第36話

 遠くから星斗さんの戦いぶりを見ていた俺達は戦慄する。


 俺の目から見ても、今の技は確実に威力があった。


 どう考えても、世界の中で上10人には入っている。おそらく俺とタメを張れるレベル。


 そう、だからこそそんな星斗さんの技が通らない、このことは驚くべき事態なのである。


「メアリーさん……?」


『そうだな……。思っていたよりも敵が強いのか? それとも防御に特化しているのか? それはわからないが――少なくとも私達が思っていたより何十倍も苦しいことになるのだろうな』


 メアリーさんの言うとおりだ。俺達は4組が力を合わせて戦うのであれば確実に敵のことを倒せると思っていた。


 だってCランクが8人集まるってことになるから。


 そんなこと、今までにない。全世界の最強が集まっている。ということはこれでたおせないのであればもうだれもたおせない。


 そういう事になってしまうのだ。


『けど……スナクたちの攻撃は少し通っているように見えるのだよな……』


 その言葉を聞いて俺は一度星斗さんから目を離すしてスナクさんたちの方を見る。


 彼らは素手である。丸腰である。魔法を使っていない。


 確実に星斗さんの攻撃よりも威力も速度も弱いはずである。


 なのにもかかわらず、スナクさんたちの攻撃は通っているように見えるのだ。


 現に星斗さんの方の体には傷が少しもついていないのだが、スナクさんたちの方には少し血が流れていたりする。


 エンシェントドラゴンって血が流れるのか……!?


 まぁいい。だからこれは、なにかを示しているのかも知れない。


 もしかしたら星斗さんが攻撃している右半分だけ異常に防御力が強いとか。


 そんなことが……実際にあるのかもしれない。


 だってここはワールドカップだ。どんな敵が現れるかなんて誰にもわからない。


 それに加えて俺はまだまだ新人だ。経験が多いわけではないのだ。


「ですね……作戦、立て直しますか?」


『いや、このままでいいだろう……いったんは様子見しないと。早とちりでなにか変えてしまってもだめだからな』







 _______







 俺は絶望していた。


 本気で放った技が全く効かなかったことに。

 完璧に防がれた。死角から放ったはずなのに。


 どうなっているのか、わからない。


 いったんはボスから距離を取ることが出来たが、いつ本気を出されるかわからない状態だ。


 多分まだボスは遊んでいる。俺達をおもちゃにするつもりなんだろう。


 あークソ。スナクさんたちは少しダメージを与えているというのに。


 俺は。俺の『炎玉』は。全くダメージを与えられてないじゃないか。


 悔しい。すごく悔しい。勝てない。人外たちの集まりの中に1人、俺だけが放り込まれてしまったみたいだ。


 なんでこんな事になっているんだろうか。


 レンくんに言っただろう。こんなことで諦めるのか? って。


 レンくん……に、言った……


 あれ。レンくんに言ったじゃないか。なのになぜ。張本人である俺が諦めようとしている?


 そんな事があっていいのか?


 もともと実力差がおることなんてわかっていた。


 だからちょっとでも敵のことを削るためにこの役割になったんだろうが。


 俺は――霜月星斗は。こんなことでくじけるような人間ではないだろうが!


 本気をぶつけろよ。心を燃やせよ。


 炎技が得意なんだろ? この心まで燃料にして一撃を加えてしまえよ。


 なぁ星斗! なぁ俺!


 こんなことでくじけるんじゃねぇよ! 俺はもっとできるだろうが!


“ぐあ゙?”


 ほら、今は幸いなことにスナクさんたちの方に意識が行っている。


 さっきは無理だったけど。今なら。

 すべてを賭けることができる今なら。


 きっと行けるはずだ。活躍できるはずだ。


 行こうか、新たな高みへと。

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無名配信者である俺の異名は【氷の王子】〜有名ダンジョン配信者を助けたのだが、それ全部仕組まれてたってマジですか!? 仕方ない、こうなったら世界中にこの異名を轟かせてやる!〜 如月ちょこ @tyoko_san_dayo0131

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