第1話 キャラメイク


 ロールRプレイングPゲームGには二種類ある。


 一つはMMO型RPG。


 もう一つはパッケージ型と呼ばれている。

 

 MMOとパッケージの違いを説明しよう。

 

 パッケージのRPGは、一つのゲームの世界の中には、一人のプレイヤーだけで入って遊ぶ。


 ゲームの中で出会うすべての人は、全員がノンNプレイヤーPキャラクターCだ。


 NPCはAIが作り出したプログラムで動いていて、人間じゃない。


 ゲームの中には他にプレイヤーがいないので、多少ズルい事をしていても怒られる事はない。

 

 一方でMMOというのは、一つのゲームの世界の中に、同時に他のプレイヤーもいる。


 全員で同じ時間、同じ世界を共有して遊ぶRPGだ。


 こちらには〝運営〟と呼ばれる組織がいる。


 運営は、ズルをして勝手にパラメータを外部から操作したり、ゲーム内で得たアイテムを現実のお金と取引して儲けたりするプレイヤーを取り締まって、見つけたら罰則を与える。


 運営は、皆が同じルールの中で楽しくゲームができるように、常に世界を監視している。

 

 そしてもう一つ、MMOにはパッケージのゲームにはない特徴がある。


 それはバージョンアップだ。

 

 パッケージのゲームは一度クリアしてしまえば終わり。


 だけどMMOでは、定期的にバージョンアップが行われている。


 バージョンアップによって、新たなクエストが追加されたり、新たなマップが追加されたりしている。


 プレイヤーはバージョンアップが行われ続ける限り、そのゲームで新たな遊びが増え続け、ずっと遊び続ける事ができる。

 

 俺が始めたパストラル・クエストはMMO——他のプレイヤーと同じ世界で遊ぶRPGだ。


 そして新作とはいっても、サービス開始から2ヶ月は経っていた。


 これからこのゲームが長い年数をかけてバージョンアップを繰り返して行くということを考えると、わずか2ヶ月……なのだけれど、2ヶ月というのは、パッケージであれば、既にクリアしている人がたくさんいるような時間だ。


 何が言いたいかと言うと、俺はこのゲームに、完全に乗り遅れていた。


 このパストラルパスクエストクエには、前作となる

ゲームがある。


 その名はパストラル・テイルズ——略してパステルだ。


 このゲームでベテランプレイヤーと言われる人達は、既に前作のパステルをやりこんでいる人達だ。


 さらに、パスクエとなってからも、正式にゲームがリリースされる前のβベータテストから参加しているプレイヤーだっている。


 そんな人達と俺とは、既にかなり差がついてしまっている。

 

 これは仕方がない。


 なにしろ、このゲームを始めようと思ったのは最近なのだ。


 それまではそもそも、RPGロープレを遊ぼうなんて、カケラも思ってもいなかった。


 でも心配する必要はない。


 MMOにはレベルキャップと呼ばれるシステムがある。


 俺のように後発のプレイヤーと、先発のプレイヤーとの力の差が大きくなりすぎないようにしてくれている。


 プレイヤーがある一定のレベルまで上がると、それ以上はレベルが上がらなくなる。


 それが、レベルキャップとよばれるシステムだ。


 現在のレベルキャップは50。


 なので、どんなにレベル上げをしても、レベル50より上がる事はない。


 経験値だって、レベル50になってしまうと、それ以上はもらえない。


 とはいえ、レベルがないからといってそれで終わりというわけではない。


 俺は頑張ってレベル50まで上げれば、少なくともレベルに関しては、彼らに追いつく事ができる。


 でも、もちろんレベル50になったからと言って、それで終わりなんかじゃない。


 そこから先は、貴重なレア武器、レア防具、レア魔法、レアスキルなど、レアなアイテムを探す冒険が始まる。


 むしろ、レベル50になってからがMMOは本番だと言ってもいいだろう。

 

