第18話 20mシャトルラン――リベンジマッチ

 ――2日後、体育館。


 さぁやってまいりました。新体力テスト改め、俺のリベンジマッチの日が!


 今日行われるテストはこちら。

 握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、立ち幅とび。


 まだやってない種目を今日の2時間で全部行うみたい。


 ……さてと、どの種目でリベンジマッチしようかなー。

 できれば、確実に勝てる。ようは魔法を活かせて、かつ運動神経を使わないやつが良いよな。


 上体起こしは魔法を使ったら支え役の人が大変になりそうだから、使わない方向で考えてるし。

 長座体前屈は、身体を柔らかくする魔法とか知らんから、俺本来の実力でやらないといけないし。

 反復横とびはリズム感、運動神経がちょっと関わってくるから魔法使ってもシンプルに負けそうだし。


 となると、やっぱ握力か20mシャトルラン、もしくは立ち幅とびになる。


 まぁこの3つならどれでも勝てるだろうし、りゅうせいがのってくる種目にするか。


 本日1発目の種目、20mシャトルラン。

 ドレミファソラシドの音に合わせて20mの直線を行ったり来たりするテスト。

 引かれた線を2回連続で音に間に合わず踏めなかった時か、単に走る事をやめた時点で終了。


 いきなり疲れるやつきた。

 これほんと嫌いだったんだよなー、小・中の頃。

 とにかく疲れて、走り終わったあと頭クラクラするわ口が血の味するわで。

 なにより、みんな一斉にするから、最初に離脱したら目立つっていう晒し付き。


 でもでも、今の俺はちがーう。

 異世界でスタミナがめちゃくちゃついたからな?

 ダンジョンで重~い荷物を背負いながら1時間以上走れるくらいにはっ!

 こうなれたのもある意味、俺をこき使った異世界の人々のおかげかもな。

 ありがとうな、クソ共!!!


 てことで、この種目から早速りゅうせいにリベンジマッチを打診してみる。


「おーい、やりらふぃー」

「誰がやりらふぃーや」

「シャトルラン、俺と勝負しようぜっ」

「え? 勝負? それ負けた方なにかあんの?」

「当ったり前だろ。負けた方は購買の飯おごりで」


 勝つ気で来たから、今日は昼飯を持ってきていない。


「ええーまじか」


 予想外にりゅうせいは乗り気じゃなさそうだ。

 ここは少し煽ってみるか。


「なになに? 勝つ自信なくてちょっとひよってる?」

「ちげーよ。俺今日、昼飯持ってきてるから、別にいらねーんだよ」

「あーそゆこと。まぁ万に一つもないけど、りゅうせいが勝ったら今度、昼飯をおごるよ」

「お、まじか。それならいいぜ。勝負しようか」

「決まりな」


 そして俺達は、一番端の方に隣同士で並び、シャトルランの開始の合図を待つ。


「みのる、無理せずキツイ時はすぐやめるんだぞ?」


 煽るようにそう言ってくるりゅうせい。


「それ俺のセリフな。はーほんと、シャトルラン終わった後が楽しみだわ」

「言うね~。バスケで相当スタミナつけてっから、俺手強いぞ~? 今なら勝負降りてもジュースで勘弁してやるぜ?」


 バスケで鍛えられた運動神経抜群男のスタミナと。

 異世界で散々こき使われ鍛えられた男のスタミナぷらす魔法。


 どっちが勝つか、もう結果は見えてんだよなー!


