第19話 体育無双――屋上で昼ご飯は創作の中だけ

 男子のシャトルランが終わり、次は女子の番となった。


「5秒前……3、2、1、スタート」

「「「がんばー!」」」


 一斉に走り出す女子を応援する一軍男子達。


 俺はその一軍の後ろを黙って通る。

 俺の目標は、体育館の端の方でぐったりして休憩している男、りゅうせいだ。


 近づくと、りゅうせいはこちらに気付き親指を下げてきた。

 俺はそれに対してプププと笑みで返しながら隣に座る。


「いやぁ、りゅうせいさん。だいぶお疲れの様で」

「あーマジで。みのる、あんな体力あるなんて聞いてねぇーよ」


 シャトルランの結果は141回。

 声援が聞こえなくなるまで走ったが、これでもそんなに疲れていない。

 多分限界まで走ろうと思えば、200回はいけた。


「別に聞かれてないからなー。ともかく勝負は勝負。しっかり奢ってもらうよー?」

「わかってるわかってる。ったく……」


 りゅうせいは「はぁー」っとため息をつきながら、走る女子の方を見やる。

 少しして、俺に言ってくる。


「あっ、そういやさっき、みのるの事応援してた女子達いたじゃん?」

「ん、何急に」

「いやその女子達がさ、昨日俺にみのるの連絡先教えてよって言ってきたんだけど……どうする? 教えていい?」


 なんだその話!

 俺の連絡先を知りたがってる女子がいるだと!?


「え、マジ? あの3人組?」

「そうそう、あの3人組」

「えっ、それ本当の話なん?」

「うんマジの話よ」


 あーついに。

 ついに俺に、青い春が来ました。

 ありがとうございます。


 と素直に喜びたい所ではあるが、正直、俺は疑い深い。

 だから、なんで知りたがっているのか、もしかして俺を馬鹿にするために連絡先が欲しいのか、みたいな考えが頭をよぎる。


 とりあえず、りゅうせいに確認しておこう。


「ちなみに、なんで俺の連絡先知りたがってるか、理由聞いた?」

「いや聞いてない。でもまぁ、単純にみのるの事気になるんじゃない?」


 気になる、か。

 それがいい意味でなら、もちろんウェルカムなんだけどな。

 怖いな。


「んー、どうしようかなぁ」


 俺は目をつぶって分かりやすく悩む。

 それを見てりゅうせいは言ってくる。


「別に嫌な女子って感じはしなかったし、イソスタくらいなら教えてあげてもいいんじゃない? 何かあれば、フォロー外したりブロックすればいいし」


 確かにそれはそうかも。

 イソスタならいいか。ほとんど使ってないし。


「そうだな。イソスタなら良いよ」

「おっけー、伝えとく」

「さんきゅ」


 その後も、りゅうせいと適当な雑談をする。

 しばらくすると、女子のシャトルランが終わり、10分休憩に入る。

 トイレと水分補給をしたのち、新体力テストが再開された。


 本日2つ目の種目は、握力!

 単純に握力を計るテスト!

 左右2回ずつ計って、より良い記録の平均値で算出!


「満点が……56㎏以上か」


 なんか、魔法使わなくてもいけそう。

 りゅうせいとのリベンジマッチにはもう勝ってるし、一度素の自分の力を試してみるか。


 渡された握力計を右手(利き手)に持ち、思い切り握ってみる。


 中学の時は15㎏とかだったけど、どうだ。


 確認すると、表示された数字は64㎏となっていた。


「っ!?」


 俺スゲェ!

 魔法使わずとも、こんなに力が強くなってたのか!

 左はどうだ!


【59㎏】


 両方とも満点越え。

 あーもう俺最強。俺TUEEE!

 筋肉最高! パワー!


 俺は左右の握力をもう一度計ってみる。

 結果、右67㎏。左60㎏。平均値63.5㎏。

 余裕の満点だった。


 この調子で次だ、次!


