第19話 古戦場III

 わたしはミナトと別れ、さっき爆発があった場所——スタート地点ポイントの小屋があった場所——に向かって走った。


「みゅー」


 見知ったカーバンクルがわたしを見つけるなり飛び跳ねる様にやってきた。


 うーたん。


 ミナトのペットだ。


 抱き抱えると、うーたんはわたしの胸の中に顔を埋める様に甘えてきた。


「ここまで逃げてきたの?えらいね。よしよし」


 頭を撫でると、うーたんは気持ちよさそうに目をつぶった。


 少しの間うーたんを抱いていたけど、意を決してうーたんをそっと地面に置いた。


「うーたん、少しの間、隠れていてね。わたしはやらなければいけない事があるの」


「みゅ」


 うーたんは短く一つ鳴くと、ささっと木の影に隠れて行った。


 賢い子。飼い主のミナトに似てる。


 ミナト……


 わたしと同じ位の歳だと思う。


 まだこのゲームの中では初心者冒険者プレイヤーで、レベルだってまだ10なのに、もうすでに誰もが一目置いている。


 何だろう……


 よくわからない……


 それに、出会ったばかりなのにどこか知ってる感じがする。


 もしかして、現実リアルであった事があるのかも……


 そういえば、学校でクラスメイトにみなとと言う名の男子生徒がいた……気がする。


 まさかと思うけど……彼がミナト……だったり……なんて。


 そんな訳……ないか。


 ゲームの中の知り合いが現実リアルで同じ学校の生徒なんて、そんな都合の良い事、そうそう起こるはずない。


 ……ここには一人いるけど。


 わたしは、爆破されたスタート地点ポイントの付近までやってきた。


 爆発されて見事に粉々の木片と化した小屋の残骸が散らばる中、その人はいた。


 爆発に巻き込まれて倒れた木の幹の上に優雅に座って、笑みを浮かべながらこちらを見つめる少女。


 舞夏マイカ先輩。


 否、ゲームの中では——マイカ。


 あの人は、この場所でずっとわたしを待っていた。


 わたしがくるのを確信して、わざわざ派手に爆破系魔法で爆発させたのは奇襲ではない。


 わたしと一対一サシでやり合いたいから、ここにいるとわたしに居場所を教える為。


 分かってる。


 マイカはいつもそうだ。


 だからわたしは、その誘いに乗った。


 ミナトを先に行かせて、わたしはマイカとの決着を着ける事にした。


「マイカ——やっぱりここにいた」


 マイカは口元に手を当てて、クスッと笑っていた。


 腰まである少し紫の入った鮮やかな赤ローズレッドの髪がふわりと揺れる


「シアなら、わたくしの誘いに乗って来てくれると思いましたわ」


 マイカは、羽の生えた背の小さい妖精族フェアリスの姿をしたアバターで、見た目に可愛らしく、そのお嬢様言葉と相まって男性陣の人気が高い。


 見た目地味で陰なわたしと比べると、明らかに陽の人。


 だけど、いざ戦闘バトルになると、容赦無く攻撃魔法をぶっ放す攻撃的な魔術師ウィッチ


 味方としてはこれ以上ないくらい頼りになるけど、対戦PVPとなると、とても厄介な相手。


「嬉しいですわ。久しぶりにシアと思い切り対戦出来るのですわね。手加減は無しですわね」


 マイカのやや紫の入った鮮やかな赤ルビーレッドの瞳が光を帯びた。


「それはこちらの台詞セリフ。でもわたしは負ける訳にはいかない」


 マイカは油断している。


 仕掛けるなら今しか無い。


氷戟パゴディオ!」


 わたしは叫んで腕を伸ばす。


 空気が凍てつき、わたしの腕の先から無薄の氷の刃が生まれる。


 氷の刃はマイカに向かって飛んでいった。


 やっ……た?


 駄目。


 マイカの体の周りに、風が強く吹いている。


 その風は強く、わたしの放った氷戟パゴディオは風に流された。


 マイカには命中しないで、掠めて飛んで行ったり、地面に突き刺さったりしていく。


「ふふ、いきなり攻撃してくるなんて、卑怯ですわね」


 マイカは笑いながら言う。


 やっぱり、強い……レベルシンクで全員同じレベル10になっているはずなのに、マイカは余裕でまだ倒れた木の幹に腰掛けたまま。


 わたしの渾身の攻撃魔法が、全く通じてない。


 だったら……早いけど奥の手を使うしかない。


オルフェン!」


 マイカの周りの地面に黒い影が現れて、ぽっかりと穴が空いた様な、闇が出現する。


 マイカのいた一帯の地面が闇に呑まれる。


 マイカの座っていた木の幹は闇に呑まれて沈んで行った。


 マイカはふわり飛び上がる。


 妖精族フェアリスの姿をしているマイカは、人間の姿の私たちより軽く、軽やかに飛び上がる。


 そのまま背中の羽を使って、空に留まる。


「あっぶないですわね……さすがはシアですわ」


「……今のも自信あったのに」


回復師ヒーラーなのに氷戟パゴディオとかオルフェンとか、上位攻撃魔法を使いこなすなんてあなたくらいですわ……さすがは、漆黒の聖女ですわね」


 褒められたけど、素直に喜んではいられない。


「そんなわたしの攻撃を簡単に躱すのもマイカくらい」


 ミナトの負担になりたくない。


 何とか、マイカはここでわたしが倒さないと。


 だけど、そんなわたしの胸中を咲うように……マイカは——


「では、わたくしも奥の手を出させて頂きますわ……レアスキル【玫瑰風月まいかいふうげつ】!」


 レアスキル……そんなの聞いてない……

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