第38話 アッシュⅠ

「シア……戻ってきてくれたのか」


「うん。ミナトがここまで勝ち進めてくれたから、戻ってくることができた。ありがと」


 シアは俺の斜向かい、左側に座った。


 正面にはアッシュ、右側にはマイカ。

 

 四人打ち麻雀の面子が揃った。

 

「このレアスキル【魔雀和了マージャンホーラー】は少々特殊でな。四人の面子が足りない場合に限って、敗者復活が許されるんだ。そこで、ミナトの応援にシアが召喚されたと言う訳さ」


 アッシュは腕を捲って鳴らす。

 

「ルールはシンプルだ。ミナトとシア、儂とマイカがそれぞれペアとなり、組んでスポーツ麻雀で戦う。この台の上では、全員のHPが25000に固定される。そして、お互いのHPを奪い合うことになる」


「つまり、HPが麻雀の点数になるのか?」


「そうだ。麻雀の点数を1点=1HPとして、勝った人が相手チームから奪うことができる。チームのペア2人のHPが0になったら負けだ。また、全8試合を戦って、最後にお互いのHPが残っていたら、ペア2人の合計HPが多い方のチームが勝ちとなる」


「なるほど。俺とシアのペアのHP、合計5万か、アッシュとマイカのペアのHP合計5万からスタートして、最後に合計HPが多い方のチームが勝ちなんだな」


「そういう事だ。点数の計算はもともとの麻雀と大体同じだ。とはいえ、今回は略式ルールで行う、点数計算はある程度シンプルになる」


「シンプルに?」


「ああ。ミナトはそもそも初心者だから、複雑な点数計算はできないだろう」


「複雑以前に、点数計算なんてできないし、役もわからないんだが……」


「そこはまかせて。わたしが教える」

 

 シアは振り向いて親指を立てた。


「シアが?」


「うん」

 

 シアは自身ありげに頷いた。


「そもそも、シアは麻雀できるのか?」

 

「大丈夫。ルールは把握してる。ミナトには、わたしがついている。安心して」


「そうか……頼むよ。でも意外だったな。シアが麻雀を知ってるとは」


「わたしは、マイカに教えてもらった」


「マイカに……?」


「うん。わたしは学校で電脳部に所属してる。マイカはそこの部長」


「そうか。二人は現実リアルで知り合いだったのか」


「電脳部は、昔はスポーツ麻雀部だった。上級生がみんな卒業してしまって、新入生がなかなか来なかったから、マイカが部長になってから電脳部に変わった、わたしは、いつもマイカのスポーツ麻雀に付き合わされてた。だから覚えた」


「そう……だったのか」


 シアとマイカにそんな繋がりがあったなんて。

 

 でも、それなら少しは光明が見えてきたかもしれない。

 

「そういう事だ。まあ、ミナトは麻雀初心者だから、今回は細かい事は考えずに、気楽に参加してくれ」


 アッシュがパチンと指を鳴らした。

 

 全自動の麻雀卓の中でガラガラと音が鳴っている。

 

 やがて、卓の一部が開いた。


 下から麻雀牌が競り上がってきた。

 

「今回の略式麻雀も、基本的なルールは通常の麻雀と大体同じだ。一人一つづつ牌を取っていき、14枚の牌で役を作る。誰かが上がるか、山にある麻雀牌が全部無くなったらその場は終了となる」


「わ、わかった」


「勝負は東四局、南四局の全8戦を行う。ちなみに略式だから、今回は親と子、場風などは無しだ」


「あ……ああ……」


 ……もうすでに、アッシュが何を言っているのかわからない。

 

「わかってないようだなミナト。無理も無い。まあ、ミナトがやりやすいように、今回は初心者にとって複雑なルールをなるべく無くしていると思ってもらえれば良い」


「つまり、今回無しになるルールは考えなくていいんだな」


「そう言うことだ。そして、点数計算だが……本来なら作られる役に応じた翻や、符、ドラや親子などの計算に基づいて点数がつけられるんだが、今回は、それをあるシンプルにしてある」


「そ……そうか……」


 正直、この点数計算がわからなすぎて俺は麻雀に手を出さないでいた。

 

 だから変更してもらえるのはありがたい。


「役が完成して上がりを迎えたら、その時に作られた役の翻だけが点数となると思ってくれ」


「すまん。何を言っているのか全くわからん」


「ミナト、大丈夫。わたしが教える」


「シア、すまない」


「そうだな、個々の役に関してはシアにお願いするとしよう。ミナト、ざっくり説明すると、麻雀はな、できる役の難易度に違いがある。魔法で例えると、威力は弱いが唱えやすい魔法とか、威力が高いが唱えるのが難しい魔法……みたいな感じ感じだ」


