第13話 銀髪美少女に問い詰める

「おい、アリシア。お前何か言う事はないのか?」

「え? 何よ急に」


 ポテチを食いながら、だらけた格好のアリシア。

 俺はその姿に少しイライラしながら、話を進める。


「とぼける気か? ……今日の入学式、お前余計な事してただろ」

「べ、べつに何も? 私、すぐ帰ったし何のことだかー」


 明らかに動揺して、凄い棒読み。

 ポテチも凄い勢いでバクバク食べてる。


「ふーん。この右手、怪我したんだけど。本当に話す気はないんだな?」

「話すも何も、私、なんにも知らないし。てかそんな小さい怪我、つば付ければ治るって」

「そうか」


 俺はポケットからスマホを取り出し、『この紋所が目に……』と言わんばかりにアリシアに見せつける。


「ほら、これ。コイツがどうなってもいいのか」

「――っ! つんつんちゃん!!!」


 アリシアが大切に育てているゲームキャラのウーパールーパー、つんつんちゃん。

 俺はコイツを人質に取った。

 これがどれだけの効果があるか分からんが、まぁもしもの時はスマホ自体を人質に取るからどっちでも良い。


「お前が正直に言わないならコイツをっ――」

「ごめんなさいごめんなさい! ちょっとした出来心だったんですぅ! ほんとごめんなさい! だからつんつんちゃんだけは許して、つんつんちゃんだけは!!!」


 Oh、ジャパニーズ土下座。

 異世界には土下座の文化はないのに……。

 なんて素晴らしい土下座を見せてくれるんだコイツは!


「やっぱりお前だったか! 魔法を勝手に使わないってルール破りやがって! ていうか出来心ってレベルじゃなかっただろ! 入学式が始まる前にもなんかしてたみたいだしな!」

「ちょっと学校を見て回ったのと、ほんの少し何人かからかっただけなんです! 許してくださいぃいぃ」


 おいおいマジかよ。

 あの一軍男子以外にも、同じような事してたのか……。

 変に噂にならないと良いが……。


「他は!」

「他は……あ、みのるさんの右手を傷つけましたごめんなさい! ううぅぅ、つんつんちゃんだけは勘弁してぇぇ!」


 予想以上の効果、つんつんちゃん。

 アリシアは土下座をしながら、とんでもない量の大粒の涙を流している。


「他にはないのか!」

「他は……ないです! だから、だからぁぁあ!!」


 泣きすぎだコイツ。

 こんな場面、見られたり聞かれたりしたら俺が悪い事してるって思われるな。

 俺とアリシア以外、みんな買い物に出掛けてて助かった。


「本当にないんだな!」

「はいぃぃ」


 この様子じゃあ、他は何もしてなさそうだな。

 そろそろスマホを返してやるか……。


 スマホをアリシアに渡そうとするが、俺は途中で思いとどまる。


 待てよ。これで終わらせたら、俺が損してるだけじゃないか?

 今のところ、起きた事実に対して謝罪をされただけで、代償を払って貰っていない。

 小さいとはいえ、怪我もしてるし。


 アリシアには、今日起こした分の働きをして貰わないとな。


「なぁアリシア。今日自分がやった事、ちゃんと反省してるか?」

「してますしてます! めっちゃしてます!」

「じゃー、そうだな。本当に反省してるなら、これからは魔法を無償で教えろ」


 実は、俺が異世界で覚えた魔法は少ない。

 毎日生きることに必死で、魔法を覚える時間があまりなかったからだ。

 そんな中でも覚えた魔法というのは、ダンジョン探索に必要なものばかり。


 それだけじゃ、高校生活を魔法で無双(青春)するには少し心もとないと思った俺は、異世界人のアリシアに魔法を教えて貰おうと考えた。


 しかし、アリシアは生粋の面倒くさがり。「えー。じゃあ私の言う事聞いてくれたら教えてあげる」と毎回、1つの魔法につき1日執事の様な対価を要求してきた。 

 ご飯の用意に部屋の掃除、買い物にゲームアプリのデイリーミッション、風呂上がりのドライヤーまで。

 正直、それがクソだるい。だるすぎて、教えて貰った魔法も数える程度しかない。ちなみに隠密魔法はその内の1つ。


 だからアリシア! これからは魔法を無償で教えて貰うぞ!


