第18話 テイマー協会・会長――物部モリヤという男


「ノグチさんとならボクはもっと高みに、いや一心同体にだってなれるはずです。一緒に使い魔と人間の懸け橋となる、愛ある家庭を築いていきましょう!」

「ちょ、待て待て待てーい。ノグチの主人はわたしなんだけど⁉」


 というかこの子オスだから!

 慌ててノグチを庇うように体ごと割り込めば、いたって純粋な視線が飛んできた、


「何か問題あるんですか? 今どき同性愛なんて普通ですよ」


 なん、だと⁉

 いや確かに、愛の形は人それぞれだけど、


「百歩譲ってノグチと一緒になりたいとしても、告白するならまずわたしからでしょうが! なに他人の使い魔口説いてんのよ!」

「ええっと、先輩は尊敬していますけど、女としての魅力に欠けるので、友人としてのお付き合いならいいんですけど、結婚はちょっと――」

「なにを⁉ わたしだって男をメロメロにする魅力くらいあるってば!」


 ね! そうだよねみんな!

 そういって立ち上がり、同意を求めるように周りを見れば、タマエどころかノグチにまで目をそらされた。


 うそ、わたしの女子力ってそんなに駄目なの⁉


「で、でもノグチはわたしのパートナーなんだし、譲る気なんてないわよ!」

「その話なんですが、現在、テイマー協会では先輩のテイマーライセンス剥奪が本格的に議題に上がっています」

「はい⁉」


 え、間違いだったんじゃないの?


「ええ、ですから先ほどの謝罪は、決定前の情報が掲示板に流れたことに対する謝罪で、先輩のライセンス剥奪の件は、実際に協議されています」

「で、でもタマエと仲良しアピールすれば大丈夫だったはずじゃない。なんで昨日の今日でライセンス剥奪の方向になってるのよ!」


 自分でいうのはなんだけど、わたしとノグチはめちゃくちゃ仲良しだよ!


「はい。先輩の配信は毎回チェックさせてもらっているので把握しています。たしかにあの調合配信はすごかったです。多くの人がノグチさんを求めて暴走するのもわかります」


 あ、それはどうも


「ただし、テイマーとしては正直クソでした」


 なんですと?


「だってやっていることはすごいけど、全部ノグチさんありきじゃないですか。先輩がやっている事といえば、リスナーの対応ばかりで『もうこれノグチさんだけでいいんじゃね?』状態だったじゃないですか」


「うっ⁉ それはそうかもしれないけど――」


「そして何よりボクが許せないのは、こんなかわいいノグチ君に養ってもらって当たり前の顔している先輩です! なんですかノグチさんに毎日ご飯作ってもらうって⁉ どんな弱みを握ってノグチさんと契約したんですか、うらやましい!」


「はい?」


 なんかイケメンがしちゃいけない感じにハァーハァー鼻息荒くしてるけど


「た、タマエ? これどいうこと」

「どういうことって?」

「アカデミー時代はもっとまともだったじゃん! なんでこんなに性癖ねじキレてるの⁉」

「それはこいつが真のケモナーだからよ」


 答えになってないよぉ⁉


「実際、そうとしか形容しようがないのよ。執念で使い魔研究の第一人者として博士号を取って、テイマー協会の会長の座を勝ち取るため実の父親を下僕にしたくらいだもの。変態の思考なんて常識人の私が理解できるわけないでしょ」


「ふっ勘違いしないでくださいタマエ先輩。ボクはあくまで使い魔が大好きなだけであって、性的に見たことなど一度だってありません。ただちょっと、使い魔愛が溢れすぎちゃってギリギリ一線を超えそうになってるだけです」


 そういってふっと髪を払って訂正して見せるけど、使い魔に沸いた欲望をギリギリの理性で抑え込んでる時点で普通じゃないから!

 あと、わたしに同意を求めてくるんじゃない!

 わたしとノグチはいたってノーマルな関係だ!


 どうしよう。久しぶりにあった草食系が思った以上にヤバい奴だった⁉

 

「というわけで先輩。お願いします。テイマー協会発展のため、そしてボクのムフフな野望のために、ノグチさんをボクに下さい!」

「ノゥ! 絶対にノゥ!」


 大事な家族をヘンタイなんぞにくれてやれるか!

