第16話 50m走――魔法無双

 高校生活が始まって、はや2週間。

 現在、友達は1人、彼女なし。


 身体測定中に思わぬ形でできた友達、和田りゅうせいと休み時間にだべったり、一緒に昼飯を食べたりして過ごす日々。


 髪型はアップバングでなかなかにイケメン。コミュ力もあって超フレンドリー!

 いわゆるザ陽キャで良い奴――そんなりゅうせいと送る高校生活は、正直悪くない。

 この現状に満足してしまっている自分がいた。


 が、ある1つ。たった1つの状況が、俺の不満を募らせている。


 それは、りゅうせいには彼女がいる事だ。


 俺がアリシアと学校に向かっている時、りゅうせいは彼女と登校している。

 俺がアリシアと家に帰る時、りゅうせいは彼女と帰る。

 俺が休日、家でゲームしている時、りゅうせいは彼女と遊んでいる(イソスタのストーリーで確認済み)。


 不満。ただただ不満でしかない。


 俺の夢である充実した青春、には友達と一緒に帰るとか、放課後や休日に友達と遊ぶってのも含まれている。いや、いた。


 だがどうやら、りゅうせいは基本彼女優先の男らしい。

 彼女とは幼稚園からの仲で、大事にしたいとか言っていた。


 もうクソいい奴。

 そんなクソいい奴だから、多分俺が一緒に帰ろうとか、休日遊びに誘ったらりゅうせいはのって来ると思う。

 でも、なんかそれだと俺が、仲睦まじくやってる2人の間に割って入るお邪魔虫みたいになりそうで、誘ってない。


 じゃあ俺は、この青春を過ごせてない不満をどう解消するか。

 そんなの1つしかない。


 俺も彼女を作ればいい!

 それで解決だ!


 そして今日、彼女作りに大きく影響するかもしれないイベントがある。

 その名も、新体力テスト!!!


 新体力テストとは、国が国民の筋力や敏捷性、持久力といった運動能力の現状を調べる為に行われているテストであり、高校生は全8種目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走、立ち幅とび、ハンドボール投げ)ある。


 これら8種目のほとんどを、俺は魔法で無双できるっっっ!

 つまり、女の子にカッコいい所見せれちゃうっ!

 そしたら「なにあの人、すごい! カッコいい!」ってモテちゃって、彼女の1人や2人できるかもしれないっ!

 アハハハッ! 魔法最高っ!!!


 え? 何?

 運動ができてモテるのは小学生まで?

 何を馬鹿な事おっしゃいますか!


 街に出て辺りを見渡してみなよ。

 女の子と一緒にいる男子学生、大抵スポーツバッグを持っているか、いかにもスポーツやってる見た目してるから。


 やっぱりね、人間もちゃんと生き物。

 強いオスはカッコいいんだよ、モテるんだよ。


 なので俺は魔法ってチート使って、モテちゃいまーす!

 ありがとうございまーす。


「身体能力強化魔法――フルフィジック」


 異世界でも何度もお世話になった、身体能力を底上げする魔法を唱えて、俺はグラウンドへと向かう。


 待ってろよ青春!



 チャイムと共に体育が始まる。

 生徒達は準備体操を終え、先生が説明した後、いよいよ新体力テストの時間に。


 1つ目の種目、50m走。

 直線50mを一気に駆け抜けてタイムを計るテスト。


 ふむ。先生から渡された紙によると、6.6秒以下で満点の10点になるらしい。


「ムズイな……」


 はっきり言って、魔法を使えば満点は余裕。

 ただ余裕過ぎて、本気出したら恐らく世界記録出る。


 それは流石にまずい。

 だから、満点出しつつ常人レベルの記録を出すっていう力加減をしないとなんだが……難しそうだ。


 4割程度で走れば、なんとか常人の範疇だろうか?