 本日3つ目の種目、立ち幅とび。

 つま先が引かれた線に揃うように立って、両足で前に飛び、その距離を測るテスト。

 飛んだ場所から一番近い、体が地面についた位置で距離を測る為、尻もちをついたりしたら、足ではなく尻からスタート位置の距離、となる。

 ちなみに2回行う。


 それで……満点は265㎝以上、ですか。


 うん、これも1回、魔法なしでやってみるか。

 それで満点いかなかったら、魔法使えばいいし。


 順番がまわってきた俺は、線につま先を合わせ、一呼吸した後――。


「せーのっ!」


 飛んだ。

 そしてすぐ着地。


 両足はべったり地面についてるが、尻もちはついていない。

 結構いったと思うが、どうだろう。


 先生が、俺のかかとからスタート位置の距離を確認する。


「えーっと、255㎝だね」

「っ!」


 すっごい微妙!

 255㎝が一体何点かは紙を見ないと分からんが、少なくとも満点ではない。

 これは……大人しく魔法使うか。


 口を両手で隠し、身体能力強化魔法――フルフィジックを唱える。


 うし、これでいい。

 あとは、力を抑えて飛ぶだけ。


 俺はスタート位置に戻り、棒立ちになる。


 軽く、軽く、軽く。

 本当に軽~く……飛ぶっ!


「――っと」


 俺は0.2割くらいの力(テキトー)でジャンプする。

 すると、先ほどより明らかに遠くへと着地した。


 俺を見ていた生徒何人かが「うぉ~、すげぇ」と感嘆の声をあげている。


 あ~気分いい。もっと褒めて。


「んーっと……え!? 323㎝!?」


 先生が驚いた声を出す。


 頭ポリポリ。あれっ、俺なんかやっちゃいました?(ワザとらしい)


「ほんとですか?」


 落ち着いたトーンで俺は返す。


「ああ、本当に323㎝だよ。いやぁ先生長い事やってるけど、今まで320㎝超えた人は見た事ないよ。本当に君には驚かされっぱなしだなぁ」

「そ、そうなんですね」


 すっー。


 周りにいた生徒達が俺を見てる……。

 中には女子も含まれてる……。

 あー、なんだこれ、気持ちいいな。


 この無双感、癖になりそう。


 俺はこの感覚を噛みしめながら、次の種目へと向かう。


 本日4つ目の種目、長座体前屈。

 壁に背中をしっかりとつけ足を伸ばして座り、ひざ元にある器具を前屈しながら手で押す。

 その器具の移動距離を測るテスト。

 2回行って良い方を記録する。


 満点は、64㎝以上。

 うん無理。俺かなり体が硬いからな、最低点の20㎝もいかないんじゃないか。


 これに関しては誰にも見て欲しくないし、さっさと済ませるか。


 1回目、34㎝。

 あれ予想よりいった。

 次もうちょっと真面目にするか。


 2回目、40㎝。

 おお、かなり進んだ!

 これは結構いい点いってそうだ。


 紙を確認する。


「40㎝は……あった」


 39~43㎝、5点。


 うーん普通。

 ま、まあこれは仕方ない。

 満点の10点に届かない種目が何個か出ることは想定済みだし。


 気にせずいこう。


 本日5つ目、上体起こし。

 その名の通り、ただの上体起こし。

 30秒間、上体起こしの回数を計るテスト。


 満点、35回以上。

 1秒に2回ペースで十分に届く。

 こーれ、ガチで余裕です。支え役が大変そうだから魔法を使わない方向で考えてたけど、そもそも魔法なしでも満点楽勝そうっす。

 なぜなら俺、異世界で少し時間が空いた時とか筋トレやってました。

 してその筋トレの中でも上体起こし、重点的にしてました!


 やっぱ腹筋ってカッコいいしね、シックスパックつくりたかった訳よ。

 なんでさくっと満点いきまーす。


 俺はマットに横になり、開始を待つ。


 ちな上体起こしの支え役はりゅうせい。


「みのる、回数勝負するか?」

「いやいい。もう今日の昼食はゲットしたし」

「えーつまんないなー。じゃさ、明日の分の昼食奢りってのはどうよ」

「のった」


 とそこで、先生が合図を出す。


「それじゃいくぞー。よーい、スタート!」


 始まった瞬間から、俺は全力で上体起こしをする。

 ふっ、ふっ、と息を漏らしながら、勢いよく。


 見た目も何も気にせず、ただ本気で上体起こし!


