第20話 とある3人組

 伊月みのるが和田りゅうせいに、購買で昼食を買ってもらっていた頃。


 テニス部の旧倉庫裏で、タバコをふかしながら屯する3人組の男がいた。


「学校だりぃー」

「まじそれな」

「なっス」


 制服をしっかり着ようとはせず、シャツ出しで腰パン。

 気怠げに、うんこ座りをする彼らは今年で2年生になった矢見咲高校の生徒。

 この学校の問題児、いわゆる不良だ。


「ふぅー。てかさ、1年に可愛い子とかいた?」


 そう訊くのは3人組のリーダー格、伊地芽こうき。

 180㎝越えの身長に筋肉質な体を併せ持つ彼は、いじめ大好きで喧嘩無敗、それに加えて頭も良い、ここらじゃ最強のワルだ。


「いやまだ芋女しか見てないね」


 笑いながら答えたのは、木野子れん。

 流行りの髪型をした彼は校内で上位に入る程のイケメンで、女子からかなりモテている。

 しかし、性格はクソほど悪い。


「全然可愛い子いないっスよねー」


 最後にそう返事をしたのは、山田太郎。

 金魚の糞だ。


「はーつまんねぇな。今年の1年はハズレかよー」


 残念そうにする、こうき。


「まぁーでも、まだ全員見たわけじゃないからさ。もしかしたら可愛い子もいるかもよー」

「れん、そうやって期待させて、もし仮に可愛い子がいなかったら、お前の事ぶっ飛ばすからな」


 こうきは手をグーにして、れんを脅す。


「物騒だなー。あ、でもそういえば。入学式で新入生代表挨拶みたいなのをした女の子が可愛いって噂は聞いたよ」

「マジか?」

「うん。知り合いの後輩曰く、なんか黒髪ロングでスラッとしててめっちゃ美人らしい」

「へぇー。ちなみにそいつのクラスは?」

「えーなんだったかな。忘れた」

「お前あったま悪いな。……ま、いい。そんな美人なら直接見れば分かるだろ。今から1年のクラス見てまわろうぜ」

「お、いいね。行こうか」

「行きやスか!」


 ずっとニヤニヤしていただけの太郎も同意し。

 3人はタバコを消して校外に投げ捨て、香水をふりまいた後、1年生の棟へ向かう。


 手をポケットに突っ込みながら、廊下を歩く3人。


「おー、案外可愛い子いるじゃねぇか」


 1年のクラスを立ち止まって覗き、そう呟くこうき。


「マジで? どの子?」


 れんも覗き、訊く。


「ほら、あの子とか」

「あーなるほどねー。うーん」

「なんだ? 可愛くないか?」

「可愛くないっていうか、タイプじゃないなぁー」

「ハッ。れん、お前は理想が高すぎんだよ」

「そんな高くないと思うけどなー。……とりま、ここにはいないっぽいし早く次のクラス行こうや」

「おうそうだな」


 隣のクラスに行く3人。


「ここは……1-Bか」

「ささ、可愛い子はいるかなー」

「どうっスかね!」


 3人は先ほどと同じように覗く。


「……ちっ、ブスばっかだな」

「ちょ、こうきくん」

「事実だから仕方ねーだろ」

「それはそうだけど」

「ここのクラスは興味ねーわ。次の1-C行こうぜ」

「はいはい」


 こうきは足早に上の階の1-Cへと向かう。

 それについて行くれん。と、金魚の糞、太郎。


「おいもしかして、あれが例の女じゃないのか?」


 1-Cについて早々、指をさすこうき。

 指された方を見るれん。


「あー確かに。黒髪ロングでめっちゃ美人だ」

「だよなだよな」


 クラスのうしろの方で、数人の女子と一緒に昼食を食べている黒髪ロングの少女。

 綺麗な顔立ちをしており、にこやかにご飯を口に運ぶ様はまさに可憐なプリンセスといった感じ。


 そんな彼女の名前は天ケ瀬せいら。

 まさに3人が探していた人物だ。


「モデルみてぇに顔ちっせぇな」

「だね。芸能人みたい」

「……やりてぇな」

「アハハ、こうきくん下品だって」

「下品ってよく言うなお前。どうせお前もそう思ってんだろ?」

「まぁねー」

「むっつりキノコ頭が」

「うるせっ」


 そんなやり取りを、こうきとれんがしていると急に。


「え! ……あいつ、みのるじゃないっスか?」


 目を大きく見開いた太郎が2人にそう訊く。


「あ? みのる?」

「え、みのるってあの玩具だった?」

「そうっス。そのみのるっス!」

「は、どこどこ」

「窓側の一番後ろで飯を食べてる奴っス」


 こうきとれんはジッと見る。

 少しして、こうきが先に口を開く。


「うわ……マジじゃねぇか。なんか見た目変わってっから全然気付かなかったわ」

「やっぱみのるっスよね!」

「すげぇ。太郎くん、よく気付いたね。僕も気付かなかった」

「あいつの事はよく覚えてるんスよね!」

「へー。あいつ、生きてたんだな。確か行方不明とかだったと思うけど」

「それなぁー。僕、てっきり自殺したかと思ってた」

「ハハハ…………。で、どうしまス?」


 太郎は、こうきとれんに問う。

 2人は顔を見合わせ――。


「俺と同じ事考えてるよな?」

「当たり前でしょ? また、中学の頃のように……ね?」

「だよなっ! そうこないと!」


 気持ちが一致した。


「……で、どうするんスか?」


 2人の言ってる事が理解できてない太郎は再度訊く。


「はー、また中学の時みたいに虐めるって事だよ! バカがっ」


 こうきはため息交じりに言いながら、太郎の頭を引っ叩いた。


「ああ、そういう事っスね! やっちゃいまスか!」


 方針が決まった3人は、伊月みのるにバレないようにコッソリとその場を離れた。

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