【悲報】配信切り忘れで、使い魔にお世話されてるダメ人間だと視聴者バレして大炎上したアパート管理者、飼い主じゃなく使い魔がめっちゃバズりしてる件について
第32話 『続報』上級魔族VS堕王――ダンジョンデスマッチ
第32話 『続報』上級魔族VS堕王――ダンジョンデスマッチ
辺りを見渡せば、そこは調合素材を集める上層の【森林エリア】だった。
滅多なことでは、人死の出ないことで有名な初心者エリア。
だけど今日ばかりは、そんな悠長なことを言っていられる場所ではなかった。
爆風と閃光が背中を叩き、降ってくる魔力弾から全力疾走すれば、地面を震わせる爆音に混ざって、悪魔の得意げな笑い声がダンジョンに響き渡る。
「はははは、逃げろ逃げろ! ダンジョンこそ我らの領域! あの忌々しき猫の力なき今、貴様を殺すのなど造作もないわ!」
地面を震わせる一撃一撃が波の探索者なら即死級の魔法攻撃。
それこそ相手は『あの』魔族だ。
(これがただの悪魔だったらまだやりようがあったんだけど)
ダンジョンによって魔力が無限供給される上に、素のステータスも高いと来た。
魔力切れは期待できない。
「しかも寄りにもよって【名前持ち】とか面倒すぎるって」
チラリと上空で高らかに笑うクソ魔族に視線をやれば、『鑑定眼』でその真の実力をつまびらかにしていく。
≪個体名≫――悪魔上級伯 ネギス
≪等級≫――伝説級
≪合計ステータス≫――649459
あーもう道理で地上でも平然と活動できるわけよ!
伝説級とか熟練の探索者100人集めたレイド戦でようやくって相手なのに!
それこそ初音ちゃんさえ人質に取られていなければ、あの余裕面に一発叩き込めるんだけど――
「――って召喚魔法⁉ こんなところで下層のモンスター呼ぶなんてバカなんじゃないのッ!」
「ふん、地上がどうなろうが知ったことか。魔物を支配下に置く、これぞ我々魔族が魔族たるゆえん。君たち人類が使い魔などと呼ぶ持ちえない技術は我らの技術の模倣に過ぎぬのだ!」
紫色の魔法陣が光り、次々と解放されていく下層のモンスター。
どうやらすでに使役済みなのか。
一体一体が悪意を持ってわたしに襲い掛かってきた。
「くぅ、いったい一帯はそれほどじゃないだけどこの数! 嫌がらせが過ぎるでしょう!」
「ははっ、やはりあの猫がいなければ人間などこの程度。取材と称して迷宮理事会に手を回した甲斐があったわけだな」
取材?
「まさかあの生番組もアンタが!」
「下等生物の支配域とはいえ、地上のルールに従い合法的にあれこれ奪うのに苦労したが、それも今日で終わりだ! 地上に魔力が満ちていれば私が貴様に劣ることなどありえんのだ!」
そういってプライドの高いクソ悪魔が手をかざし、さらに強力なモンスターが押し寄せてくる。
たしかにノグチと比べれば、わたしは弱いかもしれない。
だけど――
「タイヘイ莊の管理人を舐めるなああああああああああ!」
「なっ⁉ それはアイテムポーチ、――確かに奪ったはず!」
「どこぞのバカをぶん殴ったときに取り返したのよ!」
アイテムボックスから取り出した木製バットを振りぬき、次々とモンスターを打ち上げていく。
「それとアンタのお得意の催眠魔法。すごく便利だけど、操った対象の感覚までは共有できないみたいと見た!」
「なっ⁉」
動揺したわね! やっぱりまだ手遅れじゃないってことね!
それこそあの催眠が【眷属化】の初期段階だったら危ないけど、
「まだ初音ちゃんは助けられるッッ!」
「くっ、下層の低級魔物とはいえ、この数だぞ。なぜそこまで冷静に対処できる!」
こちとら万年ダンジョン生活でモンスターの相手なんて、やりつくしてるのよ!
どこをどうぶったたけば、即死できるかなんてノグチに教えてもらってんのよ!
「この程度の【食材】しか呼べないなら、上級魔族ってのも大したことないわね。残念だけどアンタじゃわたしに勝てないわよ!」
それこそ、ゴ○ブリとかじゃない限りね!!!!!
「ほぅ、でしたらこれを見ても強がれますかな⁉」
「ちょ、まだなんか呼ぶ気⁉」
すると、いくつもの魔法陣が現れ、陣の中から見覚えのある黒ずくめの人が現れた。
げぇっ、こいつらは――
「初音ちゃんを後ろからバッサリ切った奴らじゃん!」
たしか名前はチームタソガレ。
このクソメガネが黒幕だとわかってから、もしかしたらどっかで絡んでくると思ってたけど、
(やっぱ、あの初音ちゃんの裏切りはこのクソメガネ指示してたってわけね!)