「……ぇー」


 明らかに嫌そうな顔をしながら、ため息をつくように小声でそう言うアリシア。


「ん、今『えー』って言ったか? なら仕方ないなー。つんつんちゃんとはもう――」

「嘘です嘘です! 無償で教えます教えます!」

「本当だな? スマホを返した後でやっぱなしとか辞めろよ」

「そんな事言いません言いません!」

「ならよし」


 俺はアリシアにスマホを渡す。

 少しして、アリシアが口を開く。


「けど……せめてドライヤーくらいはして欲しいなぁー」

「やっぱなしは辞めろって言っただろ」

「なしじゃなくてその……ドライヤーだけで良いからさー」


 なんだかんだ言って、そのドライヤーが一番面倒なんだよ。

 アリシアは髪が長いから乾くのに時間かかるし、ぼさぼさにならない様に気を遣わないといけないし。


 …………まぁでも、対価なしってのも流石に可哀想……か。


「はぁー、もう分かった。ドライヤーだけな! それ以上要求してきたら、つんつんちゃんとはもう会えないと思え!」

「やった! あい!」


 嬉しそうにするアリシア。


 恐らく、髪を乾かす面倒さを本人が一番理解してるからこその喜びだろう。

 ……面倒なら、ぼさぼさとか気にせずに風魔法使えば良いのに。


 俺はそんな事を思いながら自分の部屋へと戻り、机に向かって今日の事を考え込む。

 いわゆる1人反省会だ。


 振り返ってみると、今日一日の俺の行動は、どれも失敗だったように思える。

 ここで言う失敗とはもちろん、俺の夢である『充実した青春』からそれる、という意味だ。


 まずは今朝。アリシアと登校してる時、轢かれそうになっていた犬を助けたやつ。

 あれはシンプルに目立ち過ぎた事が失敗。

 身体能力強化魔法ではなく、風魔法とか使ってさりげなく助けるべきだった。


 学校に近い場所だったから生徒も何人かいたし、当然一般人もいた。

 そんな中で目立つ魔法を使うのは、青春云々置いといても、普通に色々とリスクがある。

 反省。


 次に、入学式。イタズラするアリシアを止めようとした件。

 あれはもう失敗じゃなく大失敗だろう。


 アリシアを止める為とはいえ、わざわざ入学式を抜け出すっていう目立つ行動に始まり。

 隠密魔法と魔力感知魔法を使って式場を動き回り、焦ってコケて危うく校長にバレかける。

 そこまでしたのに結局アリシアを捕まえる事ができず、ただただ、怪奇現象を起こしただけになった。

 反省。


 ……と、次で最後の反省だが。

 正直、これが一番失敗、ひいてはこれからの高校生活に響いてくるかもしれないと思っている。


「はぁ……」


 今日一日を通して俺は…………誰にも、話しかける事ができなかった!


 クラスメイトのみんなは各々連絡先交換や談笑をしたりしていたが、俺はその間彼らを黙って見ることしかできなかった。

 なんでかはわからない。異世界では普通に、割と誰にでも話しかけることができたのに、なぜか今日は躊躇した。


 …………もしかしたら、周りがみんな年下だから、勝手に壁を感じていたのかもしれない。

 まぁたかが1個差なんだけど。


「あーちくしょう!」


 次の登校日は土日挟んで来週の月曜日だ。

 その土日の間に、今日連絡先交換して仲良くなった人同士のグループとかコミュニティが仮に形成されてた場合、俺の話しかけるハードルが数倍に跳ね上がってしまうぅ!!


 今、友達と話してるんだけど、割って入って来ないでくれるかな?

 みたいな事言われるんじゃないかと、嫌な想像してしまう!!!!


 くそ、ここはそんな仲良くなっていないでくれと祈るしかねぇ!

 そして俺は俺で、勇気を振り絞るしかねぇ!!


「来週の俺、頑張れ!」

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