第3話 チュートリアル

「ミナトと言ったな。俺は王宮魔術師のガンダルダだ。早速訓練を始める」


 ガンダルダと名乗った男は、頭まですっぽりと覆う全身黒のローブ姿で、大きな木の杖を持っていて、いかにも魔法使いって感じだ。


 俺は円形の闘技場の様な場所に案内され、ガンダルダと俺一人で対峙している。


 どうやらこのチュートリアルは他のプレイヤーとは隔離された専用の空間で行うらしい。


「まずは避けることを覚えよう。俺の攻撃をちゃんと避ける事」


 ガンダルダな魔法を唱えると、攻撃が来る範囲がうっすらと視認出来た。


 どうやら、俺たちプレイヤーには、攻撃が来そうな辺りが予兆としてわかるらしい。


 俺はうっすら見える攻撃範囲から急いで離れた。


 直後、さっきまで俺がいた場所に激しい魔法の光が放たれた。


 ガンダルダが放った魔法を避けるのは、思ったよりも簡単だった。


 兄さんとやってたシューターでは敵の攻撃の軌跡はほとんど見えない。


 たまに見えても一瞬で、すぐ攻撃が来てしまうから見えた頃に避けていたら間に合わなかった。


 それにくらべたら、今俺が避けている攻撃の軌跡は、避けて下さいと言わんばかりで、あまりに楽勝だった。


 まあ、今はチュートリアルだから誰でもできる様に簡単にしているんだろう。


 これがレイドボス戦になってきたら、きっとシューターと変わらない難易度にまでなっているはずだ。


 まあ、シューターで培ったテクニックがこのゲームでも活かせるのが分かって、少し気が楽になった。


 俺はガンダルダの攻撃を軽々と避け続けていた。


 その時、何か違和感を感じた。


 視界の端に、僅かに何かを捉えた……様な気がした。


 長い事兄さんとシューターをやっていたお陰で、俺の動体視力はかなり上がっている。


 特に死角から撃ってくる敵兵士に対しては無意識に意識が行くくらいにはなっていた。


 その俺の動体視力が、何かを捉えた。


 間違いだろうか……これはまだチュートリアルで、ガンダルダの攻撃は単調そのもの。


 死角から攻撃してくる敵なんているはずがない。


 だが、俺の第六感は何かがおかしいと感じていた。


 確かめてみなければ。


 俺はガンダルダに背を向け、何かを見た様な気がしたあたりに向かって走り出した。


「おい、どうした!訓練はまだ終わっていないぞ!」


 後ろからガンダルダの声が聞こえる。


 ガンダルダの攻撃は正直、もう覚えている。


 軌跡を見なくても、なんなら目を閉じてしても余裕で避けれる自信があった。

 

 俺はガンダルダの事を放って、闘技場の端まで移動した。


 たまにガンダルダの魔法攻撃が飛んでくるが、軽く身を捻って避ける。


 闘技場の端には、見た感じ何もなかった。


 おかしいな……確かに……


 そう思った時、再び視界の端に何かを捉えた。


 間違いない。


 確実にここには何かがいる!