すでに魔に落ちかけているのか。
配信で見た爽やかな様子はなく。むしろ地に飢えた悪魔のような荒々しい息遣いで、男たちが宙に浮いているネギスに声を掛けた。
「ハァ――遅いぜ根岸さん。俺たちを呼ばず一人で殺しちまったのかと思ったじゃネェカ」
「すみませんね三人とも。想像以上にしぶとくてつい熱くなってしまいまして」
「俺たちは、こいつらの人生めちゃくちゃにするためだけにアンタと契約したんだぜェ」
「この女どもが俺たちにした仕打ちと同じことをしなきゃ気が澄まねぇんだ」
「ぶっ殺してやる」
いや元を辿ればアンタらが初音ちゃんを裏切ったのが原因でしょうが!
なに自分が被害者ですみたいな顔してんのよ。
「うるせェ! お前さえ消せば俺たちはまた根岸さんに特待ランカーとして扱ってもらえるんダヨ!」
「大人しく殺されロ!」
正気を失った目で、各々の武器を振り上げ、襲い掛かってくタソガレのメンバーたち。
すでに人から外れかけているのか。
やけに人間離れした挙動で、攻撃をかすめてくる。
そうして紙一重で熟練の探索者たちの攻撃をよけ続ければ、空中で羽を生やし、高値の見物を決め込む悪魔の楽しげな声がダンジョンに響き渡った。
「ははは、そうだ。殺してしまえ! 所詮その女も地上の枠組みにとらわれた人間。魔物を殺す力を持っていても、人間相手となれば怯むなど当たり前だ。遠慮せずやってしまいなさい!」
「ああもう、やりにくいっ!」
あとで絶対、事務所に訴えてやるんだから。
草してバットを投げ捨て、アイテムポーチから非常用のポーション瓶を取り出せば、男たちの顔めがけてポーション瓶ごとフルスイングする。
バリンとバリンと次々にポーション瓶が割れ、男たちの顔面に劇薬が降りかかり、男たちがふらつき始めた。
「ええい、女一人なにを手間取っている! さっさと始末しないか役立たず」
「それが動きが鈍くなってて!」
「体が動かないぃぃ?」
「剣が重い、だと⁉ なぜだこいつは伝説級の装備で――」
「身の丈に合わない装備に頼ってるからそうなんのよ!」
遠慮なしにふるった最後のポーション瓶をリーダーらしき男の顔面に叩き込み、小さく鼻を鳴らす。
いざという時のためにノグチが用意してくれた、相手を弱くする薬。
『デバフ特化型のバトステポーション』
すごく高価な素材が使われてるからあまり使いたくなかったけど、人間相手に背に腹は代えられないか
元々、私が人を殺せないって見抜いて用意したコマみたいだし、奴の隠し玉もこれで終わりだ、
「さぁ、あとはアンタをぶん殴ってしまいよ!」
そうして男たちから視線を外し、宙に浮かぶネギスを見たとき、わたしは目を見開いた。
初音ちゃんがいない⁉
(そんな、さっきまで奴の隣で大事そうに抱えられていたのに)
いったいどこに!
すると腰あたり軽い衝撃がぶつかり、遅れて焼けつくような痛みが走った。
「初音ちゃん」
「あ、私は、なんてことを――」
「くぅッ⁉」
ズチュルと生々しい音が鳴り、小さく苦悶を漏らせば、血がドバドバ溢れ、一瞬、視界がかすむ。
そうか地上からダンジョンに飛べるくらいだ。
初音ちゃんをわたしの近くに転移させることなんて楽勝か。
(ああ、やっちゃった。配信ではできるだけ気を付けてたんだけどな)
すると、半覚醒状態にあるのか。カランと短剣が零れ落ち、真っ赤に染まった両手を見た初音ちゃんの口から調子の外れた悲鳴が漏れた。
「ああ、ああああああああああ!」
「いいぞ、どんどん堕ちていけ。そのたびに支配しやすくなる! 恩人をの手に染め、魔に堕ちるのだ!」
「くっ、下種が!」
その一瞬を逃すまいと、追加で召喚されたモンスターを拳で屠る。
だけど傷つけちゃいけない臓器を傷つけたせいか反応が鈍い。
このままじゃ地上でしてやられたときの二の舞だ。
これ以上、初音ちゃんにトラウマを植え付けるのもあれだし、
「しょうがない。本当はやりたくなかったけど、こっちも覚悟決めますか」
「ふん、覚悟だと? ようやく大人しく死ぬ気になったか」
勝利を確信したのか、あざ笑うようにして両手に魔力を込めるネギス。
たしかに絶対絶命だよ?
でもね。わたしの言う覚悟はそういう命の覚悟じゃなく――
「採算度外視な出費の覚悟よ」
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