第25話 ハルⅤ

「ノートリアス・カソドス!」


 俺はそのスキル名を叫んだ。

 

 もちろん、そんなスキルを覚えたという記憶はない。

 

 だが、俺には一つだけ心当たりがあった。

 

 シークレットスキルだ。

 

 シアはたしか、シークレットスキルはとてもレアで、持っているだけで凄い的な事を言っていた。


 だが、俺のシークレット・スキル〝ノートリアス・シーカー〟はノートリアス・モンスターを発見できたのだが、今のところそれくらいしか役立っていない。

 

 いや、それだけでも十分凄いらしいんだけど、だが本当にそれだけなのか?

 

 このゲームには〝レアスキル〟と呼ばれる、見つけるのが困難な分だけ威力が凄いスキルだってある。

 

 シークレット・スキルはそれより凄いとされているスキルだ。

 

 ノートリアス・シーカーは、『ノートリアスモンスターを発見するだけ』でシークレットになるだろうか。

 

 まだ、俺の知らない何かがあるんじゃないだろうか。

 

 そう、おそらく、それが今俺が唱えた呪文だ。

 

 ノートリアス・シーカー【裏】


 ノートリアス・カソドス

 

 どんな能力なのかわからないが、戦闘で使えるのはありがたい。


 さすがはシークレット・スキルだ。

 

 スキルの名を叫んだあと、一瞬俺の視界は真っ白な光に包まれた。

 

 そしてすぐ光は収まり、しかし何事も起きなかった。

 

 ……あれ?なんだったんだ?

 

 攻撃魔法じゃなかったのか?

 

「ミナト……その姿……」


 ハルは驚いた様子で俺の方をじっと見つめている。

 

 なんだ……どうしたんだ。


「ミナト、気づいてないのかい?自分の姿を見てごらんよ」


 ハルに言われて、俺はステータス画面をひらいてみた。


 ステータスには、俺自身の姿や装備が写しだれるから、ゲームでの俺の姿を客観的に見ることができる。

 

 ……姿が変わってる。

 

 具体的には、髪が真っ白になっていた。

 

 そして、なんか尻尾が生えていた。


 尻尾の先には炎がゆらめいている。

 

 なんだ……この尻尾は。

 

 まるで……あのノートリアスモンスター、ナインテイル・オルトロスの尻尾を小さくしたみたいな尻尾だ。

 

 それがなぜ俺の体に生えているんだ。

 

 ……まさか。

 

 このノートリアス・カソドスは、倒したノートリアス・モンスターの異能を使える物なのか……。


 これがノートリアス・シーカー【裏】なのか。


 面白い。


 早速試してみよう……と思ったが、そもそも尻尾なんてどう動かせばいいんだ……。


 だが、心配はいらなかった。


 尻尾は何となくイメージしたら、その通りに動いてくれるみたいだ。


 あとは、尻尾をどう使って攻撃するのか……だな。


 何しろシークレット・スキルはそもそもその存在が知られていないから、使い方だって誰もわからない。


 俺が自分で解き明かして行くしかない。


「ミナト、その姿は一体何だ……まあいい。ええい、やぶれかぶれだ!ゴールデンエクスカリバー・スラッシュ!」


 ハルが剣を振るうと衝撃波が飛んでくる。


 俺は、軽く身を捻ってそれをかわす。


 気のせいかもしれないが、身のこなしもさっきより軽くなっている気がする。


フォティア!」


 俺の尻尾から炎の球が飛び出して、ハルに向かって飛んで行く。


 ハルは慌てて炎の球を避ける。


 なるほど、尻尾から魔法を放てるのか。


 なら、次はこれを試してみよう。


フォティアヒュドル!」


 俺の手から魔法で出来た球状の水が飛んで行く。


 さらに、尻尾からは炎の球が出現、水と炎の球はハルに向かって同時に飛んで行った。


「バカな……異なる属性の魔法を同時に出した……だと?本当にレベル10なのかキミは……」


 なるほど、どうやら尻尾は尻尾でイメージした通りに動かせるらしい。


 ハルはかろうじて炎の球と水の球を両方とも避ける事が出来たようだ。


 しかし、俺の実験に付き合わせるのもかわいそうだから、そろそろ終わりにしてあけるとするか。


フォナス!」


「何?うわああ」


 俺の放った魔法により、風に煽られてハルの身体がよろめく。


「おっとと……」


 ハルは姿勢を立て直そうと、一瞬俺から目を逸れしていた。


 そして再び向き直った——時には、もう遅かった。


 先に俺が放っていたフォティアがハルに直撃する。


 爆風に煽られて後ろに吹っ飛ぶハル。



——WINNER MINATO——



 空中に文字が浮かぶ。


 勝った……ハルに。


「おめでとう、ミナト」


 ハルの身体アバターは光りながら、薄くなって行く。


「PVPに負けたら、どうなるんだ?」


「チームの勝敗が決するまで、負けた人たちは控室に強制転移されるのさ……この先のキミの活躍は控え室から見させてもらうよ」


「そうか」


「ミナト、これからよろしくね」


 そう言って笑顔を見せながら、ハルの姿は消滅した。


 残るはあと3人……か。


 シアの方はどうなったんだろう……


 そう思っていた所で、突然シアからの通信を示すメッセージが現れた。


 シアだ……通信できると言う事は、シアの方の戦いは終わっているのだろう。


 シアは、勝ったのか?

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