第39話 アッシュⅡ

「まあ、他にも細かいルールはあるが、習うより慣れろだ。後は試合中にシアに聞くと良い」


 俺たちの前に、13枚の麻雀牌が現れた。


 これが手牌か。


 この手配に、引いてきた1枚を加えて14枚の牌で役を完成させればいいんだな。


「ミナトとシアの方は好きな様に作戦タイムを取ってくれて構わない。その際は聞こえない様に別部屋に移動して構わないぞ。こちらは作戦タイム無しにしておく。まあ、ハンデだな」


「分かった」


「では、始めるとしよう」


 こうして略式麻雀大会が始まった。


 それにしても、シアが麻雀できるとは意外だった。


 この試合、麻雀がわからないのは俺だけか——


 ……


 ……ん?


 考えてみたら、この戦いPVPはあくまでも自己紹介。


 勝っても負けても、特にペナルティがあるわけじゃない。


 そして、今はその最終戦。


 ここに俺とシアがいて、向こうには残り二人のマイカとアッシュがいて……


 つまり、これで全員出揃った訳だから、自己紹介としてはもう済んだわけだ。


 つまり、俺は、この試合にどうしても勝たなきゃいけない訳じゃない。


 と言う事は、この麻雀は……何のためにやっているんだ?


 ……


 ……ま……まてよ…… 


 ……いや、まさか……


 この人たち……ただ、麻雀やりたいだけなのではないか……


 ……いや、考えるのは止そう。


 俺は頭を振って、雑念を振り払った。


「ミナト……どうしたの?」


 シアが心配そうに俺を見ている。


「い、いや、何でもない。試合に集中しよう。シア、俺の手配を見てくれないか」


 俺は、配牌された自分の手配をシアに確認してもらった。


「シア……どうかな?」


 シアは少し考えた後、片手を上げた。


「ん……少し作戦タイム」


「ああ、良いぜ」


 アッシュが頷く。


 俺とシアは移動魔法でテレポートして、作戦会議フロアに移動した。


 作戦会議フロアは、小さな会議室の様な場所だった。


「ミナト……今回のミナトの手はあまり良くない」


「そうなのか」


「うん。役にはちょっと遠そう」


「そうか」


「ミナトはまず、勝つことより、相手に振り込まない事を考えて」


「振り込まない……事?」


「うん。門前清自摸メンゼンツモと言って、手配から上がった場合、他の全員から割り勘で上がった分の点数をもらえる。でも、栄和ロンと言って、捨て牌で上がられてしまうと、上りの点数をその人が全て払う事になる」


「そうなのか」


「うん。今回わたしが攻めるから、ミナトは負けない様に相手の危険牌をなるべく捨てない様に気をつけて」


「分かった」


 危険牌に関しては、牌に印が付いて、危険度がわかる様になっている。


 もちろん、この危険度の印は俺にしか見えない。


 初心者用のナビらしいが、ゲームの良いところだな。


 現実の麻雀ではこうは行かない。


「でも、ミナト。もし作れそうな手が見えたら、遠慮なく勝負して良い」


「良いのか?危険牌がもし含まれてたら?」


「その判断はミナトに任せる。大丈夫。この試合、お金はかかって無いから、負けても良い」


「そうか。なら、張れそうなら、遠慮なく張らせてもらう」


 シアが頷く。


 この試合、どう考えても俺は武が悪い。


 麻雀は運のゲームだが、かと言って実力差が出ないゲームではない……らしい。


 作戦タイムは終了し、俺たちは卓に戻った。


 試合が再開された。


 俺はまず、役一覧表を見ながら役が出来そうか確認して、作れそうな手がない事を確認したら、危険牌の印が付いてない牌を捨てる。


 シアは自分の手牌と俺の手牌を確認しながら役を作って行く。


 だが、シアが役を完成させる前に、マイカが上がった。


「お二方、悪いですわね。わたくしの摸和ツモですわ」


 門前清自摸和めんぜんツモ立直リーチ


 1翻の役と1翻の役だ。


 合計2000点。


 俺とシアのHPがそれぞれ1000削られ、マイカに2000HPが加えられた。

 

