第26話 通信

 俺はナヴィスアプリを開き、シアとの通信を繋いだ。


「ミナト、勝ったね。おめでとう」


 シアは相変わらずの無愛想だった。


 だが、俺には少し分かってきた。


 シアの声色が少し高い。


 喜んでいるんだ。


「ありがとう。シアの方は……?」


 そこで俺は気がついた。


 シアの後ろに、ハルがいた。


 ハルはニコニコと手を振っている。


 つまりそこは……控室。


 負けた人達が集められると、さっきハルは言っていた。


 そこにシアがいる……と言う事は……


「ごめんねミナト。負けちゃった」


 負けたんだ……やっぱり。


 控室はちょっとしたパーティなら開けそうな大きな洋室の一室って感じで、まるで王宮の応接間と言う感じだった。


 中央にはやたらと値段が高そうなテーブルが一つ置かれてあって、そこには食べものや飲み物が置かれている。


 そして、これまた値段が高そうな椅子に座って、シアはくつろいでいるように見える。


 ……なんか、こっちより控室の居心地の方が良さそうなんだが。


 こう言うゲームに負けた時って、某年末のお笑いショーレースの敗者復活組の控室みたいな会議室に簡素なパイプ椅子が並んだ部屋とか、寒風吹き荒ぶ外の寒空の下……とか、そう言うのを想像したんだけど、そうじゃないんだ。



 まあ、シアがそんなとこに押し込められるのも見たくないし、これはあくまでゲームなのだから、居心地いいのに越した事はないんだけど。


「みゅー」


 シアの膝の上にはうーたんが乗っかっていた。

 うーたんは通信画面の向こうに俺を見つけて、嬉しそうに叫んだ。


「うーたんもそっちにいるのか」


「うん。ひとりで寂しそうだったから、こっちに転送してもらった」


「みゅみゅみゅ」


 うーたんはシアの膝の上で元気に鳴いている。


 良かった。


 すっかりシアに懐いてしまった感じだけど、俺の事を忘れてる訳ではなさそうだ。


 でも、シアが負けたと言う事は、俺はアッシュを含めた3人全員と戦わなければいけないと言う事か。


「ミナト、こっちの部屋からハルとの戦いを見てた」


「見てくれてたんだ」


「うん。シークレット・スキル【裏】を使えるようになったんだね」


 因みに今はもうノートリアス・カソドスの変身は解けている。


 髪の色は元の灰色ががった水色フロスティブルーに戻っているし、尻尾も消えている。


「ああ。だけどまだ、俺にもわからない事が多すぎるんだ」


「それは仕方がない。だって誰も知らないスキルだから。ミナトが自分で使い方を見つけて行くしかない」


「だよな……」


「でも、見てた感じ、多分そのスキルはまだ、隠れた異能が多くあると思う」


「そう……なのか」


 確かに、このノートリアス・カソドスがあのナインテイル・オルトロスの力を使える筈なら、こんなものではないだろう。


 実際、ナインテイル・オルトロスの尻尾は九本生えていたが、俺の尻尾は一本だった。


「ミナトはまだレベル10。だから、その技も能力が制限されていると思う。もっともっと強くなる」


「そうか……まずはレベル上げかな……頑張るよ」



「うん。でも、今のPVPで戦うには、充分使えると思う。むしろ、使い方を覚えるのにこのPVPはちょうど良い練習になると思う」


「なるほど。他のメンバーとの戦いの中でスキルの使い方を磨いていけばいいんだ」


「うん。頑張って」


「ああ。シア、そこで見ててくれ。やれるところまでやってみる」


 俺はシアとの通信を切った。


 さてと、次はどこに向かうとしよう。


 ちなみに、俺はまだハルの乗り物マウントである大きな鳥の上にいる。


 その時、再びシアからの通信を示すメッセージが現れた。


 通信を繋ぐと、今度はハルがいた。


 シアはハルの後ろで紅茶を飲みながらこっちを見ている。


 どうやらハルがシアに俺との通信を繋ぐように言ったのだろう。


 そうまでして、ハルは何を言うんだろうか。


「あ、そうそう、言い忘れてた。今ミナトが乗ってるその乗り物マウントは、自動的に次の対戦相手の所まで連れて行ってくれる。ミナトはそのまま乗ってるといいよ」


 そうなのか。


 まあ、次の相手をどうやって探しに行こうか考えていた所だったから、渡りに船ではある。


「ありがとう、ハル」


「なに、良いって。僕もここから君の戦いを見ているよ……僕を倒したミナトの実力は本物だよ。間違いない」


 ……まあ、褒めてくれるのは嬉しいが、正直言ってハルはそんなに強い相手とは思わなかった。


 攻撃は単調で避けやすかったし、こちらの攻撃も簡単に当てられた。


 シアが言うには、アッシュのギルドメンバーは強いはずなのに、随分と肩透かしだった感はある。


 だが、戦いが終わって冷静に考えてみたところ、一つ思い立った事がある。


 このPVPのシステムは、ハルには相性が悪かったのではないだろうか。


 ハルの強さの秘訣はおそらく、高額な課金アイテムによるステータスの底上げだろう。


 冒険者プレイヤーのスキルが他のメンバーより劣ってる分を、課金アイテムの能力で補っていたんだ。


 だが、この戦いではレベルシンクによって全員が俺と同じレベル10に調整されている。


 そのため、おそらく課金アイテムの補正もされていて、全員が同じパラメータになるようにルール設定されてしまった。


 そうなると、装備アイテムやステータスではなく、プレイヤー自身のスキル差が重要になってくる。


 それでハルは普段通りの強さを発揮できなかった……のかもしれない。


 まあ、憶測なのだが。


 なんて事を考えていると、俺の乗る鳥の乗り物マウントがゆっくりと降下を始めた。


 どうやら、次の対戦相手がいる目的の付近に来ているようだ。


 鳥の背中から顔を出して、遥か下の地面を覗き込んだ。


 遠くの方に、大きな教会が見える。


 西洋的な荘厳な建物で、ゆうにドームくらいはありそうな大きな教会だ。


 鳥はゆっくりと教会の方角に向かって飛んでいる。


 そして、少しづつ地面に向かって高度が下がって行く。


 次の相手は、おそらくあの教会の中にいる。

 次はどんな相手なのだろう。

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