「そこまで!」


 先生が大きな声でそう言う。


 意外にも疲れた俺はバタッとマットに倒れる。

 そしてりゅうせいに何回だったか訊く。


「んで、何回?」

「10回」

「嘘つくな。本当は?」

「42回」


 もっといったと思ったが、まぁ妥当か。

 やっぱ余裕だよなー満点。りゅうせいは俺を越せるのかなー?


 てか、魔法なしで42回は凄い方なんじゃないかな。知らんけど。


 続いて、りゅうせいの番。

 りゅうせいの結果は41回だった。


「あーくそっ、マジかよ!」

「はは、やったー明日も買ってもらえる!」

「ぐっ、こんなはずじゃ……っ!」


 髪をクシャクシャしながら悔しがるりゅうせい。

 魔法を使わなくても、ありのままの自分で、陽キャりゅうせいに勝っちゃった。

 なんと気分爽快!

 友達だけど、この気持ちに嘘はつけないからね。

 キモチぃぃぃぃぃい!!!!!


 と、本日6つ目。新体力テスト最後の種目は、反復横とび。

 引かれた3つのラインをサイドステップで踏んでいって回数(1回につき1点)をかせぐテスト。

 計測は2回行う。


「満点は63点以上ねぇ……」


 ひとりで呟くと、りゅうせいが反応してくる。


「お、また勝負してみるかっ――」

「だが断る」

「え、なんで」

「断るったら断る! ほら、早くペアとして俺の回数を計る準備しろ!」

「うわーみのる、勝ち逃げかー」

「シャラップ!」


 俺は負ける可能性がある勝負はしない。


「じゃいくぞー。よーい、スタート」


 先生の合図で一斉に始める生徒達。

 俺も落ち着いて、サイドステップをする。


 このテストははっきり言って、捨て。

 運動神経いるし、頑張っても目立てるわけじゃないし、そもそも俺はリズムよくサイドステップするのが苦手だ。

 だから、はたから俺を見て、変な動きをしてるって思われないようなサイドステップを徹底する。


「終了っ!」


 ふぅ、終わった。


「みのるの記録、37点ね」

「おっけい」

「……みのるさぁ、もうちょっと本気出せよ~」

「うるせっ、反復横とび苦手なんだよ」

「え、だから勝負を意地でも断ったのかよ。ズリィ~」

「フハッ、なんとでも言うがいい! りゅうせいが俺に2日連続昼食を奢る事は変わらないのだからな!」

「くー、うぜぇ~!」


 その後、りゅうせいも反復横とびをし、結果72点という好記録をたたき出した。


 これにて、新体力テスト全種目、終了!


――――――――――――――――

1-C 34番 伊月みのる


握力          10点 63.5㎏


上体起こし       10点 42回


長座体前屈        5点 40㎝


反復横とび        3点 37点


20mシャトルラン   10点 141回


50m走        10点 5秒34


立ち幅とび       10点 323㎝


ハンドボール投げ    10点 44m

――――――――――――――――


 総合得点、68点。評価A。



 体育が終わり昼休憩の時間になった俺とりゅうせいは、購買へと向かう。

 そこで適度に値段が高くて、美味しそうなご飯をりゅうせいに買ってもらう。


「マジあざーす!」

「絶対、残さず食べろよ!」

「んな分かってるって。それより、明日もお願いしますねー?」

「ああぁぁ、どんどん金欠にっ……!」


 フハハハハハッ!

 いいねいいねその表情!

 全く、俺はいい友達を持ったよ!


 つーことで、このまま、勝利の味を美味しく、気持ちよく味わおうかね!

 そのためにも、食べる場所は肝心だ。


 俺はふと、窓から外を見る。


 今日は天気が物凄くいい。雲一つない青空だ。


 ……そうか、思い出した。

 そういえば、充実した青春を過ごす計画の中に、昼は屋上で食べるってのがあったな。


 今こそ、それを実現するべきだろう!


 そうと決まれば、早速屋上にレッツゴー!


 俺とりゅうせいは屋上へ向かう。

 が。


「開かないな……ドア」

「だな」

「……教室、行くか」

「だな」


 屋上へと続くドアが閉まっていたので、大人しく自分たちの教室に戻って昼飯を食べた。

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