第17話 ハンドボール投げ――りゅうせいと勝負

 男子女子共に全員、50m走を走り終えると、次はハンドボール投げの時間となった。


 2つ目の種目、ハンドボール投げ。

 地面に描かれた円から出ないようにハンドボールを投げ、その位置からボールが落ちた距離を測るテスト。

 2回投げて、より距離が伸びた方の記録を書く。


「んー」


 37m以上いけば満点らしい。

 これまた満点取るのが余裕なテストだなー。

 もういっそのこと、振り切って何百mとか記録出しちゃおうかな。


 と急に、俺の肩が重くなる。


「おいみのるー、さっきの走り見たぞー。お前めっちゃ速いやん」


 先ほどまで女子と楽しそうに喋っていたりゅうせいが、肩を組んで話しかけてきた。


「浮気はもう済んだのかー?」

「いや女子と話しただけで浮気って言うな」

「そんな否定しなくても……俺は別に良いと思うよ。だって人生楽しんだ者勝ちなんでしょ?」

「浮気なの確定かよ。みのるは俺をなんだと思ってるんだ」

「……思わせぶり男?」

「んだそれ」


 普段からりゅうせいは女子との距離感がバグってる。

 下の名前呼びから、さりげないボディタッチまで。

 男の俺から見ても、とにかく色々と思わせぶりが激しいと思う。


 まぁそのおかげというか、そのせいというか。

 りゅうせいは女子にモテている。

 さっきまで話していた女子の目もハートだったくらい。


 正直、羨ましい。

 ぜひともその行動力を見習いたいが、俺がやっても『ただただ距離感が気持ち悪い人』になりそうだからやめておく。


「てかそれよりみのる。ちょっとハンドボール投げで勝負しようや」

「勝負?」

「より遠くにボールを飛ばした方が勝ちって勝負。負けた方はジュースおごりで」

「えー流石にりゅうせいには勝てないよー」


 棒読みでわざとらしく言う。


「その言い方的に相当自信ありそうやなー」

「さぁどうだろうねー」

「とりま、勝負決定って事でいいよな?」

「めんどいけど、まぁいいよ。本気でかかってこいよ?」

「いやー本気出さなくても、みのるには勝てるよー」

「ふ、その自信たっぷりに伸びた鼻、ぶっ潰してやるよ」


 てな感じで、りゅうせいとの勝負が始まった。


「じゃ先、投げてくるわ。みのる、俺の距離聞いてビビッて勝負降りたりすんなよ?」

「しねーよ。はよ行ってこい」


 りゅうせいは駆け足で、ボールを投げる位置まで向かう。

 その定位置に着くと、先生から渡されたボールを右手で握る。


 瞬間、一部女子が「頑張れー」とりゅうせいに声援を送る。


 クソッ!!! 恨めしい、いや羨ましい。


 りゅうせいは声援に対してニコッと笑った後、ステップで勢いをつけながら全力でハンドボールを投げた。


「おお」


 ボールは宙高く優雅に飛ぶ。

 グングン距離が伸びていき――。


「記録、48m」


 満点だ……。

 流石は運動神経抜群男。


 ちっ、こっちを見てニヤついてやがる。

 あーそんな記録、すぐ越してやるよ。


 そしてりゅうせいは2回目のハンドボール投げを行う。

 記録は46mだった。


「どうよみのる。この中学バスケで鍛えられた肩は」

「あーすごいすごい。めっちゃすごい」

「あはは、だろだろ。まっ、せいぜいみのるも頑張ってくれよー」

「言われなくても」


 ふっ、俺には魔法があるってのによ。笑いをこらえるのに必死だぜ!

 むしろこんな出来レースでジュース貰っていいんですかねぇ?

 ってまー俺は遠慮なくいただきますけどねぇ!!!


 しばらくして、順番がまわってきた。

 俺は胸を張って自信満々に、定位置に向かう。

 着くと、先ほど陸上部に誘ってきた先生が「頑張れ」と言ってボールを渡してくる。


 先生……。

 俺に声援をくれるのは、先生だけですよ……。


 女子の方をチラッと確認したけど、誰も俺に興味なさそうなんですよ。

 悲しいです。

 悲しいと同時に、ムカつきます。

 なのでその気持ちをボールにぶつけて投げます。

 あくまでも力は1割以下に抑えつつ、ですけど!


 俺は一呼吸置いたあと――。


「おらっ!」


 ハンドボールを投げる!


 するとボールは――。


 バンッ!


 という音と共に、空高く跳ね上がる。


「あっ……」

「記録、0m!」


 ……うん、家に帰っていいですか。

 俺、恥ずかしさでどうにかなりそうです。


 ボールは俺のゴミコントロールによって、すぐ目の前の地面に当たって跳ねた。


 魔法で身体能力は上がっても、生まれ持った運動神経は変わらない。

 その欠点が今発揮された。


 最悪。こんな恥ずかしい事ないです。

 またもや黒歴史作ってしまいました。


「……ま、まだチャンスはあるから。落ち着いて、な?」


 先生……。

 この先生、好き(チョロイ)。


「ふぅ……」


 もう分かった。

 俺はボールのコントロールが苦手。

 だから、棒立ちで、確実にボールが前に飛ぶように投げる。

 見た目は少しダサいけど、それを意識しよう。


 ……いくぞ。


 俺は右手でボールを持ち、線ギリギリに立つ。

 そして左手を前に伸ばししかっりと投げる方向を捉える。


 ちょっと上に投げる感じで……。


 ここだ!


 そう思った瞬間に、俺はボールを投げる。


 ボールはひゅーっと風を切りながら、前へ前へと進む。


 キタコレ!


 数秒後、落下する。


 どんなもんだい!

 結構前に進んだし、流石にこれは勝っただろ!

 しかも常人レベルに収まってる距離間だし、完璧な投げだな。


 まー50mくらいいってると嬉しいけど……どうだ。


 距離を測る先生が、ボールの落下地点に近づく。

 確認後、大きな声でこちらに言ってくる。


「記録、44m!」


 ……。


 えっ。


 負けたぁぁあああ!!!

 りゅうせいに負けてしまった!


 生徒の方を見やると、りゅうせいがニコニコしながらジュースを飲むジェスチャーをしている。


 チクショウ!

 コントロールの方に意識を持っていきすぎて、力をセーブしすぎた!

 あーなんか悔しいぃぃい!



 その後、体育終わりに約束通りジュースを奢る羽目になった。

 しかもちょっとお高めのデカいジュースを。


 ……リベンジマッチをしよう。俺はそう決心した。


 ちな、50m走の後に喋りかけてきたやんちゃ男陽キャ達とは、知人にはなったものの、とくに連絡先交換はしてない(できなかった)。

 女子には……まだ誰にも話しかけられていない。


――――――――――――――――

1-C 34番 伊月みのる


握力            点


上体起こし         点 


長座体前屈         点


反復横とび         点


20mシャトルラン     点


50m走        10点 5秒34


立ち幅とび         点


ハンドボール投げ    10点 44m

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