 うーん分からん。

 なんとなくで試すのはやっぱ怖い。


 まぁとりあえず、最初は一緒に走る人のスピードに合わせていって、ラスト5mくらいで少し本気だす、みたいな感じでいこう。


 理想は6秒台。

 1番丁度良くカッコいいレベル。


 マズいのは4秒以下。

 なんかカッコいい通り越してひかれそう。

 目立ち過ぎるのも良くないし、何事も程よく、が良いからな。


 っと、もう俺の番か。


 スタートラインに立つ。

 隣を横目で見ると、めっちゃくちゃ普通のタイムを出しそうな青年が真面目にゴールをジッと睨んでいた。


 この子にスピードを合わせたら最悪7秒とかになって満点取れなさそうだな。

 少し前を走る様に意識するか。


 屈んで手を地面につき、合図を待つ。


「じゃいくぞー。位置について、用意……ドン!」


 先生の合図で、すぐに走り出す青年。

 俺はそれを確認してから、遅れてスタートする。


 まずは2割くらいで走ってみて、合わせる意識っ――。


「っ!?」


 あっという間に青年を追い越してしまった。


 うわ、やっちまった。

 2割でもスピードが速すぎた。

 これ、力を1割以下で抑えないとタイム3秒とかになりそう!

 ゆっくり走らねば!


 後ろを走る青年の位置を、振りかえって確認しつつスピードを落として……。

 よし、数メートルの距離間。

 これなら多分、満点の6秒台かな?


 俺はそのまま、距離感を保ちつつ本気を出すことなくゴールした。


「はぁはぁはぁ」


 青年は荒い息をしながらこちらを見ている。


 え、なになに怖いんだけど。

 なんでそんな見つめてくるの怖い。


 もしかして俺の今の走り、怪しまれてる?

 いやまぁ確かに走り出しの速さ、どう考えても高校生レベルじゃなかったしな。

 かなり怪しいか、うん怪しいよな。

 その後の減速で誤魔化せてると思ったけど、この青年の感じ駄目そうか……?


 怖いし目逸らそ。


 と急に、ゴール側でタイムを計っていた先生がニコニコしながらこちらに近づいてくる。


「ねぇ君! 名前、なんて言うの?」

「んっ、伊月みのるですけど……?」

「伊月くんね。君のタイム、5秒34だったよ! 世界記録!」

「あっ……」


 あー世界記録出しちゃった。

 まずい。これはマジで超やらかし。

 やべ、頭真っ白。


「いやー。正直、俺1人で計ってるからだいぶ誤差ありきのタイムではあるだろうけどね。それでもこのタイムは凄いよ」

「あ、あは。はははー」


 笑って誤魔化す事しかできない。


「ほんと才能あるよ君。どう? 陸上部に入らない?」

「あーえ、いやその部活とかは流石に――」

「今すぐ答え出せとかって訳じゃないからさ。とりあえず、頭の片隅にでも置いといてよ」

「は、はぁ」


 面倒な事になった。


 俺はてっきり4秒以下が世界記録だと思っていたが、まさか5秒台だったとは……。


 こういう常軌を逸した記録を出して目立つと、ひかれる云々どころか、最悪政府に魔法使いってバレて実験台にされるとかありそうで怖い(飛躍しすぎ)。

 ちょっと次からのテストは自重するか……。


「あ、君は6秒13ね。ほんと君も凄いよ。中学陸上でチーターって異名が付いただけあるね」

「うっす」


 あーそこからミスってたか。

 一緒に走ってた人、普通に速い人でした。

 陸上やってた速い人の前を走ったらそりゃ5秒台行くわな。


 それを踏まえると、さっき見つめられた理由が色々と察しが付く。


 てか異名チーターって。

 ごめん俺の方が魔法を使う、別の意味のチーターで。


 俺は走り終わった生徒が集まる方へと行く。

 そこに近づくと、やんちゃそうな男陽キャ複数人が話しかけてきた。


「お前はえーなマジ」

「お前が一緒に走ってたやつ、中学陸上やってた有名なやつだぞ」

「そいつ相手にあの差でゴールってえぐすぎ」

「君なんか部活やってたん?」

「てか名前なんて言うん」


 キラキラした目をしながら、俺にそう言ってくる陽キャたち。


 あれ、なんだろう……。

 この感じ……悪くない!


 ちょ、これ。俺の魔法無双、やっと始まった感じっすか!?


 正直、俺には一軍の素質が無いのに【女子にカッコいい所を見せたい】って理由で、こんな目立つ事していいのかって多少不安があったが……。


 もしかしたら。

 これなら……もしかしたら俺、普通にスクールカースト一軍入りできる可能性あるかもっ!


 はーまじ、チーターさいこぉぉぉぉお!!!


――――――――――――――――

1-C 34番 伊月みのる


握力            点


上体起こし         点 


長座体前屈         点


反復横とび         点


20mシャトルラン     点


50m走        10点 5秒34


立ち幅とび         点


ハンドボール投げ      点

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