【悲報】配信切り忘れで、使い魔にお世話されてるダメ人間だと視聴者バレして大炎上したアパート管理者、飼い主じゃなく使い魔がめっちゃバズりしてる件について
開拓しーや@【新ジャンル】開拓者
第一部――『猫』と『家主』はよく燃える
第1話 ダンジョンアパートの管理人の憂鬱
◆東京ダンジョン――【深層】
――働かず楽して手に入れるお金は最高だ。
不意に湧いた相続費。ダンジョンに飲まれたアパート物件。
一刻も早くガラガラのアパートに入居者を確保すべく。わたし――夏目しおり(23)は最近はやりのダンジョン配信者として【使い魔配信】に取り組んでいた。
これもすべては、素敵な不労所得のウハウハ生活のため。
配信を通して、うちのかわいい使い魔の魅力を全世界に伝え、将来、わたしの懐にお金を落としてくれる愛すべきお隣さんを勧誘するため、慣れない配信ドローンを操作しながら、今日も今日とてダンジョン配信に精を出すのだが、
「あー、以上、管理人ナツメおねーさんのうちねこチャンネルでしたー」
何度目かになる挨拶を終え、にこやかなつくり笑みを崩して配信画面を閉じると、わたしは即座に配信用の仮面を放り投げて、畳の上に寝転がっていた。
「あー、今日の仕事終わりっと」
配信用のワンピースをポポイと脱ぎ捨て、よれよれのジャージに着替える。そしてテーブルの上にあるお茶請けを足で引っ張ってくると、ボリボリお腹を掻きながらせんべいを齧った。
ここは、配信探索者御用達のアパート――【タイヘイ莊】だ。
ダンジョンと呼ばれる危険な場所に潜り、貴重な素材やアイテムを地上に持ち帰ることを生業とする探索者が、気軽にダンジョンから帰還し、体を休められるように整えられた専用の仮住まいで。
働かず手に入れるお金が大好きなわたしは、アパートの管理人をしていた。
ゆくゆくは使い魔と一緒に素敵な老後生活を送りたいと考えているけど――
「……はぁ今日も、三人しか見てくれなかったな」
溜息を吐き、畳の上に寝転がれば、スマホに映った同時接続数を見上げる。
ここ三か月。
働くのが嫌でブラックなバイトもやめて、アパートの評判を盛り立てようと、話題作りと客寄せの意味を込めて一人と一匹で配信活動を頑張って来たけど、
「まさかここまでうまくいかないなんて」
結果は轟沈。
いくら配信活動が楽しくなってきたとはいえ、限度がある。
ううっ、このままじゃ夢の不労所得生活が遠のいていくよぉ。
「はぁ、わたしの予定では今頃、ダンジョンに夢見る配信者のお隣さんでアパートはいっぱいになってるはずだったのになぁ」
アパートの管理人であるわたしが、ダンジョンの中で配信活動をしているのも、絶対儲かるはずだったアパート経営がうまくいかないのも。
それもこれも――
「3年前、第二のダンジョンフラクションで、わたしのアパートがダンジョンの中に飲み込まれたせいよ!」
◆◆◆
世界各地にダンジョンが現れて十数年。
当初、天変地異の混乱を見せたダンジョン出現は、ダンジョンで見つかった新たなアイテムと魔石エネルギー革命によって世界に受け入れられ、ダンジョンにもぐる【探索者】という職業が当たり前になっていた。
世は、まさにダンジョン時代。
当然、ダンジョンを探索することを生業とする探索者が生まれ、探索者の数に比例して、住居の問題が浮上した。
なにせ、今まで引きこもっていた人たちが、こぞって一攫千金の夢を見て、ダンジョンに潜り始めたのだ。
そうなれば、その様子を面白おかしく配信してやろうとするものが現れるのも当然で――
『ゲーム配信のように、ダンジョンを配信する馬鹿どもが現れる!』
と神がかりな時流を読んだわたしは、ちょうど大学を中退し、ブラックな社会に嫌気がさして、たまたま人助けをして降って湧いてきた相続金を使って、都心近くのアパートを購入したところ、問題が起こった。
『へ? ダンジョンフラクションのせいでアパートが飲み込まれた?』
『はい。どうやら昨日の地震の影響で、お客様のアパートの真上に入り口が出現したらしく、今立ち入り禁止となっているようです』
どうやら地殻変動に伴う、新たなダンジョンが発見されたらしい。
近場にダンジョンができるのは結構だけど、それがわたしの契約したてのアパートの真上でなければもっとよかった。
結果、契約していたはずのアパートがダンジョンに飲み込まれてしまったわたしはというと――
『ええっと、それじゃあわたしのアパートは』
『残念ですが契約した後なので諦めてもらうしかありませんね』
申し訳なさそうに、契約書の帳面に書かれた借用書には、1億円の赤い文字が。
全財産にローンまで組んで手に入れた夢のダンジョン配信者向けのアパート。
当然、諦められるはずもなく。
わたしは探索者となって念願のアパート物件を探し回わった。
そしてようやく見つけた頃には、世間の探索者ブームは使い魔ブームに切り替わっていた。
もちろん。ダンジョン配信も未だ人気は衰えていないけど――
「問題は、ここがダンジョンの中で。しかも『深層』と呼ばれる超絶危険な場所にあるということなのよねぇ」
休息を求めたいのに、ダンジョンのなかにあるせいで誰も来ない。
だからアパートの存在を認知してもらえるように、親友の助言を頼りに『使い魔配信』をはじめたわけだが――、
「まさかダンジョンモンスターをテイムして、一緒に配信するダンジョン配信者がこんなに増えているなんて……ッ‼」
おかげで、わたしの配信は埋もれに埋もれ、やってくるのは暇つぶしにコメントで煽り散らしてくるアンチばかり。
しかも、なによ配信ランキング21110位って。圏外もいいとこじゃない。
こっちはこのビックウェーブに最後の望みを賭け、コツコツ配信動画を取っては、【Dチューブ】に上げてきたっていうのに!
「うー、やっぱりわたしの撮りかたが悪いのかな。結構かわいく撮れてるのに」
ほかの配信動画と見比べ、畳の中で日向ぼっこ? をしている三毛猫を眺める。
【使い魔配信】
ダンジョンの中でテイムしたモンスターと共にダンジョンで探索する【テイマー】と呼ばれる戦闘職がはじめた新しい配信形態で。
ようは一昔前のペット自慢みたいなものだけど、
「うん? コメント通知?」
ブーブーとスマホから通知音が鳴った。
あ、また例のアンチリスナーからの煽りコメントだ。
えーっとなになに? 相変わらずダンジョン詐欺ですねぇだぁー?
「こっちはリアルでダンジョンに住んでるっての!」
高速フリックで長文コメントを打ち返すけど、返ってくるコメントは
”自宅で草”
”ダンジョン配信とは?”
”配信合成お疲れ様です””
といった煽りコメントばかり。
くぅ~ッ、ダンジョンで配信しているのにだれも信じてくれない。
家か? やっぱり家の中で配信してるのがいけないの?
ダンジョンの中にアパートがあるって、結構インパクトがあると思ったのに!
「うえええん。ノグチぃー、リスナーのみんながいじめてくるよー」
「にゃあ」
そういって泣きつけば、隣でわたしの奇行を一瞥しつつも黙々と洗濯物を畳んでいた我が家の猫――ノグチのしっぽがパシパシとリズミカルになり。
ついにキレたのか。
「ぶみゃあッ」と迷惑そうな声をあげたノグチは、使い魔であるにもかかわらず、一切の容赦なくわたしの顔面に肉球パンチをお見舞いするのであった。
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