「そう言われたら、なんとなくわかった……気がする」


「その役の難易度に応じて翻と言う物が設定されている。簡単な1翻から、難しい6翻までがある。まあ、魔法に例えると、敵に与えるダメージみたいな物だ」


「なるほど。簡単な魔法はダメージが少ないから1翻、派手な魔法はダメージが大きいから6翻という事か」


「そうだ。麻雀は上がった時にできた役の組み合わせで翻がきまるが、複数の役ができていれば、その分が合算される。1翻の役が2つあれば2翻となる」


「なるほど。簡単な魔法を組み合わせて、効果を底上げする事もできるというわけだな」


「そうだ。本来の麻雀はそれだけじゃなくて、他にも細かな加点がある。親と子だったり、場の風だったり、ドラだったり……だな。だが、今回の略式麻雀では、それらは無しだ。役が完成して上がったら、その役だけが点数になると思ってくれ。1翻なら1000点。2翻なら2000点だ」


「なるほど。純粋に上がった時に完成した役の翻だけが点数になるんだな。それならわかる」


「ああ。そして1点=1HPとなる。勝った点数分のHPを相手チームから奪う事ができる」


「わかった。1翻の役で上がった場合、相手に1000のダメージだな」


 基本はなんとなく、わかってきた気がする。


「さてミナト、試しに麻雀の役一覧を見てくれ」


「役の一覧……?」


「ミナト、これ」

 

 シアがウィンドウを呼び出した。


 出て来たウィンドウは、俺の方に移動してきた。 


 俺はそれを覗き込む。


 そこには、役の一覧とやらが載っている。


「これが……役」


「ああ。役の一覧と、その役の翻が載っているだろう」

 

 なるほど。


 一覧には、役の成立条件、そしてその役の翻がかいてある。

 

「ミナトはその一覧をみながら、揃えられそうな役を揃えればいい。役が完成して上がったら、その役の翻に1000をかけた点数分のHPを相手から奪うことができる。負けたら逆だがな」


「なるほど、わかった。この表によると、〝清一色チンイーソー〟とやらは〝6翻〟だな」


「そうだ。それが役という物だ」


「この表によれば、鳴いて作れる役と、鳴いて作れない役……というのがあるみたいなんだが、鳴き……ってのは何だ?」


「それは、手配は山から摸和ツモして作るだけでなく、相手が捨てた牌を貰う事もできるんだ。それを鳴くというわけだ。役によっては、鳴いて役を作った場合、無効になってしまうものがある」


「む……難しいな……」


「まあ、そこは一覧表を見て鳴くかどうかを考えてくれ。ちなみに、鳴いて作れる役でも、鳴いた場合は翻が一つ下がる役も多い。例えば一気通貫いっきつうかんなら通常2翻だが、鳴いた場合は1翻になるというわけだ」


「なるほど。なるべく鳴かないで摸和ツモした方が良いのは良いんだな」


「ああ。だが、摸和ツモするだけより、他の人の捨て牌を鳴いた方が、役を揃えるのは揃えやすくなる」


「確かに……な」


「麻雀は上がらないと点数がもらえないからな。鳴かないで多く翻を稼ぐか、それとも鳴いて早く手配を揃えて上がるか……と言った所だ」


「なるほど……どうするか、悩みどころだ」


「それと、役に関して、もう一つ伝えておく」


「なんだ?」


「6翻より上の役には翻が書かれていないだろう」


 たしかに、言われてみるとそうだった。


「ああ。翻が書かれていない代わりに〝役満〟って書いてある」


「簡単に言うと、それらは作るのが難しい役ってやつだ。魔法に例えるなら、高位魔法ってところだな」


「役満の点数は?」


「役満は30翻扱い……つまり、3万点とする」


 なるほど。


「6翻より上が役満で、役満はいきなり3万点……なかなかの高得点だな」


「そうだ。それだけ役満は高難易度という事だ。ちなみに、点数計算は実際の麻雀と少し違う。今回の略式麻雀独自の採点方式だ」


「ああ。わかった」


 なんとなく、わかってきた気がする。



————————————

●チームミナト

ミナト25000

シア25000

合計50000


●チームアッシュ

アッシュ25000

マイカ25000

合計50000

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