第22話 【収益化おめでと配信】
「というわけで晴れて、ノグチが社長になることが決定しました~」
『使い魔に養われているテイマー』という不名誉な称号をいただいてから数日後。
わたしは【収益化おめでと配信】と題して『ノグチ配信事務所』の設立を、視聴者のみんなに報告をしていた。
どうやら使い魔が配信事務所の社長になるという前代未聞の核燃料は、わたしの予想以上によく燃えたようで。
炎上してから3日経つというのに、スパチャ解禁祝いで枠を取ったはずの調合配信は、今までの配信にないカオスな盛り上がりを見せていた。
”なるほどそういう経緯があったのか”
”漏れたちの知らないところでそんなことが”
「そそ、ほんと大変だったんだから」
そういってノグチ配信事務所設立の経緯からテイマー協会の会長のヘンタイ具合まで何から何まで【雑談配信】風に答えていけば、視聴者から納得の声が上がる。
一見平気な顔で受け答えしてるわたしですが、なにぶんめちゃくちゃビビっております。
なにせ――
(じゅ、10万人同時視聴とか嘘でしょ⁉)
ちらりとコメント欄を見れば、同時接続者は10万人というチャンネル史上、破格の数字にふさわしいくらい光速に流れては消えるコメントがッ!
ノグチの調合料理を食べてなかったら、見えないレベルだ。
どうやら地上では、わたし達の話題で持ちきりらしく、ついでに『ノグチ』を引き込んだ敏腕令嬢として、タマエの事務所も有名になりつつあるらしい。
(まぁこうなることを予見して、あらかじめ事務所の住所をわたしのアパートにしたわけだけど――)
もしかして、わたし達って相当注目されてる?
となれば、どんどん調子に乗っていくのが当たり前で、
「いやー実際、ここ三日はほんと大変だったんだよ? なぜかノグチの社長就任が周りにバレるし、マスコミがタマエの事務所に押し掛けたせいで、地上出禁食らっちゃって調合配信の予定が狂うわで、もう有名人ってホント辛いね!」
案の定、収益化を祝う場で、謝罪会見みたいな空気になるのは世界広しといえどもわたしのチャンネルだけだろう。
「うん、ごめんなさい。調子乗ったのでコメント停止はマジやめてください。ほんと心臓に悪いから」
もはや炎上がわたしのチャンネル売りになりつつあるのか。
他のチャンネルに比べて、いじりコメントが多い気がする。
”それで今どんな気持ち?”
”これで正式に上下関係が確定したわけですが感想は?”
”使い魔に養ってもらって、恥ずかしいとは思わないんですか?”
思うよ! 正直言うなら複雑だよ!
だけどタマエが事務所設立のメリット説明したら、ノグチがノリノリになっちゃったんだもん。
止められるわけないじゃん!
「みんな知らないと思うけど、あの後ほんと大変だったんだからね!」
元々、テイマー協会のやり方が気に入らなかったタマエは、連日わたしに鬼電をかけては、配信内容やその必要素材をしつこく聞いてくるし。
ノグチはノグチで、マネージャーというか上司らしく、わたしのに生活リズムを管理しては、自分のチャンネルで主の醜態を【使い魔配信】のごとく配信するようになったんだよ!
わたしはわたしで平和に暮らしたいだけなのに、こんな慌ただしく事態が急転するなんて思ってなかったんだよ!
取れ高になるし、面白がってもらえるのは配信者冥利に尽きるけど、
「わたしのためって、ノグチにあそこまで尽くされたら、もう大人しく養われるしかないじゃん!」
しかも共同経営の相談を終えてからというもの、ノグチは家事の合間に、事務所関連の勉強を始めたらしく、家事を片手にタマエからもらった参考書を読んでは、【配信ランカーへの道のり】なる計画も立て始めているのだ。
ついには、配信内容からリスナー特典の準備など、家事を分裂した他のノグチにまかせてまで、秘密の計画をタマエと楽しそうに計画してるんだよ?
「そこまでお膳立てされて、いまさら自分のことは自分でやりますなんてみんな言える⁉」
”ううっ、たしかに俺にはできねぇ!”
”そこまでされちゃあな”
”なんかかわいそうになてきた”
「しかも、ダメ元で申請した事務所設立の手続きやら、いろんな書類は、タマエの言う通りほんとに通っちゃうし」
いったい、どうなってんのよダンジョン課!
どんな介入があったのか。
本来半年くらいかかるはずの事務所設立の申請書は、即日で受理された。
タマエは予めこうなることを予測してたみたいだけど、それにしたって早すぎるでしょう!
こっちは少しくらいゆっくりできると思ったのに。
これ絶対、あのヘンタイが絡んでるよね⁉
「だからさ、みんな。わたしは誓ったの。ノグチを悲しませないようにこれからもダメな主人を演じようって」
だからわたしがこうして調合をノグチに任せてるのも、ノグチのためなのだ!
”おい!”
”結局いつも通りじゃねぇか”
”お抱え配信者になっても変わってなくて草”
”それでこそ俺らの管理人、俺たちニートの星としてそのまま燃え続けてくれ!”
”まぁ下手な事務所に所属するより、ノグチさんに管理してもらう方が安心”
”それにしたって、使い魔を社長にするか普通?”
「そもそも、この件に関しては上層で暴走したアンタらのせいでもあるんだけど」
”それについてマジすまんかった”
”ノグチさんのご飯食べられると思ってつい”
”正直すまんかった
「反省したなら許す。だけど、ノグチはわたしのものだから、奪おうとしたら戦争なんだからね」
「にゃ」
一応、まだ見ぬヘンタイのためにくぎを刺す。
コメント欄では面白がっているけど、おおむね了解といったコメントが流れていく。
あとは知らん。
来るならマジでノグチに泣きついて叩き潰してもらうだけし
というわけで、そろそろいい感じかな?
「はい。というわけで今回の企画。ノグチ特製1000本エリクサー調合耐久配信の出来上がり―!」
そういってエリクサーの製作する工程が見たいという視聴者の要望通り、耐久企画にして調合完了を宣言すれば『マジか!』とコメント欄が盛り上がった。
(今日は特別企画ってことでちょーーっと難しかったけど、少しは見ごたえのある配信ができたかな?)
「というわけで、このノグチ特製の簡易エリクサーと、ノグチお手製ビギナー探索者装備セットは配信のはじめでも言った通り、視聴者のみんなにプレゼントするんで、下記のURLをクリックして応募してねー 」
「にゃう!」
そういって端末を操作してコメント欄にタマエの事務所のURLを固定にすれば、人気アイドルのチケット争奪戦の如く、瞬く間に応募の数が100万を超え。
【調合不可能なエリクサーの簡易レシピ確立】
という何気ないノグチ達のやらかしは、数々の火種となり、世の多くの経営者が頭を抱える大事件として歴史に刻まれていくのだった。
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