第17話 古戦場I

 俺たちはアッシュの転送魔法により、古戦場跡と呼ばれる場所に来ていた。


 砂と岩と瓦礫と、壊れた遺跡といった、荒廃した景色がずっと続く。


「ミナト、今からルールを説明する。良いか?」


 アッシュは先程まで普通の布でできた服だったが、今はドワーフらしい全身鎧兜の装備に変わっていた。


「ああ、構わない」


「今から、ミナトのチームとわしのギルドメンバーでPVPバトルを行う」


「俺のチーム?」


「ああ。ミナトはシアとチームだ」


「なるほど」


わしの方は、ギルドメンバー全員がチームになる」


 何か、人数差多くないか……

 

 小声でシアに聞く。


「アッシュのギルドって……何人なんだ?」


「んと……戦闘できるメンバーはアッシュを入れて……四人」


 四人か……思ったよりは少ないか。


 少なくとも、大人数からタコ殴りに合うと言う事にはならなそうで、少しホッとした。


 だからと言って……


「さすがに俺たち二人と、そちらの全員とでは実力差がありすぎる気がするんだが……俺はまだレベル10だし」


 アッシュの目がキラリと光った気がした。


「なに、レベル差は気にする必要は無い。このPVPエリアではレベルシンクを設定してある。今回は全員、ミナトに合わせてレベル10で戦う事になる」


 全員が俺と同じレベル10……だとしたらあとは純粋に実力の差って事か……


「それとな、ここでは特別ルールを設けてある。ここでは、HPヒットポイントに関係なく、一度でも攻撃がヒットしたら勝ちとする」


「どんな攻撃でも?」


「そうだ。ミナトはうちのメンバー全員に、一度でも攻撃をヒットさせれば良い。こちらはこちらで、ミナトとシアにどんな攻撃でも良いから一撃ヒットさせれば勝ちだ」


「なるほど……な」


 俺とシアはアッシュのギルドメンバーを探し出して、四人全員に攻撃を当てれば良いのか。


「それにこれはあくまで自己紹介のためのゲームだ。まあそんなに硬く考えずに、練習試合だとでも思ってくれ」


「わかった。やってみる」


「準備ができたら言ってくれ。ミナト達を南の端にあるスタート地点ポイントである小屋に飛ばす。わしらは北の端にあるポイントからスタートする。スタートしたら後は勝敗が着くまでお互いバトルするだけだ」


「わかった……シア、ちょっと良いか?」


「うん。何?」


「アッシュのギルドメンバーは強いのか?」


 シアは、こくりと頷いた。


「強い。アッシュのギルド【ネオンライツ】のメンバーは、人数は少ないけど、いつもギルドランキングでは上位にいる。油断してはダメ」


 そっか……強いのか。


 だが、俺は何故かその言葉を聞いて、久しぶりに身体が疼く感覚がしていた。


 まだ会った事がない、しかも強いらしい敵との戦闘を前に、俺の心は不思議と昂っている。

 何だろうこの感じ、とても懐かしい気分だ。


 ……ああ、そうか。


 兄さんとシューターをやっていた頃は、いつもこんな気分だった。


 俺は今、兄さんとシューターやってた頃を懐かしく思い出している……のかもしれない。


 これから激しいバトルが始まると言う予感。緊張感。銃身を持つ手が、弾をこめる指が震える感じ。


 あの時の感覚に近いものを今感じているんだ。


 シアの方を見る。


 シアは真顔でこくりと頷いた。


 シアの方もやる気充分な感じに見える。


 なら、ひとつやってやるか。


「準備OKだ。いつでもバトル開始してくれ」


 アッシュに告げる。


「ほう、二人とも、良い顔つきだ。良い戦いになりそうだな。よし、では二人をスタート地点ポイントに転送する。それが合図だ」


 俺とシアは頷いた。


 俺たちは転送の魔法で古戦場跡の南にある小屋の中に転移した。


 PVPが始まった。


「みゅ!」


 足元をみると、うーたんが鳴いていた。


「お前も転送してきたのか。うーたん、少しの間、この小屋で待っていてくれ。俺たちは戦闘PVPに行ってくる」


「みゅ……」


 うーたんは少し寂しそうに鳴いた。


 小屋の中央にあるテーブルの上にちょんと乗っかる。


「みゅー!」


 テーブルの上からうーたんは、まるで俺たちを励ます様に一際大きな声で鳴いた。


 そして、テーブルの上からは動かず、じっとしてくれていた。


「良い子だな。行ってくるよ」


 俺とシアはうーたんに束の間の別れを告げると、小屋を飛び出した。


「ミナト、一旦あの遺跡に向かって走って!」


 シアがそう言って、遠くに見える石でできた遺跡の跡地を指差した。


 マップで言うと南東方向。


 小屋のあるスタートポイントからは、アッシュ達のスタートポイントとは逆方向に向かう事になる。


「わかった」


 俺はシアと共に走って遺跡に向かった。


 遺跡の跡地は、かつては大きなパルテノン神殿のような石作りの荘厳な建物が建っていたと思われるが、今はただの石の廃墟と化した感じだった。


 だが、隠れるには丁度良い。


 俺とシアは手近にある倒れた柱と壁の影になっている場所に身を潜めるようにしゃがんだ。


「なんでここに?向こうもまだスタートしたばかりだろ。お互いまだスタートポイントにいるんだったら急がなくても……」


 俺はさっきから疑問に思っていた事を聞いてみた。


「あそこにいたら、危険。だから一旦、作戦を立てるためにここに隠れる事にした」


「危険……」


 転送魔法でこっちまで一気に来るのか……それとも遠隔攻撃を仕掛けてくるのか……わからないがシアがそう判断したのなら、何かしら仕掛けてくるって事だろう。


「どう言う攻撃をかけてくるんだ?」


「それは……言えない」


「言えない?」


「言っちゃダメって言われてる。わたしはもちろん、アッシュのギルドメンバーとは会った事あるし、今日みたいにPVPをした事があるから、手の内は一応知ってる」


「ああ」


「でもこれは、ミナトの戦い。ミナトが自分であの人たちを見て、知って、戦って初めて自己紹介になる。だから、今はまだ何も言えない」


「そうか……分かった」


「それと……」


 それと?


「わたしは、おそらくミナトのサポートはできない」


「どうして?」


「わたしも、自分の方で手一杯になる。その代わり、一人はわたしが引き受けるから」


 一人をシアが引き受ける……つまり、シアはその一人と戦い、残りの三人とは俺が戦うって事か……荷が重い……な……


 だが、シアはその一人だけで手一杯と言う事は、それだけの相手って事なんだろう。


 シアがそう言うと言う事はそれが最善の手だと言う事になる。


 なら、俺はそれでやるしか無い。


「わかった。三人を相手にどこまでやれるかわからないが、やってみる」


「あ、わたしがやられたら、もう一人もお願い」


「まて、それは無茶だ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る