第14話 友達作りって難しい

 ――3日後、月曜。朝7時48分、1-C教室にて。


「昨日俺があげたストーリー見た?」

「見た見た」

「あれえぐいよな! マジ笑ったわ」

「それな」


「さくらってチックトッカーめちゃ可愛いよね!」

「それ! 私もあんな顔で生まれたかったわ~」


「――だよねだよね」

「マジそれな」

「草はえ――」


 あー終わったぁー!

 はい終わりです終わりです。

 見渡す限りクラスメイトみんな喋ってます、グループできてまーす!

 いや、みんなは流石に言い過ぎた。

 クラスの3分の2以上、喋る友達できてまーす!

 完全に俺、出遅れました!!!


「ぐっ……!」


 まさかこんなにグループができるなんて思ってなかった。


 まじ冗談抜きでどうしよう。

 どのクラスメイトを見ても、話しかける隙がない。

 ほとんどは楽しそうに話してるし、1人でいる人は話しかけるなオーラが凄い。


 これ、既に……俺だけ浮いてる……?


 ヤバい、意識すればするほど置いてかれてる感半端ない。

 早く誰かに話しかけないと、早く友達作らないと、ヤバい!

 俺の青春が!


 と、焦ってキョロキョロしながら話しかける人を決めようとしていた時。


「ショートホームルームの時間でーす。席着いてー」


 担任が教室にそう言って入ってきた。

 クラスメイト達は指示通り、各々の席へと戻り座る。


 ま、まぁまだ高校生活は始まったばっかだし、そんな焦らなくても良いよね!

 今日中、今日中に誰かに話しかけて、友達になれば良い。

 そうそう、今すぐ作らないといけないわけじゃないんだし、落ち着いて行こう俺。


 落ち着いて、話しかける隙を伺うんだ!!!


 ――そうして俺は、隙を伺い、その時を待った。


 校内の場所確認案内ツアー(勝手に命名)の時、学校健診で並んで待っている時、昼食の時、掃除の時、はたまた健診で並んで待ってる時……そして、ホームルームと来て――。


「明日は身体測定だから、体育着を忘れないでくださいねー。って事で今日はこれで終わりです。皆さん気をつけて帰ってくださーい」


 入学式同様、誰にも話しかける事なく、俺の高校生活1日目が終わった。


「はぁ……まじか……」


 隙が、全くなかった……。

 誰にも、話しかけれなかった……。

 友達……作れなかった……。


 もしかして、ボッチ生活の幕開け……?


「はぁ」


 これからの高校生活に絶望しながら俺は靴に履き替え、校門へと向かう。


「……あ」


 校門の前に、こちらに大きく手を振る変人が1人いる。

 ソイツは黒い帽子を深く被り、白マスクをつけてる。いかにも不審者って感じだ。


 よし、無視しよう。


 俺は「学校おつかれー」と話しかけてくるその不審者を無視して通り過ぎる。

 すると不審者は。


「ちょっと、ちょっと。なに無視してんのよ」


 そう言って俺の肩を掴み呼び止める。


「あ、なんだアリシアか。てっきり不審者かと」

「不審者って失礼ね! あんたがこの格好にしろって言ったんでしょ!?」

「っ、声デカいな」

「わざわざ私が迎えに来てるのに無視するし失礼な事言うからじゃん」


 近くにいる生徒達の視線が俺達に集まる。


 やば、目立ってる。移動しないと。


「あー分かった分かった。分かったから、とりあえず早く帰ろうか」

「ったくもう……」


 全くもう、は俺のセリフだっつーの!

 ほんと勘弁してくれよこの送り迎えシステム。


 実は、母さんが心配だからと、俺の登下校に毎回アリシアが付いて来る事になった。

 入学式だけだとばかり思っていた俺は今朝、軽く母さんと口論になり。

 その結果、母さんに言い負かされて、こういう状況になっているという……。


 せめて、アリシアが目立たない様にと、帽子とマスクを着装させたが。


「失敗か」


 帽子からはみ出た銀色のサラサラ髪があまりにも目立ち過ぎている。

 すれ違う人もそれに気付いて、じっとアリシアを見たりしてるし。

 むしろこの格好が、お忍び有名人感あって逆効果な気さえしてきた。


「私を見ながら失敗とか言うのやめて?」

「いや、アリシアに言った訳じゃない」

「ふーん。ほんとかなー?」


 そう言ってアリシアは顔を近づけてくる。


 めんどくせぇ、無視だ無視。


 それよりも俺は、友達作りをどうするか真剣に考えないといけないんだよ。

 本気で今の状況ヤバいからな。

 たかだか同級生に話しかけるくらいでビビッて、知人すらできてないってマジでヤバい。


 焦りが顔に出てたのか、俺に話しかけて来る人もいなかったしな。


 ……俺に、勇気。話しかける勇気さえあればっ……!


 と、ある事を思いつく。


 そうだ、その手があるじゃないか。

 今は周りに人が結構いるし、帰ってからアリシアに訊いてみるか。


 そうして家に着いた俺は、速攻アリシアに訊く。


「なぁアリシア。勇気がでる魔法って、ある?」

「はい?」

「答えてくれ。勇気がでる魔法はあるのかどうか」

「えー、勇気が出る魔法? んー、ある事にはあるね」

「おお! その魔法、俺に教えてくれ!」

「やだ」


 俺がお願いすると、アリシアは間髪入れずに拒否する。


「は! なんで!」

「だって私を無視して不審者とか言ったの謝ってもらってないもん」

「いや、それは校門だと目立つからであって――」

「あー言い訳するんだー。なら教えてあげられないなー」


 アリシアはすまし顔を俺にしてくる。


 ええ!?

 うっざっ!!!


 なにコイツ、めちゃくちゃうざいんだが。

 なんか少しにやついてるし、くっそぶっ飛ばしたい。

 けど、ここは我慢して謝らないと、魔法を教えて貰えないからな。


「あーごめんごめん」

「棒読み。やり直し」

「ぐっ……!」


 コイツ、あれだ。

 この間俺がつんつんちゃんを人質にとった件の仕返しをしてきてるわ。

 あーうぜぇ!

 けど我慢!


「ごめん」

「んー、何が?」


 くそっ!


「無視したり、不審者とか言ってすまん」

「もっと丁寧な言い方で」


 あー。

 あぁぁぁああぁぁああ!!!!!


 俺は心の中で叫びながら。


「アリシアさんの事を不審者と罵ったり、無視をしてしまい誠に申し訳ございません」


 丁寧に謝罪をした。


「うん、良し。最初からそう言えば良かったのよっ」


 今度何かあったら覚えておけよ。


「それじゃあ、魔法を教えて貰えるって事で?」


 俺が訊くと、アリシアは上を向き考え込む。

 少しして口を開く。


「でもなー。私の事、失敗とか言ったしなー」


 なんだコイツのメンヘラムーブ、しつこいぞ。


「いやだから、あれはアリシアの事じゃなくてな。俺は格好の事を言ったんだよ」

「あ、そうなんだ」

「そうだよ。だから教えてくれ」

「しょうがないなー。ちょっとだけだぞー」


 可愛くねぇよ。

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