第15話 精神魔法

 次の日。


「よーし、今から身体測定だから女子は体育館に移動して更衣室で体育着に着替えろー。男子はこの教室で着替えて、体育館に50分までには集合してくれー」


 ついに来た、身体測定の時間が!


 昨日の夜、俺は必死に考えた。

 いつ、どのタイミングなら話しかける隙があるのかと。

 導き出された答えは1つしかなかった。


 それがこの、身体測定の時間だ。


 身体測定は全て、出席番号1番から順に並び行う。

 その順番は絶対であり、順を飛ばして好きな友達と一緒に並ぶ、なんて事はできない。

 だから必然的に、番号が近い人と並び時間という暇を潰す事になる。


 俺的にはそれが絶好の話しかけるチャンス!

 というよりむしろここしかない!


 昨日アリシアに勇気がでる魔法も教えて貰ったし、あとはその時を待つだけだ。


 体育着に着替え、体育館へ向かう。

 体育館には、1-C以外の1年生もチラホラと集まっていた。


 1年生全員が身体測定ってなると結構時間かかりそうだな……という事はそれだけチャンスがあると。

 やったるぞ!!!


 俺は1-Cが集合している所に行く。

 少しして、1年生全員集まる。それを確認した学年主任が流れを説明をし、静かに身体測定が始まった。


 っとこれは……想定外。

 まさか身体測定中、私語厳禁とは。


 俺の作戦では、始まり次第すぐに魔法を使って話しかけるつもりだったが、まぁ良い。

 私語厳禁と言えど、学年主任が目を光らせている範囲はこの体育館のみ。

 視力や聴力といった検査は、体育館ではなく別の教室で行うらしいから、その移動の時にでも話しかければ学年主任どころか他の先生達にも知られずに済む。


 ふふ、俺ってワルだろ~賢いだろぉ~。

 学年主任の言う事無視して喋って、友達作りしちゃうぜぇ~。


 それから俺達1-Cは体育館で、身長、体重、座高と順調に測定していき。

 いよいよ視力検査、別室へ移動する時間になった。


 うっし、ここからは時間との勝負。

 視力検査を行う教室は、体育館を出てすぐ目の前にある棟の3階、一番奥の教室。

 体育館から歩いて大体、6~7分で着くといったところ。


 その間に俺は教師の目を盗み、話しかけて、相手と知人以上にならなければならない。


 まぁ正直、なんの問題もないな!

 なんせ俺には魔法があるからな。


 1-Cは一列になって、番号1番から順に体育館を出る。

 体育館の出入り口に教師が1人いたが、向かっている棟までの廊下には誰も立っていない。


 とりあえず、ここで魔法を使っておくか。


 俺はわざとらしく咳払いを何回かして、口を右腕で塞ぐ。

 そしてアリシアから教わった魔法をすぐに唱える。


「精神魔法――ファレイジ」


 すると、急に根拠のない自信と勇気が湧いてくる。


 おお!!! キタキタキタッ!!!

 内から湧いて出てくるこの自信、勇気!!!

 今なら俺、何でも出来るぞ!!!

 誰でもかかってこい!!!


 ……あれ。

 えっとそれで何をしないといけないんだっけ……忘れた。

 まっ、いっか!!! 

 俺、つえーし、カッコいいし、何でもできるし!

 フゥーハッハー! スキップしちゃおー。

(※精神魔法――ファレイジは自信と勇気が湧いて出てくるが、24時間以内に2回以上使うと、数分間バカになる)


「なんかめっちゃ楽しそうじゃん。良い事でもあったん?」


 急に前の男の人が話しかけてきた!


「なんもないよー! ただ凄い色々できそうな気がしてきてね!!!」

「そ、そうなんだ」

「うん!!!」

「……てかさ、少し気になってた事があったんだけど。君の名前って伊月みのるだよね?」

「そだよ!!!」

「え、だよね。なのになんで出席番号最後なん? 苗字【い】から始まってるし、普通は番号前のほうじゃない?」

「あーそれね! それはね…………なんでだっけ、忘れたわ!」

「なんだそれ」


 前の男の人笑ってる!

 なんか俺面白いこと言ったかな! ハハ!!


「ま、いいや。ちなみに俺の名前は、和田りゅうせいだから、気軽にりゅうせいって呼んでよ。――これから仲良くしようや、みのる」

「うん、仲良くしよう! よろしく、りゅうせい!」


 わー!

 友達ができた!!!

 高校で初めての友達だー!!!


「そいや、みのるはイソスタとかやってる?」

「やってるよ!」

「お、じゃあ後で教えてよ」

「おっけー!!!」

「おいそこ。静かに」

「「はーい」」


 おお、先生に怒られっちった!!!

 先生そんな、階段上った先にいるのズルいよー、もうこわーい。

 これ以上怒られたくないしー、静かにしないとっ!!!


 …………。

 …………。

 …………。


 おいおいおいおいおいなんだこれ!

 え、何、めっちゃくちゃはっず!


 なんで脳内お花畑になってたんだ俺!?

 いやまじどういう事、意味分からん気持ち悪っ!

 普通にスキップとか気持ち悪いし、発言が俺じゃない!


 恥ずかしさと混乱で、寒気すらしてきた。


 ちょほんと、早速黒歴史作ってどうするよ俺!!!

 恥ずかしい恥ずかしい。

 視力検査待ちの、この静かな時間まじで死にそう。


 うあーもう!

 一旦、マジ一旦冷静になれ俺。

 深呼吸だ深呼吸。


「すぅー」


 呼吸を整える。


 よし、オッケー。

 冷静に、なんでこうなったか思い返してみよう。


 まずは俺が変になったタイミングだけど……。

 えーっと、確か魔法を使った辺りで……。


 ……うん、どう考えても魔法のせいですありがとうございます。


 アリシアめ。昨日魔法を教わって試した時はなんともなかったのに!

 もしかして、こうなる事を知っててワザと俺に教えなかったとかじゃないだろうなアイツ!!

 問い詰めるか。


「……はー」


 しかしまぁ、まだ高校が始まって2日目というのにほんと、なんでこうなるかなぁ。

 とりあえず友達? はできたから良かったけど、絶対変人だと思われたよな。

 なんなら、りゅうせい以外にも俺の奇行見てたクラスメイトいそうだし。


 ――青春って、ムズイな……。



 この日、身体測定が終わった後俺はりゅうせいと、イソスタとLIMEを交換し、クラスライムに招待して貰った。

 こうして俺は無事に高校で初めての友達と、クラスでの立場をゲットしたという訳だ。


 ちなみに今日の出来事についてアリシアに訊いた所、どうやら24時間以内に2回以上あの魔法を使うと数分間バカになるらしく、それを俺に伝え忘れていたとの事だ。

 アリシアは「ごめんね。てへぺろ」とか言ってきたんで、普通にしばいた。

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