第15話 アッシュ
「シアが所属していたギルド?」
「うん。わたしがいたギルドはもう解散して無いけど、その時のギルドメンバーの一人が新たなギルドを結成して、
シアの顔がいつになく熱を帯びている。
普段あまり感情を出さないシアにしては、かなりの熱の入り様に思える。
シアは話を続ける。
「そのギルドは人数は少ないけど、雰囲気良いし、大手ギルドの様に面倒なしがらみやルールなんかは無いし、何よりギルマスはわたしがよく知ってる人だから、信頼できる」
シアがそこまでいうのだから、よほど信頼しているのだろう。
なら俺も信頼して良いだろう。
「ミナトがそこを気に入ったなら、ずっと居ても良いと思うし、軽い気持ちで入って、もし合わなかったら辞めても良い」
なるほど、どうせ先ずはお試しでどこかのギルドに入るのなら、せっかくなら安心できる所が良い。
そもそも、他のギルドの事は全然分からないのだから、全く知らない所にいきなり入って思ってのと違うなとなる位ならシアの誘いの方に乗った方が良いだろう。
「それと、あの人ならきっと、ミナトが自分でギルドを立ち上げたいって思った時、協力してくれる」
「自分のギルド……か」
「うん。普通はギルドに入っている人が、メンバーを連れて独立するのは嫌がるから、抜けない様に嫌がらせしたりする人も多い」
「そうなのか」
「うん。ギルマスが性格悪いと、なかなか抜けさせてくれない。その時のごたごたで残った人の関係性も悪化して、結局、解散してしまうギルドもある。でも、あの人はそういう人じゃない。むしろ、助けてくれるはず。そういう人」
どうやら、シアの知り合いのギルマは、なかなかのお人好しの様だ。
そもそも俺は独立したいと言う気は、今の所全く無い。
無いのだが、もしこの先そう言う事があるなら、確かに、関係を悪くするよりは協力関係を続けて行けた方が良いだろう。
「なるほど、悪い話じゃなさそうだ」
「そうでしょ、わたしが保証する。だから、考えてみて欲しい。もし入ってみて上手くいかなかったら、その時はわたしが話をつける」
「ま、まあ、入るかどうか決めるのは自分の意思だから、そこまでしてもらう必要は無いんだが……で、どうすればいい?」
「実はもう、話をつけてある。ギルマスに会ってみて欲しい」
「ああ、って……今から?」
「うん。いいかな?」
いきなりの展開に少々面くらい気味だが、まあ良いか。このままこの冒険者ギルドにいても仕方ないし、さっきから俺達を一目見ようと野次馬
今日はどこに行っても注目を浴びてしまいそうだから、何処かに避難したい所だ。
「わかった。ギルマスに会いに行こう」
「決まり。じゃあ、わたしに掴まって」
シアは立ち上がった。
俺も席を立ち、二人で食器を返却コーナーに置きにいく。
VRなので食器の返却とかする必要は本当はない。
やらなくてもNPCの店員が片付けてくれるのだ。
外国人と思われる
食器を返却コーナーに戻して、シアは手を差し出してきた。
俺はシアの手を握る。
手を握るとシアの体温が伝わってきて、少し照れくさい。
付き合ってる訳でも無いのに手を握るのも……と言う気はするが、他に思いつかないんだ。
転送の魔法で一緒に転送される時は、身体のどこに触れてても良いらしい。
だけどいざ、どこかに触れるとなると、案外気を使う。
だったら、他の人達がこういう時にどうしてるのかは知らないが、俺としては結局は手を握るのが一番無難だろうと思う。、
シアも手を握る事は嫌がってないし。
まあ、顔を赤らめたりもしてくれてないが。
「みゅ」
うーたんはシアの足にしがみついている。
うーたん、すっかりシアに懐いているな。
シアは脚にしがみついたうーたんを微笑ましく見つめた後、俺の方に向き直った。
「じゃあ行くね……
シアが転送魔法を使うと、周りの景色が一瞬にして変わった。
さっきまで冒険者ギルドの隅の席にいた俺たちは、一瞬で別の部屋の中に移動した。
石でできた壁と床。
部屋の中は薄暗く、蝋燭と間接照明の照明魔法が薄ぼんやりとした明かりを灯す、地下室の様な場所。
木でできたカウンターとテーブル、椅子があり、カウンターの奥には酒瓶がびっしりと並んだ棚。
どうやらどこかの地下のバーの様な場所だ。
「ここは……」
「ここは、ギルマス——アッシュのお店」
俺は未成年なので当然、
ゲームの中だったら実際にアルコールを摂取する訳じゃないから行っちゃダメという訳では無いのだが、そもそもお酒を飲めないのに行く理由がない。
当然ゲーム内でもバーには無縁だった。
「おお、よく来たな!シアと……それから、お前さん、ミナトだな!」
よく通る大きな声で呼ばれた。
声の主は奥の扉を開けて、奥の部屋から俺たちの方にやってきた。
俺の身長より小さな身体は、でっぷりと太っていて、顔の半分は髭に覆われたおっさん。
見た目から、ドワーフだと思う。
おっさんは、木でできたジョッキを手にしている。
「まあ、適当に座ってくれ」
ドワーフに促されて、俺とシアはカウンターに座った。
「この人が、アッシュ。ギルド〝ネオンライツ〟のギルマスで、リアルでもバーのマスターをやってるひと」
シアにアッシュと呼ばれたドワーフのおっさんは、腰に手を当てて大きく口を開けて豪快に笑った。
人の良さそうな感じがする。
俺はアッシュに軽く頭を下げた。
「なに、硬くならんで良いぞ。なんか飲むか?」
「わたしはオレンジジュース」
「おう、シアはいつものだな。ミナトはどうする?
「では、炭酸水はありますか?なければ水でも良いです」
「それならいくらでもあるぞ。炭酸は炭酸割りやハイボールで使うからな」
アッシュ慣れた手つきで、小さいコップにシアのオレンジジュースと、大きめのグラスに俺の炭酸水を注いでカウンターに置いた。
「ありがとうございます、頂きます」
炭酸水を一口飲む。
普通の炭酸水だ。炭酸強めで口の中がシュワシュワして気持ちいい。
「じゃあ、本題といこうか。ミナト、お前さんの戦いはさっきリプレイで見させて貰ったよ。なかなか良い筋をしている。どうだ、
俺を見つめるアッシュの目は真剣そのものだった。
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