 何がが時々、俺の死角を高速で移動している。


 シューターで培った俺の経験と勘が、その感覚を確信に変えた。


 しかも、そいつは攻撃してくる気配はない。


 ただ、死角から俺の様子を伺い、そしてすぐに移動している。


 気がついたら俺は、ガンダルダの事は完全に脇に置いて、そいつを見つける事に必死になっていた。


 どうやら、そいつは、小さな生き物の様におもえる。


 何度か視界の端に捉えた感じでは、うっすらと光る小動物だ。


 何の動物かわからないが、何度かチラッと視界に捉えた感じでは耳が長そうだ。


 光る兎と言った所か。


 俺はそいつ——光る兎の動きを捉える事をやめる事にした。


 動きが早すぎる。


 見つけた時に追いかけていたんじや、おそらく追いつけない。


 なら、兎の動きを読んで先読みするしか無い。


 兎は明らかに俺の死角に常に入り続ける様に動いている。


 つまり、俺は兎が来て欲しい場所を敢えて死角にすれば、誘導出来るかもしれない。


「何かいる気がするが……まあ良いか、訓練の続きだしな。訓練を続けよう」


 俺は一旦、兎を追うのを諦めてチュートリアルに戻ったをする事にした。


 兎が俺の言葉を理解しているかは分からないが、警戒を解かせなければ容易には近づけそうにないから、先ずは油断させるのだ。


 そうして俺は再びガンダルダと対峙し、彼の魔法を避ける訓練を再会した。


 だが、そうしながらも神経は兎に全集中している。


 もちろん、兎を油断させるために、兎のいる方を見ないようにしている。


 見ていないから分からないが、気配を何となく感じる様になった。


 兎は明らかに油断している。


 少しづつ、離れていた距離を詰めてきているのを感じる。


 後は意図的に死角に誘導するだけだ。


 俺はガンダルダの攻撃を避けながら、死角の向きを徐々に闘技場のかどになる位置に調整して行った。


 兎は見えないが確実に俺に追い込まれている……そう確信があった。


 そして——今だ!


 俺は油断した兎が角に追い込まれたと思われる位置になった時を狙って、突然ガバッと振り向いて兎のいるであろう位置に向かって猛ダッシュした。


 実際に見えていたわけでは無いから、全てが勘にすぎなかった。


 振り向いた時に兎がいるかどうかは、振り向いて見るまで分からなかった。


 だが、俺が振り向いた時に、その光る兎は確かにそこにいた。


 兎は俺が再び兎を捉える動きを見せた事で慌てて背を見せて逃げ出した。


 それは物凄い素早い動きで、分かっていても追いかけられない程の素早さだった。


 だが、俺は兎に罠を仕掛けていたのだ。

兎は角に追い詰められた。


 追い詰められてもすぐに向きを変えて走り出す兎。


 だが、そこに隙ができた。


 兎が初めて見せた隙だった。


 俺はその隙を見逃さなかった。


 兎は慌てて向きを変える。


 だが、向きを変えて逃げる事も予想済みだ。


 俺は兎が逃げる方向に向かって跳躍していた。


 そして、俺はギリギリの所で兎の脚を捉えた。


「よし!捕まえた!」


 俺は遂に、光る兎を捕まえたのだ!


「はは、なかなか厄介だったが、シューターで鍛えた俺の反射神経と戦場での読みを甘く見てもらっては困るぜ」


 俺は光る兎をしっかりと抱きしめた。


 なかなか骨のあるチュートリアルだったぜ。


 兎は既に逃げようとするのを諦めて、俺の腕の中で大人しくなっていた。


 ……


 ……


 あ、チュートリアルこっちじゃなかった。


 すまんガンダルダ。


 兎を捕まえる事に夢中になり過ぎて、すっかり本来のチュートリアルの事を忘れていた。


「ほら、逃してやるよ……楽しませてくれてありがとな」


 俺は兎を地面に置いて、手を離した。


 まあ、ちょうど良いアバター操作の練習になったし、そろそろ真面目にゲームに戻るとしようか。


 だが、兎の方はさっきまで、散々俺から逃げ回っていたはずなのに今度は全然俺から離れようとしなくなっていた……なんなんだ。


 すると突然、俺の目の前の空間にスクリーンが現れ、文字が浮かび上がった。



 CONGRATULATION


 EASTER EGG  DISCOVERED



 プレイヤー・ミナトは、隠しキャラクターである、カーバンクル・アルファの発見と捕獲に成功しました。


 ——隠しクエスト【チュートリアルに出現するノートリアスモンスターを捕まえよう】を達成——


 ——報奨としてプレイヤー、ミナトはレアスキル【ノートリアス・シーカー】を獲得しました——


「な、なんだなんだ……」


 どういう事だろう。


 俺の捕まえた光る兎がカーバンクル・アルファ?


 隠しクエスト達成?


 今のが隠しクエストだったって事なのか……どうりでチュートリアルにしてはおかしいと思ったんだ。

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