 マイカは軽い手で早く上がってくる作戦なのか。


 だが、まあ、いいだろう。


 1000HPが削られる位なら、まだ痛くは無い……だろう。


第1試合

————————————

●チームミナト

ミナト24,000(-1000)

シア24,000(-1000)

合計48,000


●チームアッシュ

アッシュ25,000

マイカ27,000(+2000)

合計52,000

————————————



 そして第二試合。


 この試合もマイカが先に上がった。


 今度は先ほどの門前清自摸和めんぜんツモ立直リーチ平和ピンフが加わる。



 今度も安い点で上がられてしまい、シアは役を上手く完成させられなかった。


 俺とシアは1500HPをマイカに支払った。


第2試合

————————————

●チームミナト

ミナト22,500(-1500)

シア22,500(-1500)

合計45,000


●チームアッシュ

アッシュ25,000

マイカ30,000(+3000)

合計55,000

————————————



 続く第3試合。


「ロンですわ……ミナトさん、頂きますわ」 


 今度は、俺の捨て牌がマイカに鳴かれて、ロン上がりされてしまった。


 断么九タンヤオ三色同順さんしょくどうじゅん


 断么九タンヤオは1と9の牌を使わず、2から8の牌だけで役で作る。


 これも安い手だった。


 そして三色同順さんしょくどうじゅんは同じ並びの順子シュンツを、萬子マンズ筒子ピンズ索子ソーズをそれぞれ使って3組作る役だ。


 2翻の役だが、鳴くと1翻下がって1翻となる。


 1翻の断么九タンヤオと1翻の三色同順さんしょくどうじゅんの組み合わせで2000点。


 だが、俺から直接2000点を奪うこの手は、今までの安い手の連続と組み合わせられると、そろそろ痛手になっていた。


 麻雀は確かに運のゲームだが、戦略と実力は確実に効果を得る。


 つまり、俺たちはマイカの戦略にやられていた。


 軽い手の連続で削られて、それを取り返すために大きな手を打とうとするとそれを封じられる。


 主にシアが攻めて俺が避けると言うこちらの戦略は、マイカの安い手によって阻まれていた。


第3試合

————————————

●チームミナト

ミナト20,500(-2000)

シア22,500

合計43,000


●チームアッシュ

アッシュ25,000

マイカ32,000(+2000)

合計57,000

————————————


 そして、始まった第四試合。


 マイカに気を取られていた事により、俺たちは見落としていた。


「ロン。悪いなミナト、混一色ホンイツだ」


「しまった……」


 シアが悔しそうに呟いた。


混一色ホンイツ


 同じ種類の数牌シューハイと字牌のみで作る、3翻の役だ。

 鳴いた事により1翻下がって、2翻となった。


 更にアッシュの混一色ホンイツには、字牌でも刻子コーツを完成させていた。


 字牌の刻子コーツで1翻の役牌が加わった事により、3翻。


 俺は捨て牌をロンされたので、3000HPをアッシュに支払う。


 マイカに負け続けている中でのアッシュの上がりは、点数的にも精神的にも痛手だった。


「ごめん……マイカの役に気を取られて、アッシュが同じ牌を揃えてだ事を見逃してた……わたしのミス」

 

 いつも冷静なシアに、焦りの色がはっきりと見えた。


「シア……君のせいじゃない、まだ勝負はおわっちゃいないさ。後半がんばろう」


「うん」


 俺の励ましに、シアは力なく頷いた。


 俺たちは、どんどん悪い流れに飲み込まれていだ。


 だが、次の試合で……風向きが変わった。


 そう、俺たちにも運が向いてきたんだ。


第4試合

————————————

●チームミナト

ミナト17,500(-3000)

シア22,500

合計40,000


●チームアッシュ

アッシュ28,000(+3000)

マイカ32,000

合計60,000

————————————

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る