第23話 【雑談配信】かーらーの?
そんな自分の配信がダンジョン経済の根底がひっくり返る大事件になっていることも知らず。
いいことした、と爽やかに汗をぬぐうと、わたしは配信ドローンの前でノグチの後片付けのお手伝いをしていた。
「ふーようやく箱詰め作業も終わったし、これで今日の企画はおしまいだね」
そういって満足気にコメント欄を見れば、案の定、コメント欄はノグチに対する称賛の声であふれかえっていた。
なかには、この配信の意図に気づいた鋭いコメントもあり、
”エリクサーの調合レシピを配信で乗せるとか鬼畜すぎて草”
”これ確実にダンジョン特需でウハウハしてた製薬会社死んだな”
”向こうが権力で来るなら、財力を脅す”
”まじで悪魔、いや魔王の所業じゃん”
もちろん。視聴者の言う通り、今回の配信に限っては意識的にけんかを売った。
副社長のタマエ曰く。
『いい? 今後もしつこくケンカを売って来そうな相手には、徹底的にチカラで屈服させて立場を『わからせる』のが、この業界で大事にななんだからね』
――とのことらしい。
なので、企業の一番利益率の高いエリクサーの簡易調合レシピを大公開したわけだけど、
(コメント欄の様子を見る限りこれはもう、ほんとご愁傷さまとしか言いようがないね)
まぁもちろん? わたしもわざわざ誰かを怒らせるような趣味はないし?
よほどのことがない限りは、こんな配信はこれっきりだと思うけど、
「まぁそんなわけで個人配信者改め、ノグチ配信事務所、お抱え配信者として心機一転、頼りになるノグチと一緒に頑張っていくんでよろしく!」
そういってノグチに抱き着けば、コメント欄に祝福の言葉があふれていった。
実際、掲示板でも偽情報があふれかえっていたのか。
暖かいコメントが胸に染みるよ。
(……配信主にじゃなくノグチに対しての心配や、労りしか流れてこないのはアレだけど)
なかには【人の心とかあるん?】と悲壮じみたコメントも流れては来るけど、
「とにかく今の目標は、どうやってあと半月で配信ランキング100位突破しなきゃいけないんだもん。配信ランカーになるまでは世間体なんか無視してこの調子でガンガン続けるっきゃないでしょ」
あのヘンタイの締め切りまでほんとに時間ないんだから。
”つまり配信ランカーになれなきゃ、このレベルの悪夢が毎回続くわけか”
”おい大丈夫か、経済息してる?”
”もしかして、俺ら日本滅亡の手伝いしてる?”
”おいおまんら、早くこちらの破壊者にチャンネル登録して差し上げろ”
”マジで魔王じみた脅しだなおい”
「うん? 脅しってなんのこと? みんなもウチのかっこ可愛いノグチが見られて幸せでしょ?」
”無自覚、だと⁉”
”くっそ、炎上必死なのに、目が澄んでて叱れねぇ!”
”誰だこんな無自覚モンスター生み出した奴!”
”普段あんだけ盛大に燃やしてるくせに”
”これはアレだな。もうおしまいだな”
いやいやみんな大げさだって。
使い魔社長・爆☆誕の炎上騒ぎでうちのチャンネルに興味を持ってくれた一般人も増えたのか、現在のウチネコチャンネルの配信ランキングは2110位だ。
調合配信者としては破格の順位だけど、それでも壁が厚すぎる。
あれだけバズったのに配信ランカーへの道が遠すぎるけど、
(まぁなんかコメント欄が盛り上がってるし、この調子ならなんとかなるかな)
「うーんそれにしても早く終わっちゃったから尺が少々余ったというか、この後どうしよっか」
本来ならこのままいつもの挨拶で終わりだったんだけど、想像以上にノグチが頑張ってくれたみたいで時間が余り気味だ。
「うーん取れ高が足りない」
”簡易版とはいえエリクサー1000人分作れるだけ化け物なんよ”
”これ以上なにする気だよ”
いやだって、今日は楽しい【収益化おめでと配信】なんだよ?
他にはできないド派手な配信にしたいじゃん?
(いや待てよ。コメントの反応から察するに、これってすごいことなんだよね?)