「いや、降りるわけないじゃん?」


 フッと笑いながらそう答える。


「そうこないとな」


 と、ここで。


「このテストは――」


 シャトルランの音声CD――テストの説明が始まった。

 生徒全員、何回も耳にした事のあるそれを黙って聞く。

 説明は2分ほど続き。


「5秒前……3、2、1、スタート」


 ド・レ・ミ~の音と共にシャトルランが始まった。

 と同時に俺は身体能力強化魔法――フルフィジックを静かに唱える。


 男子一斉に、20m先にある平行の線へ向かう。

 走る人、歩く人、ふざけて立ち止まる人、各々色々な方法で進む。


 シャトルランは、最初はかなり余裕あるからな。

 まぁ俺は、とりあえず小走りくらいで。

 つっても、魔法の影響で皆からしたら最初からガチで飛ばして走ってる人に見えるだろうけど。

 この魔法、力加減が難しいからね。


 案の定、誰よりも先に着く。


「みのる、ペース配分どうなってんの」


 りゅうせいは笑いながら訊いてくる。


「まぁまぁ、これでもちゃんと考えてるから」

「そうなん? あまりにも勝負相手が弱いと冷めるから、頑張ってくれよ」

「りゅうせい、そんな喋ってるとすぐにスタミナ切れるぞ?」

「余裕余裕」


 りゅうせいとそんなやり取りをしていると「1」という声と、またド・レ・ミ~の音が鳴り始める。

 それを聞いた俺は、20m先のスタート位置に小走りで戻る。


 20mシャトルランはこれの繰り返し。

 だんだん速くなるド・レ・ミの音に、間に合わせるように往復していって、回数をかせいでいく(片道1回、往復で2回)。

 ちなみに、満点を取るには125回以上20mを走らないといけないらしい。


 満点は取りたい。

 だから勝負関係なしに、その回数までは頑張って走るつもりだ。

 そこまでいったら、あとはりゅうせいに勝つだけでいい。


 ……いや、やっぱ勝つだけじゃなく、最後の1人になるまで走るか。


 最後の1人になったら、どのテストよりもカッコよさが目立ちそうだしな!


 それにカッコよさとかだけじゃなくて。

 シンプルに良い方で目立てば、素質無くてもスクールカースト一軍入りできる可能性があるって事に2日前の体力テストの時、気付いちゃったしっ。


 高校生活、目立った者勝ちです。


 てなわけで俺、頑張ります。


 10回、20回、50回、80回、100回――。


「101。ド・レ・ミ~」


 あれ、思ったより余裕。

 異世界に行く前は、最高でも21回とかだったから、ここまで走れてるの、なんか感動。


 周りを見てみると、走っているのは俺とりゅうせい、それと数人程度。

 この時点で既にかなり目立っている。


「りゅうせい、結構きつそうに走ってるな」

「……」

「あれ、なんで答えてくんないの?」

「…………」

「まさかりゅうせい、お疲れですか!?」

「なんで、みのる……そんな、元気なんだよ……」

「いやぁ、これが帰宅部の本気ってヤツかな?」

「くっ……」


 それからもシャトルランは続く。

 105回、110回、115回、120回――。


 そして121回を超えた時、俺とりゅうせい以外にもう1人、負けじと走っていた人が離脱し、いよいよりゅうせいとの一騎打ちとなった。


「「「頑張れ~」」」


 女子の声援が聞こえてくる。

 俺はすかさずその女子達を確認。


 見ている方向は……りゅうせいか。

 まあ知ってた。

 けどムカつくんで見てる人には聞こえない大きさの声でりゅうせいを煽ります。


「ほら、りゅうせい。女子が応援してくれてんだから、頑張れよ!」

「……」

「ほらほら、そのスピードだと間に合わないよ!」

「……」

「はやくはやく!」

「……」

「女子の期待を裏切るなよイケメン!」

「……もう、むりっ!」

「あー」


 122回目でりゅうせいは脱落。


 よっしゃー!!!

 このリベンジマッチ、勝者は――俺!!!

 無事に復讐完了!!!


 ……なんか俺、完全に悪役側だな。


 まっいいや。

 あとは満点越えの127回くらいまでテキトーに走って、終わらせるか。

 ちゃんと頑張って体力ギリギリまで走った感だしてね。

 その方が印象良さそうだし。


 俺がそんなゲスな事を考えていると。


「「「ファイト~!」」」


 急に、女子のエールが聞こえてきた。


「えっ?」


 思わず振りかえって声の方を見る。

 そこには、手を振って応援する女子達。見ている先は……俺!?


 なんで、俺!?

 俺知り合いでしたっけ。いや知らない者同士ですよね。

 でも周りを見ても俺以外走ってないし……。

 あれ、マジで俺に言ってるんだ。


 女子の行動を疑問に思いつつも、口元が緩んでいる俺がいた。


 べ、別に嬉しくないんだからね!


 123回、124回、125回、126回、127回――。

 128回、129回、130回、135回、140回――。


 結局、応援が続いていた限り――141回まで走った。


――――――――――――――――

1-C 34番 伊月みのる


握力            点


上体起こし         点 


長座体前屈         点


反復横とび         点


20mシャトルラン   10点 141回


50m走        10点 5秒34


立ち幅とび         点


ハンドボール投げ    10点 44m

――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る