 というか最後の方は完全に、アンタの願望でしょうが!


「そんな。ボクならノグチさんを幸せにできるのに。こうなったら実力行使してでもノグチさんを――」


 そういって愕然とした顔で、ぶつぶつと物騒なことを呟き始めるヘンタイ。


 ううっ、助けてぇタマエー。この変態、私からノグチを奪おうとするよー。

 するとヤレヤレと首をふるタマエが、仕方ないと言いたげに助け船を出してくれた。


「モリヤ、貴方がモフモフ大好きなのは知ってるけど、いきなりライセンス剥奪は行きすぎよ。配信だってノグチが嫌がっている様子はなかったはずでしょ」


「でも、毎日炊事雑用させてるのは事実なんでしょう⁉ 使い魔はダンジョンで一緒に助け合う存在で。召使じゃない。それに、夏目先輩にテイマー虐待の疑いがかかっているのは事実なんです」


 虐待? なんのことだ?


「先日の配信を見たいろんな企業から先輩のテイマーの資格をはく奪するべきじゃないかって政府経由で協会に陳情が届いてます」

「へ? 企業が?」


 わたしがやっているのは探索者向けの調合配信だ。

 規模も投入できる人材も違う一企業が、わたしの配信活動なんか目の敵にするはずないと思うけど


「ああ、それはそうでしょうね。なにせあれだけ派手に炎上したんだもの」


 はい? 炎上? この間の調合配信は何事もなく大成功したはずだけど。

 すると事情を知る二人から可哀そうな目で見られ、大きなため息が落ちた。


「あのね、シオリ。確かに一個人の調合配信で企業がわざわざ陳情なんて出すなんてありえないわ。だけど貴女の場合はやりすぎたのよ」

「やりすぎって、ただ解毒ポーションの作り方を配信しただけだけど」

「それがやりすぎだっていうの。普通はレシピ手順や、既存のアイテムをちょっと改良するくらいでいいの」

「それが新レシピを無料で開示ですからね。ダンジョン市場はひっくり返ったでしょうね」


 いやいやたかが新レシピ一つ公開したくらいで、大げさすぎない?


「ダンジョン特需に合わせて、解毒ポーションや、調合アイテムは基本的に企業の独占状態よ。たとえ高い金であってもお金を出さざる終えない状況だったの」

「それが、先日の配信でひっくり返ったんです。生産組合で解毒アイテムを買うよりはるかに安価で高性能なレシピが開示されたことによって、倒産寸前の打撃を受けてもおかしくありません」


 え゛っ、あの配信ってそのレベルだったの。

 ただ探索の手助けになればいいなーと思って決めたんだけど。


「やっぱり考えなしだったか。……わたしが把握しているだけでもかなりの経営者から恨みを買ってるわね、今のうちに潰して置こうって考えるのも無理ないわ」

「というわけでテイマー協会の会長として、問題となる使い魔を早々に保護しなくてはいけないんです」

 

 いやいや、そんなニコニコな笑顔で保護なんて言われても、ノグチを渡すなんて選択肢、絶対にないから。


「この子はわたしの大事な家族よ。いくら大金を積まれても絶対に渡さない。力づくで来るのなら戦争してやるわ」

「ええ、先輩ならそういうと思ってました」


 あれ? 意外にあっさりと引いてくれるの?


「ボクは基本的に使い魔の味方ですから。テイマーを束ねる会長として使い魔と離れる辛さは理解しているつもりです。ですから、ここからが本題です。協議の結果。この課題を乗り越えたらみんな諦めることを役員に約束させました」


 課題、ですって?


「かなり厳しい課題ですよ? 覚悟がありますか?」

「どうせ、嫌って言ったらノグチを庇護する資格なしってライセンス剥奪する気なんでしょ」


 こっちだって悲願の不労所得生活が懸かってる。

 なんだってやってやろうじゃない!


「その言葉を待っていました! では先輩にはこのひと月の間に配信ランキング100位を目指してもらいましょう!」


 配信ランキング?


「ええ、先輩がテイマーとして配信ランカーになる事。それがテイマー協会が求める、先輩とノグチさんが一緒にいられることのできる条件です」

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