だったら――
「そうそう、このまま配信終わりってのも味気ないしぃ? 応援してくれたらにもうちょっと続けるんだけどなー(チラチラ)」
具体的には~、応援という名のスパチャ投げてくれたら、もっと頑張れるんだけどなぁ~。
”そうだな”
”漏れらもはんせいしてる”
”今日はいろいろとスカッとして、本当にいい配信だった”
”ノグチ事務所の初の記念配信なんだ。盛り上げようぜ!”
「うんうん。それでそれで? 記念スパチャは?」
”甘えるな”
”そんなんだから炎上すんだよ”
”まだ何もやってねぇのに入れるわけねぇだろ”
”おい誰か配信者としての心を教えて差し上げろ”
な、なにをー! 画面の外だからって好きかって言って!
わたしだってここ1週間は、いろいろ大変だったんだからちょっとくらい甘やかしてくれてもいいじゃん!
”お前に入れるくらいなら、ノグチさんの配信枠に生活費ぶっこむわ”
”むしろ課金させてくれ!”
”はいはい、おめおめ”
”それより次の配信なにするか考えろよ”
「うぎぎぎっ、ノ、ノグチぃ、ファンのあたりがつらいよー」
これほんとに、みんなわたしを応援してくれるために集まってくれてるんだよね?
バラエティー番組でも、もうちょっと手心加えてくれるよ?
まぁ確かに正論だし、今日の配信で企画を募るつもりだったけど!
「でもさぁ。受ける配信しろってタマエから言われてるけど、ぶっちゃけ今ダンジョンの中にいるから、みんな何に困ってるのかわからないんだよねぇ」
なにせわたしの使い魔、最高なんで(どや)
”そういえばこういう奴だった”
”珍しく殊勝だと思ったら、攻略マウントか”
”そりゃ、中層でウロウロしてる俺たちにゃ出来ませんもんねぇええ?(殺意)”
”探索者全員敵に回したな”
”初の収益解禁配信で視聴者にケンカ売るとか、ダイジョブかこのポンコツ配信者”
え、いやそんなつもりないよ⁉
いまのはタダの冗談ってコメント欄燃やさないでくれます⁉
画面が真っ赤になってるんだけど!
「冗談、冗談だから! わたしは必死になってアパート探しまくって降りてきたからよく覚えていないだけだし、別に馬鹿にしたわけじゃ――ってそこ、通報しない!」
マジで垢バンしたらどうすんの!
”それにしても配信ネタを教えろねぇ”
”むしろ最近、何か困ったことあったか?”
”ノグチさん関連以外で? ねーだろ”
”ノグチさんの完全飯おかげで、攻略平均が上がったってことくらいだし”
「え、そうなの?」
慌て火消しに走っていると、意外なコメントが目に入った。
ノグチの完全飯というと、ただドレッシングのレシピを教えたアレのこと――
するとそのコメントを皮切りに、真面目なコメントがチラホラ増えていく。
”毒無効だから、ダンジョンの大抵のものが食べられるようになったんだよな”
”わかる。後方支援組としては日々の献立開発がヤバい”
”そのせいで、無茶な探索増えたみたいだけど”
”モンス肉解体の仕方が悪いのか、味はお察しの通り最悪だけどな!”
”せめて現地調達できる素材があればなー”
「現地調達できる食材? あるよ」
”なん、だと――”
”ダメもとで言ってみたがあるのかやっぱり⁉”
”いやでも、ノグチさんの料理、高ランクモンスばっかだし俺らでも狩れるのか?”
”解毒薬のまないと食べられないようなのナシだよ?”
「あれ? みんな知らない? スライムってモンスターなんだけど――」
”スライム(笑)”
”あれは素材だろ。どうみたって食べ物じゃないだろ定期”
”弱いくせに、武器がダメになりやすいクズモンスだよね”
”【悲報】管理人、ご飯と素材の区別がつかない”
むっ、信じてないな。
よーし、そこまで言うんだったら
「やるよノグチ!」
「にゃう?」
「ダンジョンでも補給可能なお手軽調合メシの作り方! スライムがおいしいってみんなに証明してやりましょう!」
そういってノグチの巨体を押し出し、部屋の玄関から飛び出せば、
”また思いつきで市場をぶっ壊すの間違いじゃね?”
という不吉なツッコミコメントを皮切りに、経営者らしきアカウントたちの
『もうらめぇぇええ!』という魂の懇願が、わたし達の目に触れることなく流れては、消えていくのだった。
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