第43話 シア

「それにしても、意外だった。水瀬みなせ君がミナトだったなんて」


「俺だって、白帆しらほさんがシアだって今でもなんか不思議な感じだよ」


 俺たちは、電脳部の部室で話し込んでいた。

 不思議と、俺とシアは現実リアルでも十年来の友人みたいに親しく話している。


 さっきまで他人同士みたいだったのが、嘘みたいだ。


 薄雲高校一年A組、白帆しらほ紫杏しあん


 それがシアの現実リアルの姿だった。


 リアルのシアは艶のある長い黒髪を後ろで結んでいて、小柄な顔に丸い眼鏡がチャーミングだった。



 俺たちが談笑していると、電脳部の部室ドアが開いて、一人の女生徒が入ってきた。


「あら、今日は知らない殿方がいますのね。入部希望ですの?」


 部室に入ってきたのは、一人の女子生徒だった。


 背は高いのにやや童顔の整った顔立ち、長く伸ばしたロングの巻き髪。


 告白された男子の数は数知れず、女子からは憧れと崇敬の念で崇められている校内のアイドル。


 三年の東九条ひがしくじょう舞夏まいか先輩だった。


舞夏まいか先輩……って……まさか!」


「そう。この人がマイカの中の人」


「そ、そうだったのかー」


「あら、もしかしてそちらの方は……」


「舞夏先輩、この人がミナト」


「そうでしたのね……思ったよりも男前ですわね。シアさん、なかなかやりますわね」


「な、何言って……違うから!ミナトと私は違うからっ!」


 紫杏しあんは舞夏先輩の言葉になぜか顔を真っ赤にして慌てている。


「ま、今日のところはこのくらいにしておきますわ……おほほ」


 そしてなぜか楽しそうな舞夏先輩。


 現実リアルの二人はこうやって見ると、仲良さそうだな。


「では、湊さんとのお近づきの記念に、半荘戦マージャンでもやりましょう」


「いや、やらないから」


「うん。やらない」


 俺と紫杏しあんが同時に首を振る。


 舞夏先輩は、息ぴったりですわね……と揶揄からかい、紫杏しあんは違うから!と叫ぶ。


 そんな感じで俺たちは現実リアルでも仲良くなった。


 学校が終わり、俺と紫杏しあんは一緒に帰る事になった。


 今日は紫杏しあんの電脳部は部活がないらしく、放課後にする事が無いから俺と一緒に駅前のVRルームまで行く。


 二人でパストラル・クエストをやるのだ。


 俺のレベルがまだ全然低いから、紫杏しあんは俺のレベル上げに付き合ってくれる予定だ。


 ゲームを始めて最初に会ったレンは、俺よりかなりレベルが上がっているらしい。


 レンにも追いついて、一緒に冒険したいし、ネオンライツの皆や、シアと同じくらい強くなって、皆でレイドダンジョンに挑んだりもしたい。


 だからさっさとレベル上げをしたいんだ。


「早く皆と一緒のレベルに上がりたいな」


「ミナトなら、すぐ上がると思う」


 紫杏しあんが隣で一緒に歩いてしている。


 こうして並んで歩くと、現実リアル紫杏しあんは小柄で可愛らしいと思う。


 改めて、シアと出会えた事は幸福だった。


 パストラル・クエストを始めて良かったと思う。


 紫杏シアと出会えたから。


 これからも一緒に遊べるだろうか。


 できる事ならずっと一緒に紫杏シアと遊んでいたい。



 なんて事を考えながら歩いていたら、ふと紫杏シアの目線が気になった。


  さっきから、前を向いて歩きながらも、俺の方をたまに見ている。


 と言うか、俺の鞄を見ている気がする。


紫杏しあん……さっきから俺の鞄見てる?何か気になる?」


「あ……ごめん。なんでもない」


 紫杏しあんはそう言うと、再び前を向いて歩き出した。


 だが、少し歩いた所で立ち止まった。


「ごめん、やっぱり気になる」


 紫杏しあんは俺の鞄を指差した。


「湊、そのキーホルダーって……」


 ああ、その事だったのか。


 紫杏しあんはさっきから、俺の鞄に付いているキーホルダーが気になっていたらしい。


紫杏しあん、このキーホルダーが気になってたの?」


 俺の言葉に、紫杏しあんはこくこくと頷いた。


「それ、コズミック・アスターのマスコット」


「ああ。兄さんに貰ったんだ。なんかかわいいから付けてたんだけど、紫杏しあん、よく知ってるね」


 コズミック・アスターと言うのは、俺や紫杏しあんが産まれる前に放送されていた外国のドラマだった。


 俺が付けているキーホルダーは、そのドラマに出て来るマスコット的なキャラクターの形をした物だ。


 俺はドラマ自体は全然見た事ない。


 だが、深夜にやってた再放送を兄さんが見ていた事を、なんとなく覚えている。


 そして、兄さんは一時期このドラマのキャラが出て来る玩具ガチャが好きで、よく集めていた。


 俺は兄さんがダブったのを貰ったりしていた。


 このキーホルダーも、ダブったからと言って兄さんに貰った物だった。


 他の同級生に話しても全然誰も知らないと言っていたのに、紫杏しあんがこのドラマを知ってたのは意外だった。


紫杏しあん、このコズミック・アスター知ってるの?」


「ううん。わたしもあまり詳しくは知らない」


「そっか」


「でも、お姉ちゃんがこのドラマコズミック・アスター好きで、よく見ていた。わたしもたまにお姉ちゃんの横で見てた」


 紫杏しあんも俺と同じような感じだった。


紫杏しあん、お姉さんいたんだ」


「うん」


「そうなんだ。俺も兄さんが好きでこのドラマ見てたのは覚えてるけど、俺自身は全然見てないんだ」


「わたしも。ドラマはあまり覚えてない。だから聞いてもわからないかなって思って、聞きずらかった。でも聞いて良かった」


紫杏しあんのお姉さんは、ゲームはするの?」


「うん。わたし、もともとゲームはお姉ちゃんに教えて貰った。パストラル・クエストも」


「そうだったのか」


「ミナト、わたしが〝漆黒の聖女〟って呼ばれてるの知ってる?」


「ああ」


「あれ、本当はわたしの事じゃない……」


「えっ……?」


「〝漆黒の聖女〟は、本当はお姉ちゃんの二つ名だった。わたしも一緒にいたから、わたしのこともだんだん、漆黒の聖女の片割れって呼ばれる様になった」


「そう……だったのか」


「今度、湊にもお姉ちゃん紹介するね」


「あ、ああ。因みにお姉さんは……紫杏しあんより幾つ上なの?」


「2つ」


「そうか、じゃあ3年か」


「うん。進路決めなきゃって焦ってる」


「大変だな」


 俺と紫杏しあんは、そんな事を話しながら歩いていた。


 気がついたら俺たちは、駅前のVRセンターに辿り着いていた。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


 俺と紫杏しあんはVRセンターのドアを開けて、入って行った。


 今の俺はもう一人じゃない。


 俺の横には、紫杏しあんがいる。


 一人より、二人の方が心強いんだな。


 今まで知らなかった。


 これからは、紫杏しあんと一緒に遊びに来よう。


 俺たちの戦いはこれから始まるんだ。


 そう、俺と紫杏しあんが組めば、向かうところ敵なしだ。


 俺たちは二人で、再びパストラル・クエストの世界に向かって行った。

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