第26話 1回戦――もうやけくそ

 ――シュッ――バァンッ!!!


「「きゃぁあ!」」


 突然鳴り響く、爆発音。

 その音に皆驚き、先ほどまで騒がしかった体育館が一気に静まり返る。


 …………あーやっちまった。


 みんなを驚かせた爆発音の原因は――もちのろん、俺。


 ちょっと気合入れて投げたボールが、ゴツ男の顔を掠めて奥の壁に当たった瞬間、破裂した。

 まさしく爆発。

 ビニール袋に空気をためて勢いよく叩き割った時の音とは比ではない響きで。

 時が止まったかのように、皆固まった。

 ……かくいう俺も。


 と、笛を吹いて先生が言う。


「――いっ、一旦ストップ!」


 そして先生は散り散りになったボールの欠片を拾うよう生徒に指示した後、新しいボールを持ってきた。

 ボールを相手チームのゴツ男に渡し、試合が再開された。

 ちなみにその間に、左右のコートは既に試合が終わって次の組になっていた。


「ふっ、先ほどは少しばかり、いやほんのちょっとだけ、驚かされたぞ」

「……」

「聞いてるか……?」

「……あっ、俺か。はい、良かったです」


 あまりのやらかしに俺は今、放心状態。

 だからゴツ男に話しかけられても、脳が言葉を理解するのに時間がかかるし、返事が適当になる。


 投げたボールが割れるとか、普通じゃねぇよな。

 これマジでどうしよう……。


「よ、良かった……? まぁいい、貴様ももうここまで。男なら最後に、我のボールで潔く散れぃい!!!」

「…………」


 変なヤベー奴って、皆に思われてないかな。

 外野にいた人達めっちゃ驚いてたし、これもしかして嫌われたんじゃ……っ!

 あーもう、力入れすぎたぁああ!

 もう終わったぁ! 失敗だぁぁああ!!


「ふんっ、言葉も出ないか。では、死ねっ!!!」


 ――ドンッ。


「……っ」

「――な、なにっ!?」

「はぁ……」

「わ、我のボールを……かっ片手で受け止めただとっ!?」

「もうめんど」


 もういい。

 こうなりゃやけくそだ。

 残り時間も少ないし、負けそうだし、俺多分ボール割ったせいでクラスメイトに嫌われただろうし、もういいもういい。

 こうなったらもういっその事、派手に目立って暴れてから負けてやる。


 クソゴツ男め、優先的に女子を狙ってガチで勝ちにきやがってよ。

 男なら漢らしく、男を狙いにこいよ。このビビりが!


 てことで俺はビビりとは違って、逆に全力で男共を優先的にぶっ潰します!!!!


「――まずはっ!」


 ゴツ男、お前からだ!!!


 俺は素早く構えて、思い切り振りかぶった。


 ――シュッ――ダンッ!


「がっ!」


 棒立ちだったゴツ男の肩に当たる。

 しかしボールは割れてない。


 よっしゃ!

 ゴツ男アウト!!!

 そして力加減バッチリ!


 ゴツ男は「この我が……」などと言いながらトボトボ外野へ向かう。


 いいね、この調子でやっていこう!


 俺は顔の汗を服で拭くフリをして、口元を隠しながら呟いた。


「風魔法――ブリーズ」


 すると、相手コートに転がったボールが、一気にコロコロとこちらへ近づいてくる。


 よし、ちゃんと発動したみたいだな。


 この魔法は、家族に異世界に行ってた証明として見せたウィンドより少し威力の弱い風魔法。

 対象に風を当てる魔法で、本当に威力は大した事ない。


 しかしこうやって、ボールを転がして自分チームのコートに入れるくらいは余裕で出来る。

 ただ急に方向転換って不自然な動きを多少するけど、この際どうでもいい。

 俺は今、ボールを思いっきり当てまくって憂さ晴らししたい!!!

 その事しか頭にない!


 ボールを拾いあげて相手コートを見回す。


 誰にしようかなー。

 とりま次は、右端に固まった男集団でいいかなー。


 俺は投げの構えに移行――そして投げる!


 ――シュッ――ダンッ!


「くぁっいってぇ!!!」


 勢いよく男子の背中に当たり、いい音が鳴った。


 ハハハ、コントロールもバッチリだな!

 ほんと練習した甲斐があった!


 自分のコントロールに感心しつつ、またこっそりと魔法を唱える。


「風魔法――ブリーズ」


 外野にいきそうだったボールが、直角に曲がりスピードを上げながら俺の方にくる。

 それを拾い再び、投げる。


 ――シュッ――ダンッ!


「あだぁっ!!」


 左端にいた爽やかイケメン男の足にヒット。


 いいねいいね、痛がるその声!

 君に恨みは全くないけど、イケメンに対してイライラする事がこの間あったし、めっちゃ愉快爽快です!!!


「風魔法――ブリーズ」


 はいボールちゃんおいでおいでー!

 そだよ、お父さんはこっちだよー。

 あーいい子でちゅねー!


 俺は拾いあげ――投げる!


「「ぐぁっ!!」」


 ダブルヒット、キタァァァー!


 プププー、ベンチャー企業風陽キャ2人めっちゃ痛がって悔しそうにしてるー。

 あのなー、小中の頃、ドッジボールで逃げの専門家だった俺から言わせれば、固まって行動してるのが悪いんだよねー。

 まっ自業自得でーす。


「風魔法――ブリーズ」


 コロコロと転がってくるボールを横目に、次の対象を探す。


 てことで次は誰に……。


「えーっと――あっアイツ……」


 あの顔、金魚の糞兼ダンゴムシの太郎じゃねぇか!

 お前2-Cだったのかー、全然気付かなかったよー。

 そうかそうかー。


「殺るか」


 俺は金魚の糞に向かって思いきり投げた。


 ――バァンッ!


「ごぁっス!!!」


 糞の顔に当たった。


「プッ」


 糞くん、顔を必死に抑えてめっちゃ痛がって暴れてる。

 いやぁーいい気味だな。

 しかも、顔に当たったからアウト判定じゃないでしょ?

 てことはまだアイツにボールを当てれるって事じゃないですか。

 最高だぜぇええ!!!


「風魔法――ブリーズ」


 早くおいでボールちゃん!

 時間ないから急いで!


 ……って、ボールを待ってる間に糞くん外野に行きました。

 高校だと顔でもアウト判定みたい、残念だ。


 気を取り直して、それじゃ次はボールを取ろうとしてるあの男にするか!


「ふぅー。おりゃ!」



 それから俺は、残り時間ずっと投げ続けて――。


「そこまで! 1-Cの勝利!」

「「「「おっしゃっぁあああ!!!!」」」」


 逆転勝ちした。

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