第2章 高校生活編
第11話 入学式と魔力感知魔法
「あそこに貼ってあるクラス名簿で自分のクラスを確認したら、その教室に向かってください」
「分かりました」
受付をすませて、俺はテニスコートの隣にある棟の二階、1-C教室へと直接向かう。
貼りだしを確認しない理由は、担任と自分のクラス、出席番号を話し合いで既に知っているからだ。
教室に着き、中に入ると、とっくに座って待機している複数の生徒の視線が俺に集中する。
「っす……」
軽く会釈した後、自分の席を確認する為に黒板に貼ってある紙の方へ。
席は……一番後ろで窓側か。
出席番号が最後って最高だな!
俺の名前的には、普通なら出席番号が前の方になるが、今回の場合は特別。
新一年生のクラスと出席番号が全て決まった状態で、復学の許可が下りたから、俺の出席番号は必然的に最後にされた。
無理矢理、出席番号を前の方に組み込むよりは、最後にした方が先生達的にもやりやすかったんだろう。
いやぁマジでラッキー。
後ろの方が色々と楽だし、クラスメイト全体を見渡せるからめちゃくちゃ良い。
誰がどういう立場なのかも分かりやすいしな。
そんな事を考えながら俺は、自分の席に座る。
「…………」
それにしても静かすぎるな……。
みんな緊張しているのか誰と喋るわけでもなく、各々本を読んだり、受付で貰った入学式のしおりを見ている。中には机に突っ伏して寝ている者もいる。
いや、あれは寝たふりか。分かるよ俺も中学の時してたから。
しかし、まだ時間があるな。
俺もやる事ないし、適当にしおりでも見ておくか。
と、急に廊下から一軍男子高生ぽい大きな声が聞こえてきた。
「かいとマジだって! さっきなんか腕を掴まれた感覚がして、けど誰も周りはいなくてさ! そしたら急に耳元で『うらめしや』って聞こえたんだって!!!」
「あははは、はるき目立とうとすんなってー」
「おいマジなんやって!!!」
相変わらず一軍は声がデカいんだな。
姿が見えないのに、もうすぐそこにいるみたいな声量。
話を盗み聞きした感じ、かいとって人の言う通り、はるきは目立とうとしてるんだろうな。
休み時間とかに男子同士でふざけつつ、チラッと横目で好きな子とか可愛い子を確認するみたいな、あれ。
あーヤダヤダ、一軍はそれでちゃんとモテるんだから、本当にうらめしや。
ただ、目立つ手段にしてはなんか違和感を覚える。
やけに具体的だし、別にエピソードとして面白くもない。一軍がふざける内容は基本的に面白くないって事を踏まえた上でもだ(偏見)。
まぁそんな事を深く考察しても仕方ないし、どうでもいいか。
しおり見よ。
それから1時間くらい経った後、クラスメイト全員集まり。
担任に体育館入口へと連れられて、いよいよ入場の時間がきた。
「1年生、入場!」
司会が爽やかな声で言う。
すると入場曲がかけられ、それに合わせて1-Aから順番に体育館へと入っていく。
前に前にどんどん進み、程なくして俺のクラスも体育館に入場。
そして10分ほどで全クラスの入場が完了した。
「国歌斉唱――」
しおりに書いてあった流れの通りに淡々と進んでいく入学式。
その間、俺は1つのちょっとした不安のせいで考え込んでいる。
入場の時、俺は保護者席の中から両親を見つけた。
が、そこに妹とアリシアはいなかった。
シンプルに妹がいない事に若干傷付いてはいるんだが、それはとりあえず置いておくとして。
問題はアリシアだ。
あれだけ学校を見てみたいとか言って興味を示していたアリシアが、入学式を見に来ないなんてあり得るだろうか。
俺の親と一緒に入れば追い出される事もないだろうし、普通にいると思ったのに。
いや俺としてはいない方がありがたいんだけど、姿が見えないというのもなんかソワソワする。
そもそも学校に入った直後から姿を見てないし、不安でしょうがない。
何か企んでいる様な感じもしたし……。
どうか単純に家に帰ってるってパターンであってくれ。
頼む、俺はアリシアが何もやらかさないって信じてるぞ。
「誓いの言葉、新入生代表――
校長の式辞や来賓の祝辞を経て、次は新入生代表挨拶。
司会に呼ばれた新入生が前へと出てくる。
入学式も終盤。
そろそろアリシアの事を考えるのはやめて、式に集中するか。
……えーっと、代表挨拶は黒髪ロングの女子か。
遠めに見た感じ綺麗な顔立ちをしてるし、高校生活での青春は確約された様なもんだろうな。
なんとも羨ましい。
黒髪ロングの、1カ月後にはサッカー部の3年生と付き合っていそうな新入生代表は、壇上の演台の前に立ち、宣誓をする。
「誓いの言葉。暖かな春の訪れっ――」
と、そこで。
「うわっっ!!!」
突然、大きな男声が体育館に響く。
それに驚きざわつく場内。
代表も例にもれず驚き、宣誓を中断していたが、すぐに校長に促され再開する。
「……誓いの言葉。暖かな春の――」
「ぎゃっっ!!!」
次は女性の驚いた様な声が響き、また宣誓が中断される。
「今は入学式です。お静かにお願いします」
流石にまずいと判断したのか、司会が先生達が並んだ方を向いて注意をする。
注意された2人の先生は気まずそうに頭を下げる。
……いや、明らかにおかしいだろこの状況。
大の大人、ましてや先生達が、大事な入学式の場でそんな変な声を急に出すか普通。
うん、普通ならしない。卒業式の陽キャじゃあるまいし。
それなら何故、先生達がそういう事をしたのか。
考えられる原因は1つだ。
俺は周囲に聞こえない様に本当に小さな声で「魔力感知魔法――マジッシング」と呟く。
すると、先生達が並んでいる方から、大きな魔力の反応が。
ビンゴ。
やっぱりアイツだ。
魔力感知魔法とはその名の通り魔力を感知できる魔法で、近くに魔物がいないか確認する時や、姿を隠す魔法を使っている敵を探す時に役立つ。
魔力は誰でも大なり小なり持っている為、魔力感知魔法だけでは、それに反応した者が誰なのかまでは普通特定できない。
ただこの地球は、魔法が使えない事が当たり前の世界。
魔法を使わないと高める事のできない魔力が、この世界で育つはずもなく、地球に住むほとんどの人は魔力がないと言ってもいいレベルで低い。
そんな中で、先生達が並ぶ方から、姿の見えない何者かの大きな魔力の反応。
……アリシアだ。
アイツ、俺の大事な入学式にイタズラしにきやがった。
多分、一軍達が話してた『うらめしや』の件もアイツだろう。
許さん。これ以上アリシアの好きにさせてたまるか!
そう思い立った俺は軽く手をあげて適当な先生を呼び、「お腹が痛くて……」とトイレに向かった。
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