第23話

「………ごめんね」


「違う!! 私が欲しいのは! 謝罪なんかじゃない!! もともとなりたくてなってるわけじゃないのに!! 同情してほしいわけではないのに! なんで、なんでみんな……そうやって辛かったね、とか大変だね、とか。私は哀れんでほしいわけじゃないのに…!!」


彼女の目から、一筋の光が。……そしてそれは、瞬く間に顔を滝のように流れていく。


それを見た瞬間、私の体は勝手に――遥ちゃんのことを抱きしめていた。


「……泣いていいよ。私がいるから」


「……泣きたいわけじゃ……! これは体が勝手に……!」


「泣きな? 涙が出てくるときは辛いときだからね」


「辛くなんかっ……! 辛くな……あぁっ!」


私の腕の中で泣く遥ちゃん。やっぱり少し暖かいんだ。


……というか。やっぱり言わないほうが良かったのかな。言わずに、何も知らないフリをして、普通の友達みたいに過ごしていくの。


けど、私と遥ちゃんは将来的には姉妹になるんだから。


そうなっても知らんふりしてるのはできないし。あと、早く仲良くなりたかったし。


……それにしても流石に悪手だったかな。ちゃんと謝らないと。いやって言われたけど、それはしないといけない。


……どうしよっかなぁ……。とりあえず、泣き止んでもらうのを待つしかないねぇ……





そうして待つこと5分くらい? まぁ時計がないから正確な時間はわからないけど。


「……ふぅ。落ち着きました。ありがとうございました」


「うんうん? 大丈夫だよ、泣きたくなるときなんてだれにでもあるから。さ、寝ようか」


「あ……寝る前に……」


遥ちゃんは何か聞いてほしそうな目でこちらを見ている。


「なに?」


「ちょっと話、聞いてもらってもいいですか?」


真っ直ぐな目。もうさっきまでの泣いてる姿はなくて、真剣にこっちに話をしたそう。


けど……。いいのかな。私なんかが聞いても。だって今日が初対面だから。


初対面なのにあんなに偉そうなこと言うなって話だけど。


どうしようかな、なんで迷ってる間に、遥ちゃんは口を開き始めた。……ねぇ私聞くって言ってなくない!?


「私、お兄ちゃんたちには体温上昇病になってから4ヶ月って言ってるんですけど、ホントは1年くらいなんですよね」


……え? えっ!? なに言ってるのこの子。


そもそも私は遥ちゃんが体温上昇病になってから4ヶ月ってことも聞かされてないし、それが嘘だったって言われても私はなんて言えばいいのか……!


「あ、あのさ……?」


「雫さんは聞いてるだけでいいですよ、壁になっていてください」


……あっ、はい。


「私、1年くらい前から体調が悪くて。平熱も高くなってきてて。それを、隠してたんですよ。お兄ちゃんと、お母さんに迷惑をかけたくなかったから。……けど、そうですね、それこそお兄ちゃんが言うように4ヶ月前くらいでしょうか……」


彼女の視線が部屋の外へと移っていく。何かを思い出しているような……。


「倒れちゃったんですよ。お兄ちゃんの目の前で。お兄ちゃん、ああ見えてシスコンなので、それはもうすごい騒ぎになりましたよ」


……いやなんか今聞き捨てならないことがあったね!?


「えっ廉也君シスコンなの!?」


「……はい。それはいいんですよ、それで、病院に連れて行かれて。体温上昇病ですって。まぁ長い間無理してたのが祟ったのか知らないですけど――」



「――余命半年なんですって」



……えっ。それは……。それはさ。廉也君はまだ時間があるって思ってるのに。


延命治療、してるんじゃないの?


「笑っちゃいますよね、お兄ちゃんたちのことを思ってたのが裏目に出るなんて。そっからお兄ちゃんは私のことを思って稼いできてくれるようになったんです。……ヨーチューブだけは伸びてほしくなかったんだけどなぁ……」


だからか。一回廉也君は配信で言ってたことがある。『俺、妹のためにダンジョン潜ってるんですよね』って。


そういうことだったのね。ハハッ、ほんっとにシスコンじゃん。


……うん? ヨーチューブは伸びてほしくなかった……?


「ほんっと、だめな妹です。お兄ちゃんに負担をかけて。私はなんにもしてない。ねぇ、雫さん。お母さんとお兄ちゃん連れてって――私のことを見捨ててくださいよ。もう負担になりたくないので」


何を言ってるの? 遥ちゃんは何を言ってるの?信じられない。捨てろって? 


……だめ。そんなの。私が、。私の妹を見捨てるなんて、だれであろうと許さない。


「雫さん、わかりましたか? 初対面の人にこんなこと言うなんてありえないですけど。お兄ちゃんも雫さんのこと好きだと思うので。お願いしま……「だめっ!」」


「……え?」


「だめだよ、自分を捨てちゃ。なんでそんなこと言うの?遥ちゃんは何も悪くないじゃない。病気になっちゃっただけ。負担になってる? そんなの関係ない、家族でしょ? もし負担なら、分散すればいい。ねぇ、遥ちゃん――」



「――私も、遥ちゃんの病気の治療に協力するよ」



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