第41話 アッシュⅣ
俺の手配は、東西南北白発中の牌が一つづつ。
あとは数字がバラバラで、
だが、この字牌の並びは……行けるかもしれない。
シアは何も言わずに俺に任せてくれた。
なら、やってみるしかない。
俺は要らない数牌を次々に捨てて行った。
1と9の牌が来た時だけ手元に残して行く。
麻雀において、基本的には同じ牌を3つか4つ、或いは連続した数字の牌を3つ揃える事で役が出来る。
だが例外もある。
例えば同じ牌を全て
俺が今揃えようとしているのもまた、例外の揃え方をする役だった。
特異な揃え方をしなければ完成しない役と言うのはそもそも、揃う確率は非常に低い。
だが、だからこそ揃った時の点数が高く設定されている。
通常の麻雀であればそれらの高い役ばかりを狙っていては勝つことはできない。
まずはどんな役でも良いから完成させないと意味がない。
その上で如何に上がった時の点数を高く出来るかが重要となる。
だから難しい役の一点張りは決して褒められた戦略ではないだろう。
だが、ここが麻雀の面白い所で、人はそれが難しと分かっていても勝負を仕掛けたくなる瞬間というのが存在する。
特に麻雀において、全ての字牌が一通り揃っている手牌を見てしまった時、それが難しいと分かっていても勝負を仕掛けたくなる役……と言うのがあるのだ。
ましてや、この略式麻雀ルールではドラなどのバフ要素がない為、高い点数にしたければ必然的に高い役を狙って行く必要がある。
今の俺には、それ以上の理由は存在しない。
おそらくシアに俺の牌を見せたとしても、俺の狙いを察した上で、止める事はしないだろう。
だがシアは、見なくても信用してくれたのだ。
俺が狙っている役が、恐らく役満以上の役であると察して、信頼して任せてくれたのだ。
そして、この役は鳴いて作る事はできない。
シアに頼んで役に足りない牌を敢えて捨ててもらって鳴く事ばできない。
あくまで、自身の引いてくる牌のみで完成させなければいけない。
そう、これは俺の力で、俺の運だけで為さなければいけない問題なんだ。
だから、淡々と俺は牌を引いては捨てて行った。
流石にマイカも俺の手が何か怪しいと気がついたのか、捨て牌を次々にポンしていた。
早めに上がって俺の手を潰そうと言う狙いだろう。
マイカもアッシュも慣れているから、他人の捨て牌から役を予想する事が出来るだろう。
だから、もしかして……と言う予想をされている可能性はある。
だが、もう遅い。
俺の手は確実に揃って行っていた。
まるで女神が俺を祝福でもしてくれているのかと疑うくらいに、1と9の牌が手元に回ってくる。
もう、誰も俺を止められない。
「リーチ!」
俺はあと一手で役が完成すると言う宣言をした。
リーチはそれ自体が1翻の役となり、上がり時に千点がプラスされる。
正直、この手は完成すればそれ以外の点数にならないから今更しなくても良いリーチではあったが、マイカとアッシュの焦り顔が見てみたいと、ちょっと意地悪な気分になってしまったんだ。
実際、俺のリーチで、明らかにマイカとアッシュの焦りが見える。
シアも思わず俺の方を振り向くが、すぐまた自身の牌に向き直った。
俺の手を見てみたい気分をぐっと抑えて、このまま俺を信頼すルール事を選んでくれたんだろう。
ありがたいが、俺の手牌はすぐに皆に披露する事になるから、もう少しだけ待ってて欲しい。
俺のリーチでマイカとアッシュは捨て牌の流れを変え始めた。
先手を打って俺より先に安い役で上がる作戦から、とにかく俺に振り込まない様にする作戦に変更したようだ。
マイカはすでに場に出ている現物の牌しか捨てなくなった。
アッシュも同じだ。
更に俺の捨て牌から、俺の役を読んだのか、アッシュは現物に加えて1・9牌と字牌を避けて捨て牌を選んでいるようだ。
だが、もう遅い。
と言うか、マイカもアッシュも、全ての努力は無駄に終わる。
俺の手牌は俺の
彼らのありとあらゆる努力は、俺のあまりにも圧倒的な運の前に、なす術はない。
そう、時に麻雀は残酷だ。
普段は知識と駆け引きが勝敗を分けているのに、今回のような徹底的な強運の前には、何一つ出来ない。
手も足も出せないまま、破れ去るしかない。
そんな事が起こりうるのだ。
俺は役の完成を高らかに宣言した。
「国士無双。役満だ」
「まじですのー!」
「おいおい……嘘だろ……」
マイカとアッシュが同時に頭を抱える。
「ミナト……すごい……」
シアが微笑む。
俺にはその時、シアの微笑む姿が、まるで女神の微笑みの様に見えた。
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