはなんかずるい気がするが、まあしょうがない。
「残るはアッシュとマイカじゃの。二人は一緒におる。ここへ向かうのじゃ」
トーコが指で四角を描くと、空中に小さなウィンドウが現れた。
ウィンドウは地図になっている。
地図のある場所には、ばつ印がつけられていた。
「そこへ向かうのじゃ。アッシュとマイカはお主と戦うのを楽しみにしておる。あの二人は小細工をするのが苦手じゃから、道中で罠を仕掛けるようなことはせんじゃろうから、安心して向かうと良いぞ」
そう言うと、トーコの身体は光る粒子となって消えていった。
確かに、またトーコの様に夢の世界に連れて行かれるのは勘弁してもらいたい。
トーコが出した地図に記されている場所は、ちょうどPVP対戦マップの真ん中にある場所だった。
あと二人、アッシュとマイカは二人揃って待っていると言う。
なら、この戦いはこれで最後になるだろう。
俺は二人の元に向かって走り出した。
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