第21話 いじめ
「まじか……」
新体力テストでかなり良い成績を残せて、さらにりゅうせいへのリベンジマッチも勝って、昼食を買って貰えて、今日はめちゃくちゃいい気分だったのに。
俺の靴箱の前に3人、見知ったメンツが突っ立っていた。
「よう、久々じゃねーか、みのる」
「こうき……」
「あ? なに呼び捨てしてんだよ。行方不明なって自分の立場忘れたか?」
「いや」
最悪だ。まさか、こいつ等もこの学校に来ていたなんて……。
*
――中学の頃、俺は虐められていた。
「……こ、うきさん……。もう無理……です……」
「ほらほら我慢しろ~。あと3発行くぞ~。まず1発目――オラッ!」
「ウっ!」
「声出すなって。はい次2発目――っしゃ!」
「ッ!」
「いいねぇ~。じゃ最後行くぞー。腰を入れて体重が乗るように……ウオラッ!」
「グァッ!」
とても同い年とは思えない大きい体から繰り出される腹パン。
お腹に力を入れても内臓にまで拳が届いているようで、息もできないほど苦しくなる。
「声出すなってつってんのに」
「こうきくん、もうそろそろ行こうよ。授業が始まる」
「そうだな。おいみのる、明日こそは写真撮って持ってこいよ」
「持ってこいっス!」
「……っ」
俺を置いてトイレから出て行く3人を必死に睨む。
「くそっ……」
学校に来ると毎日、こうきは俺に1つ、宿題を与えてくる。
宿題というのは、問題を解く方ではなく、例えば――。
・授業中に奇声をあげろ。
・虫を食べろ。
・植物を食べろ。
・先生にイタズラしろ。
・お金を持って来い。
などがあり、色々な無理難題を俺に命令してくる。
仮にその日のうちに宿題が出来なかった場合は、腹パン肩パン腹蹴り……暴力の罰が待っている。
これが俺の日常。
そして今日は、出来なかった罰として暴力をされた。
いつもなら、これで終わり。
宿題を次の日に持ち越しなんてしてなかった。
なのに今回の宿題は持ち越し……?
明日こそは写真を撮って持って来いだって?
無理に決まってるだろ! ふざけるなよ!
こうきから出された宿題の内容は、女子更衣室に忍びこんで写真を撮って持って来いという、今までで1番の無理難題。
しかも特定の人物の写真じゃないといけないらしく、名前は忘れたけど、顔は覚えさせられた。
「んなの……無理だって……」
出来るわけがない。
自分がやられるだけならまだしも、他人を巻き込むなんて俺にはできない……。
でも……罰も……いやだ……。
「…………もう来るの……やめよ」
次の日から俺は、不登校になった。
家にあいつ等が来るんじゃないか、宿題――写真を撮らなかった事による罰を執行しに、俺の部屋まで押しかけて来るんじゃないか。
そんな恐怖を抱きながら、暗い部屋の中、息を殺すようにジッと。
――結果2年半、俺は引き篭もった。
*
「こうきくん、ここ他にも生徒いるから、言動には気を付けて」
「あー分かってるよ」
かー、マジで面倒だな。
せっかく俺の青春サクセスストーリーが始まってるってのにさぁ。
過去の人が今更、俺に何の用なんだよ……。
「とりあえず、ここで立ち話ってのもなんだし、移動しようかっ!」
目の奥が一切笑ってない笑顔を見せてくるこうき。
それがものすごく気味が悪い。
「移動って……どこに?」
「ん、お前が知る必要あるか? 拒否権ないんだから黙って付いてこいよ」
そう言ってこうきは靴箱の前から昇降口に移動する。
それに続いて他2人も行く。
どうしよう、この状況。
大人しくついて行って大丈夫だろうか。
まさか高校生になってまで、中学の時みたいな事はしてこないと思うけど……どうかな。
ただまぁ、ついて行かなかったら行かなかったで、面倒な事なりそうだしなー。
言い方とか態度とか、めちゃくちゃ癪に障るが、こうきの言う通りに行ってあげるかぁ。
俺は靴に履き替え、こうき達のうしろをついて行く。
数分ほどして、こうき達は立ち止まる。目的地に着いたみたいだ。
「ここは……?」
「ここはテニス部が前に使ってた倉庫の裏、基本的に誰も寄り付かない俺達の楽園だよ」
「プッ」
思わず吹いてしまった。
「おい、何笑ってんだ?」
「いやごめん。なんでもない」
こんな草だらけで薄汚くて狭い空間を楽園とか言ってんの、ゴキブリかネズミくらいだろ。
マジで笑っちゃうって。ギャグセンス高すぎ。
「まーいい。とりあえず、お前には自分の置かれた立場を思い出して貰わないとな」
「は、はぁ」
「そうだなぁー……。あっ、これ。みのる、これを今食え」
こうきは地面にいたゴキブリを拾いあげ、俺に差し出してくる。
「まじかよ」
やっぱこいつ、高校生になっても全く変わってねぇ……!
いや、少しでも期待した俺が馬鹿だったのか?
でもさ高校生だよ?
ちょっと面倒起こしただけで、停学とか退学とかあり得る世界だよ?
そんなん分かりやすい虐め、普通しないだろ。
違うか。こいつ等普通じゃないから、平気でこういう事が出来るのか。
「さっ、早く食え。これがお久しぶり記念、今日の宿題だ」
「くーえっくーえっ」
「食えっス!」
「……あー、人が待ってるんで、帰りまーす」
こうきのゴキブリを持った手を払いのけ、俺は帰ろうとする。
だるい面倒。
もうこいつ等の事は相手にしない。1番の最善策だ。
が。
「おいおいどこ行くんだよ」
そう言ってこうきは俺の肩を力強く握り、止める。
振り向くと、ニコニコしながら怒ってる顔が近くにあった。
「食べないなら、罰ゲーム、な?」
「……はー」
ため息をつく。
数秒ほど考えた後、俺は呆れるようにして答えた。
「いいよ。罰ゲームで」
「ほう? 潔いな」
「だからほら。早く殴ってこいよ」
「なめてんなぁ」
こうきは肩を握っていた手を放し、俺を突き飛ばす。
そしてレンと太郎に「逃げない様に抑えろ」と指示を出す。
俺は両腕を2人に掴まれ、身動きできなくなってしまった。
「まじで久々だなぁー」
シュッシュッと数回、こうきは軽くシャドーボクシングする。
こちらをニヤニヤ見ながら、パンチを見せつけてくる。
これは恐らく、俺をビビらせようとしているのだろうけど。
……うん、全く怖くない。
こうきに対して、この状況に対して、1ミリの恐怖もない。
中学時代の俺なら、おしっこチビってたかもしれない状況だけど、今はもう全くだ。
強がりとかじゃなくて、マジで何も思わない。強いて言えば、早く帰りたいなーと思ってる。
正直、こうきもそれなりに良い体格してるし、イカツイ顔してると思うよ。
でもそれ以上の人を、異世界で見まくったからさ。
むしろこいつ等が可愛く見えてくる。
あとシンプルにパンチのスピード遅いし。そんなんじゃ異世界行っても、スライムすら倒せないぞ。
「さーてと。腕も温まってきたし、そろそろ行くぞ~。みのる、絶対に声出すんじゃあねーぞー」
「はいはい」
「ふぅー。じゃ、いっきまーす」
こうきは俺の腹めがけて、思いっきり殴ろうと右腕を後ろにひいた。
その時。
「あんたら、何やってんすか」
聞き覚えのある声がうしろからした。
――りゅうせいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます