第21話 ハルI
シアと別れた俺はとりあえず北へ向かって進んだ。
ネオンライツの人達がどこから襲って来るか予想が出来ないから、なるべく街道や開けた場所を避けて、木の影や岩の影に隠れながら、少しずつ進んで行った。
だが、ある程度進んだ所で隠れる物が無くなった。
前方には、見渡す限りの砂。
果てしない砂漠が広がっている。
マップを確認してみると、砂漠エリアはかなり広い。
とは言え、迂回しようと思えば出来ないほどの広さではない。
例えるなら、このPVPエリア全体が一つのゴルフコースとすれば、砂漠エリアはバンカーと言った感じ。
ただ北に向かいたいだけなら、砂漠を迂回するという手もありだと思う。
だが、その必要はなさそうだ。
俺の目的は、アッシュ達のチームとの対戦。
できれば一人ずつと戦いたいから、敵がまとまっている所は避けて、単独でいる人からせめて行きたい。
そして、できれば相手が気づいていない所から奇襲できるのが最善策だ。
砂漠では隠れる場所がないから奇襲は難しいだろう。
だが、それは相手も同じ。
見渡す限りの砂漠なら、こちらが予期せぬ所に別の敵が潜んでいたりする可能性は少ないだろう。
だったら迂回しなくても、あえて砂漠を進んで行くのも良いだらう。
そして何より、視界の先に見える物が気になっていた。
砂漠の先に、何かが浮かんでいる。
遠目で見ているから、今は小さく見える。
けど、おそらくはかなり大きな、鳥のような物が浮かんでいる。
それはおそらく、何十人も乗せられる様な、大きな鳥の
鳥の上には、人が一人乗っている。
おそらく、アッシュのギルドメンバーの一人だ。
わざわざ視界の開けた砂漠のど真ん中で、巨大な鳥の
周囲を警戒していたらわざわざそんな事はしないだろう。
誘っているんだ……俺を。
だったら、誘いに乗ってみるのも良いだろう。
俺は砂漠に足を踏み入れた。
砂漠は砂が足に絡みついて、うまく歩けない。
早く相手の元に行こうと思ったのに、全然進まない。
もはや奇襲どころじゃなかった。
ひたすら砂と格闘しながら歩いている俺を見つけたのだろう。
巨大な鳥の
近づいて来る程に、その鳥の巨大さが分かった。
なんてでかいんだ……
あの鳥、ちょっとした学校のグラウンドくらいの大きさはある。
ちょうど鳥が真上に来た時、俺の身体が光に包まれた。
転送魔法だ。
俺は、気がつくと鳥の身体の上に転送していた。
「やあ、君がミナトだね」
目の前にいたのは、爽やかな笑顔を見せて青年だった。
「すごい
「ああ。課金アイテムだよ。高かったんだ」
その人は、
「僕はネオンライツの一人、
「ミナトだ……」
爽やかな笑顔を振り撒く青年、ハル。
砂漠に足を取られていた俺を奇襲するでもなくマウントの上に上げて、いきなりバトルになるかと思いきや、わざわざ自己紹介までしてくる……礼儀正しい人だ。
むしろ俺の方はどうやって奇襲しようか考えてたくらいなので、今は少々面食らっている。
ネオンライツの人達はみんなこんな礼儀正しいんだろうか……
兄さんとシューターやってた時は、油断してたら相手の背後から頭を狙って奇襲されるのが常だった。
そんな相手とやり合ってばかりいたせいで、俺は荒んでいたのかも知れない。
「僕はね、このゲームが好きなんだ。まるでもう一つの現実があるみたいじゃないか。もう一人の自分が、今と違う人生を生きてるって感じがするんだ」
ハルは
この人、話し好きなのだろうか……俺としては早く戦いを始めたいんだが……
「あ、もちろん、
俺でもその名を聞いたことがある。
「まあ、ホストと言ったって、全然人気ないんだけどね……
澪というひとが誰かは知らないが、アバターのハルの見た目は悪くない。
ホストやってるくらいだから、
「この鳥の
どうやら、澪という人は、かなりのお金持ちらしい。
ホストだけあって、ねだるのは得意なのだろう。
いや、そんな事はいい。
俺たちは
「分かったから、さっさとと始めよう」
焦ってるわけではないが、ハルのペースに巻き込まれている気がする。
ハルはふぁさ……と金色の前髪を掻き上げると、右の手を前に出した。
ハルの右手に、光り輝く、豪華な装飾が付いた細身の剣が現れた。
「まあまあ、そう慌てないでよ。見てよこの剣。これも澪に貰ったんだ。高かったんだけど、気に入っているんだ」
ハルが手にしているそれは、高額課金アイテムの武器。
その名もゴールデンエクスカリバー。
「じゃあ、始めようか」
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