第35話

 作戦のとおりに散らばる。


 この作戦は誰か1人がかけてしまっては通用しなくなる。誰か1人が変な動きをしても通用しなくなる。


 全体の規律が取れてこそのこの作戦。


 俺達日本人は、こういうことにおいては無類の強さを発揮する。


 日本人は譲り合いの精神で。日本人は謙虚で。


 だからこそこの世界で上位の国々に水を開けられていた――と言い換えることもできなくはないが、確実に長所ではあるだろう。


 ならばその長所を最大限に活かして。


 まず先陣、星斗さんとスナク組のペアが動き出す。






 _______






 俺は大事な役割に任命されてしまった。


 なんと最初にボスに攻勢を仕掛けていって、ある程度ダメージを与えたところで倒されに行く役だ。


 これはボスの習性を利用しているらしい。


 なんというか……まぁ……、ボスは死にそうなやつを優先して処理するんだと。


 そしてこの大会では復活できる。いつもの大会とは違って。


 このことを利用したのが、今から行われようとしている作戦だ。


 相方はスナク組。正直全く連携が取れる気がしないのだが。


 まぁそこは気合とノリで。別の世界線では俺が最強配信者として名を馳せていたらしいし。


 どうにかなるっしょ! 


「星斗さん、頼みましたよ」


 俺の弟子――と、勝手に思っているレン君からも応援を受けた。


 なんで自分より実力が上の人が弟子になっているのかって? ……自分の気分だよ。許せ。


「おうよ!! 俺の力を見せてやろうか!」


「頑張ってきてください!」


 ということで試合開始だ。


 ちなみにスナク組の得意技は――使えない。だから今回は素手でどうにかするらしい。


 魔法も使えることは使えるらしいが、まぁ……ボスに対して通用するかと言われれば微妙らしい。


 かく言う俺も……不安なのだが。だってこの人たちの中で俺が一番実力が弱いと思うんだ。


 みんなは四強、もしくはレン君。


 そんな中で、俺一人。どうしたらいいのだろうか。足を引っ張ってしまったら?


「星斗さん? ……気にしないでください、なにかあっても星斗さんのせいじゃないですから」


 さすがだ。レン君はほしい時にほしい言葉をくれる。


 こういうところが人気配信者と言われるゆえんか。


「わかってるよ! スナクさん? いいですか!?」


『わかりました! 行きましょう!』


 その言葉と同時に――俺達3人は一斉に飛び出す。






 ______






 俺はボスの胴体を潰す役割だ。……まぁ本当に潰すわけではないのだが。


 だから、1回冷静に全体を俯瞰する。


 だいたい、ボスは俺3人分くらいの体の大きさと考えればいいのだろうか。


 つまり5メートル強。


 そこに有効に打撃をいれるには、全体をボコす考え方じゃおそらくダメージは通らないだろう。


 だから一点集中。そもそも実力が劣っているんだ。そこを覆すためには、全実力をそこにつぎ込む。


 それにはとても合っている技がある。


『炎玉』――炎を1点に集中させて、大きな威力を生み出す技だ。


 ただし欠点は……技が向かう場所を見極められた時点で防がれて終わるということ。


 けど、これを使うしか打撃を入れられる自信がないんだ。


 行こう。勝てるよ俺なら。レン君からの期待に応えないといけない。


 地面を強く蹴る。

 空に舞う。


 スナク組が先にボスに対して攻撃を試みてくれている。


 だから俺が。俺が今攻撃を加えに行けば打撃を与えられる。


「――『炎玉』!」


 俺の全力を込めた技は超速でボスの方へ向かっていき――――防がれた。

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