 ちなみにこのレベルキャップのレベル50制限は、ゲームがバージョンアップすると変更される。


 ゲームがバージョンアップされ、次のバージョンに更新された時には、レベルキャップの上限が引き上げられる。


 現在のゲームのバージョンは【パッチ1.0】だ。


 これが次のバージョンアップ時には【パッチ2.0】になる。


 そうすると、レベルの上限が50からさらに引き上げられ、再びレベルを上げる事ができるようになる。


 そんなわけで、今からなら、まだまだ上級プレイヤーに近づく事はできるだろう。

 

 ……なんて事を考えながら歩いていたら、いつの間にかVRセンターの前に来ていた。


 久しぶりに来たVRセンター〝イセカイワールド〟


 相変わらずカラオケ店だった頃の看板が残ったままの古い建物で、壁紙が所々燻んでて剥がれてたりしたままだ。


 そんな年季を感じる建物に、俺は再びやってきた。


 なんだか久しぶりに親戚の家に遊びに来た様な、懐かしい感覚がする。

 

 受付を済まして、個室の鍵とドリンクバーのコップを受け取ると、俺は慣れた足取りで個室に向かった。


 兄さんとシューティングしてた頃には、毎日のように通った店だから、自分の家の庭みたいなものだった。

 

 途中のドリンクバーでスポーツドリンクを入れて、個室に向かう。


 個室の鍵を開けて中に入り、コップをテーブルに置いた。


 実際には、ゲームしている時には、意識はバーチャル空間に行ってしまうので、ドリンクを飲んでいる時間はあまりない。


 だけど、こっちに戻ってきた時に寝汗のような汗をかいている事が多くて、起きた時に水分補給ができるように、前もってドリンクを準備しておく事にしている。


 今回は極度の集中力を要するシューティングと違って、剣と魔法のMMORPGなのだから、そんなに激しく喉が渇くような事態になる事はない……と思う。

 

 椅子に座ると、早速メニュー画面が目の前に現れた。


 俺は緊張して震える指でパストラル・クエストを選択した。


 ついに俺は、ファンタジーのゲームに来てしまった。


 あっという間に、意識が無くなった。


 気がついたら、俺は真っ暗な世界の中にいた。


 そうだった。


 最初だから、キャラメイクがあるんだ。

 

 デフォルトでは、自分の姿をスキャンした、自分とよく似た、だけど少しだけ男前イケメンなアバターの姿。


 ここからキャラメイクをして、自分のアバターをカスタマイズする。

 

 俺には前のゲームで使っていたアバターがあるから、それを使う事にする。


 VRゲームはどれも同じオペレーティングOシステムS、で動いている。


 ゲームに限らず、今や世界中のコンピュータが共通のOS——ナヴィスOSで動いている。

 

 同じナヴィスOSを使っている仮想空間だから、ゲームが違っても同じアバターを選択する事ができる。


 キャラメイクする手間が省けて楽だし、シューターで使ってた分だけ愛着もある。

 

 俺がいつも使っているのは、ちょっとリアルより前髪長めな淡くやや灰色ががった水色フロスティブルーの髪と、少し暗い灰色みのある黄緑オリーブグリーンの瞳をしたキャラ。


 この姿で今度はファンタジーの世界を冒険できるのは、少し嬉しい。

 

 アバターの見た目を決定したら、次は名前の選択になった。

 

 名前の方も、ショーティングで使っていた名前と同じ名前——ミナトにした。

 

 海兎かいと兄さんだって、アバターの名前はカイトだったから、兄弟揃って捻りのないネーミングだ。


 でも今さら、〝アーデルハイト〟とか〝イシュトヴァーン〟とか、横文字系の名前を付けるのは、なんか恥ずかしい。


 ミナトという名前がファンタジーの世界に合うかどうかはわからないけど、気にしない事にする。

 

 名前を決めたら、空中に浮かんだ『スタート』の文字をタップする。

 


 < Welcome to Pstoral Quest >



 目の前に文字が現れて消える。


 真っ暗なキャラメイク画面の中にいたはずの俺は、突然、ファンタジー感あふれる西洋風の建物がひしめく街の中に瞬間移動していた。


 いよいよいよいよゲームスタートだ。

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