第3話 ヨーチューブ、バズった

 ついつい流れに流されてレイアさんの家に入ってしまったが、これって冷静に考えたらおかしいよな??


 いや、おかしいってレベルじゃない。何か天変地異が起こる前触れなのかもしれない。


「あ、ちょっとまっててください? 飲み物取ってくるんで。」


 と言われたのだが、そんな、冷静に待っていられるわけがない。


 というか、俺、お母さんに今日も家に帰れないって言わないと。


 3日に一回とかなんだよな、最近家に帰れるの。


 もうそろそろ帰んないといけないのはわかってるけど……


「あ! レイアさん! ちょっとお母さんに連絡してもいいですか…?」


「うん! けどちゃんと連絡したら私と話してね? ……あと、女子の前でスマホ触るのはご法度だからね??」


「あっはい……」


 ……怖い。そして笑顔が眩しい……


 そうして悶々としながら、しかし大人しくリビングで飲み物が来るのを待っていた。


「おまたせー! はい、紅茶で良かった??」


 ……紅茶。好きな人も多い飲み物だが、嫌いな人も一定数いるという。


 だがしかし!


「紅茶! 俺めっちゃ好きなんです!!」


 俺は紅茶が大好物なのである。そりゃあもうニヤけるくらいには。


 なんかレイアさんニヤニヤしてんなぁ…。


「なんですか、そんなにニヤニヤして。俺の顔になんかついてます??」


「うんうん、やっぱり紅茶好きなんだななぁ…。って思って。配信で言ってたこと本当だったんだね。それに…………ね、みんな騙されてるなぁ…って」


 うん?なんか言ってたか?レイアさん。まぁいいや。


「あー、そうっすね。覚えててくれたんですか。」


「そりゃあ! 私の好き……ゴホンゴホン、私の推しの配信者のことだから!」


 ……うん? 今好きって言ってたような気がしなくもないけど。聞き間違いだよな、そうに違いない。


「それはありがとうございます。それで? なんで俺のことを連れ込んだんですか?」


 そう、なんで連れ込んだのか、というのはすごく気になっているのだ。


 いやいやだってだぞ、普通は、助けられたからだと言ってもお礼だけ言うだろう?


 さっきは助けられたからとか言ってたけど……、絶対になんか別の理由があるんだろ。


「あー、えーっとね、」


 そこで彼女は少し顔を赤くし、下を向きながら、しかし大きな声で、興奮しきった様子で理由を話した。



「推しの配信者に会えたら、色々聞きたくなるのって当然じゃない!!?」



 うむ。そのとおりである。俺も好きなアイドルとかに会えたら絶対こういう反応してるもんな。


「なるほど。理解はよーくできました。で言いますけど、なにが聞きたいんですか??」


「え、聞いていいんですか?? じゃあ遠慮なく聞きますよ!?」


 いや、急にがっつくな!?


「身長は!?」


「176cm、平均よりは少し高いくらいじゃないですか??」


「はうっ……! 私が好きな身長だ……!」


「お、おう。ありがとうございます……」


「じゃあ次!! どこに住んでるのか!!」


「……バラさないですね?」


「バラしたら私の家もバラされるでしょ??」


 たしかにそれはそうか、納得できたな。じゃあ教えてやるか。


「……あのダンジョンの近くですけど。」


「へぇ……! そうなんだァ……! あとは自分で特定頑張るね!!」


「いや、頑張らなくていいから……」と俺が苦笑していると、彼女はこんなことを聞いてきた。


「でさ、レンさんってめちゃめちゃ強いけど、なんでそんなに強くなれたの??」


 ……うん? 俺が強い? いやいや、ありえないだろ。今回行ってたのだってDランクのダンジョンだし。


 レイアさん、俺に助けてもらったからって少し過大評価してるんじゃないか??


 ……まぁ、こんなことを直接言うのははばかられるけども。


「え、俺なんてDランクダンジョンくらいしか勝てないのでCランクですし。AランクとかBランクの方のほうが強いんじゃ……?」


 と、俺としては当たり前であろうことを言ったのだが、なぜかレイアさんは驚いたような顔をこちらに向けていた。


 え、なにがおかしいの? 普通にAランクとかBランクとかのほうが強いだろ。


「あー、レンさん、知らないんですか??」


「知らないって、なにが??」


「いや、やっぱりなんでもないです!」


 ……知りたい。ものすごくなにを言っていたのか気になるけど、俺は紳士だ。(童貞なだけ)


 ということは、相手が言いたくないことを無理やり詮索するのは良くない、俺のポリシーに反するだろう。


 つまり、ここはなにも聞かずに引くのが最善。


「それよりも!! ほら、夜ご飯一緒に食べましょうよ!」


 よし、なにも聞かなくてよかったな、気まずい雰囲気にもなってない。めでたしめでたし――


 ――じゃねぇだろ!!! 今なんて言った!!!


「夜ご飯一緒に食べましょうよ!」って言ったよな??


 え? なに? さっきも思ったけどこれ絶対天変地異起こるよな!?


 あーわかった。天変地異が起こる前にやってみたかったことをいっぱいすればいいんだな?


 オーケーオーケー。よし、食べるか。


 なんて事を考えている間にもレイアさんはどんどん料理を作っていっている。


 やべっ! このままだったら何も手伝おうとしないゴミ人間認定されちまう!


「レイアさん! 俺も手伝いますよ…!」


「いやいや…! 推しの配信者に料理を振る舞えるチャンス…! たとえ本人であろうとも手伝わせるわけにはいかない…!」


 と、お熱い断り文句を言われてしまったので渋々引き下がって戻ってくる。


 あーやばい。手汗が……。緊張してるんだよな、俺も。


 今までに体験したことのない未知の環境にいることで、どうしても落ち着かない俺は、スマホを見ることもなく、ずーっと手をモジモジさせていた。


 うん、他の人にこんなところみられたら絶対不審者みたいに思われるな。


 そうして手をモジモジさせること15分くらい?


 レイアさんが料理を運んできてくれた。


 運ばれてきたのは豚の生姜焼きや、油揚げとなめ茸が入ったお味噌汁などなど。普通に定食屋に出てきそうな感じがしている。


「ね、食べてみてよ」


「はい、いただきます」


 そう言われたので俺は一口食べようとしたのだが……??


「あー!! ストップ!!」


「なに?? え、なんか入れました??」


「違う……、ね、私が食べさせてあげよっかぁ……?」


 ……おうおう、廉也君、とうとう幻聴が聞こえるようになったのかね?


 そんな、まさか食べさせてくれるなんて夢みたいなことあるわけ無いだろうに。


「ねぇ!! 聞いてるの?もういいや、はい、あーん」


 ありました。夢みたいなこと。


 いやいやいや!そんな感動してる暇じゃないだろ俺!どう考えてもおかしいことが起こってるんだぞ??


 けど……、断るわけには行きませんよね(欲望の塊)


 ということで、


「あ、いただきます……?」


 その後は、なんとまぁほぼ全てをレイアさんからあーんしてもらうという人類史上最もありえないことが起きた。


 そのあとは、レイアさんにゲームをつきあわされたのだ。


 そして、気がついたら寝落ちしてしまっていた……レイアさんに謝らないとな。





 ここに、翌朝ものすごい筋肉痛と疲労感に襲われたことを記しておく。


 というかさぁ……!! 

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