第18話 古戦場II
その時だった。
遠くで何かが爆発する音が聞こえた。
「来た……」
シアの表情が険しくなる。
「今のは……⁈」
「多分……あの子が来た」
あの子とは誰だかは分からないが、アッシュ達のギルドメンバーの一人の事だろうか。
それにしても、爆発はどこで起きたんだ。
音がした方角を考えると……まさか、スタート
だとしたら、うーたんは無事だろうか……?
「まさか、シアは知っていたのか⁈あのスタート
シアは首を横に振る。
「わたしも、流石にそれは無いと思っていた……でも念には念を入れてこっちに避難する方が良い気がした……」
「そうか……」
「まさか、本当に奇襲してくるなんて……」
まだスタートしたばかりなのに、どうやってここまで移動したんだ……移動魔法か?
まあ、考えてもわかるはずがないことではある。
「これからどうする?」
敵の奇襲を逃れられたのは僥倖ではあったが、この
どの道戦わなければ勝つ事も無い。
ならば、敵の方から出てきてくれたのはこちらにとっても都合が良いのではないだろうか。
おそらく奇襲をかけてきた敵は単騎……もしくは少数だろう。
全員で奇襲してきている可能性も無くはないが、敵のレベルは俺に合わせてレベル10になっているはずだから、全員を一度に転送させるなんて出来ない……と思う。
だったら、敵が分断したこのタイミングで、奇襲してきた敵にこちらは二人で逆に奇襲を仕掛け返すのも一つの手だろう……と思った。
——そう思ったが、シアの答えは俺とは違っていた。
「あの子はわたしが引き受ける。わたしがあの子を引きつけるから、ミナトは今のうちに他のメンバーを倒しに向かって」
「……いいのか?」
シアは頷いた。
「あの子はおそらく、ミナトと同じ攻撃魔法使い。ミナトとは相性が悪い。だからあの子の相手はわたし。そして、敵がわたしたちの戦闘に気を取られているうちにミナトは敵の懐に潜り込んで」
シアがそう判断したのなら、その方が成功率が高いと言う事だろう。
「おそらくそれしか勝ち目は無い……」
シアはシアなりに俺とシアの実力を考慮して、勝つための戦略を組んでくれていたんだ。
だから俺はそのシアの案に乗る事にした。
もっとも、この時シアは一つ思い違いをしていた。
俺たちの実力はアッシュのギルドメンバー達より下だと、彼らに勝つのは至難の業で、この様な策を立てないと勝てる筈は無いと考えていた。
シアですら、わからなかったんだ。
だけどアッシュはこの時気づいていたんだろう。
本当は、そうじゃないって事に。
俺たちの実力は、圧倒的にアッシュ達のギルドメンバーより上だったって事に。
人数差をこれだけつけても、本気でやらなければ勝てないのはアッシュ達の方だって事に。
アッシュは、俺と兄さんのアストラル・アスターでのゲームの様子を配信で見ていた
だから知っていたんだ。
だけど、シアはもちろん、当の本人である俺ですらも、この時はそんな事全然思っていなかった。
だってそうだろう。
シアは高レベルプレイヤーでレベル50とは言え、本来は戦闘に向かない
なぜかヒーラーにしてはやたら強い攻撃魔法を使ってたけど……
そして俺は、まだゲームを始めたばかりだし、レベルも10になったばかり。
はっきり言って素人だ。
だから、ただ必死だった。
「ミナト、これを使って」
シアはアイテムボックスから派手な装丁の分厚いハードカバーの本を取り出して、俺に渡した。
「これは……」
「魔導書。ミナトはまだ覚えてる魔法少ないから、少しでも使える魔法が多い方がいい。この魔導書には中級レベルの魔法が幾つか入ってる」
「あ、ありがとう」
このゲームのスキルや魔法には二種類ある。
一つは、
それは現在のレベルと対になっていて、レベルが上がれば使えるようになる。
俺で言うと、
これらはレベルシンクなどでレベルが下がれば、使えなくなる。
もう一つは、魔導書などのアイテムやクエストで覚える事ができるスキルや魔法。
これらはレベルが上がっても自動的に覚えられる訳ではなく、アイテムを手に入れたりクエストをこなして手に入れなければならない。
そのかわり、レベルに関わらず使える事になる。
俺で言えば、シークレット・スキル【ノートリアス・シーカー】なんかそうだ。
レベルが低い俺でも使えるのはそう言う事だ。
シアもアッシュのギルドメンバーも、それらのスキルやら魔法を多く持っているのだろう。
だから、俺と同じレベル10でも、圧倒的に俺より使えるスキルや魔法が多い。
現に敵の一人はスタート
転送魔法は、本来ならレベル10で使える筈は無いのだが、使えていると言う事は、何かしらそう言った類のレアな魔法を覚えていると言う事だろう。
だが、俺にあるのは通常の攻撃魔法と【ノートリアス・シーカー】のみ。
そして、【ノートリアス・シーカー】はおそらく戦闘には向かない。
ノートリアス・モンスターを発見するためのスキルだからだ。
そんな俺のスキル不足を案じて、シアは手持ちのアイテムを譲ってくれた。
魔導書を開くと、光り輝くエフェクトが魔導書から放たれ、目の前に幾つかの魔法を習得したというシステムメッセージが表示された。
中級魔法とは言え、まだ俺のレベルでは本来の威力を出す事は出来ないから、攻撃力が上がった訳では無いのだが、使える手札が増えたのはありがたい。
「行って、ミナト。今のうちに……」
「わかった。シアも気をつけて」
「うん」
俺たちは二手に分かれた。
シアは奇襲してきた敵に向かって、俺はまだ見ぬ他の敵に向かって、駆け出して行った。
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