第27話 イジメっ子、再び

 劇的な1回戦を終え、コートから立ち去ろうとするとクラスメイトの男子たちが寄ってきた。


「マジすげぇよみのる!」

「あんなに強いなら最初から言ってくれよ!」

「凄すぎて黙って見惚れてたわ!」

「それな! 男だけどマジ惚れたし痺れたぜ!」


 目をキラキラと輝かせながら言ってくる。


「お、おう、ありがとう」


 そんな純粋な眼差しで褒めないでくれ。

 俺、やけくそになって魔法でガンガン憂さ晴らししてただけだから。


 と、次は別の人物から話しかけられる。


「いやぁ君、ほんと強かったよ。悔しいが完敗だ!」


 振り返ると、そこにはゴツ男がいた。


「えっ、え? え?」


 喋り方と雰囲気が先ほどまでと全然違う。

 まるで別人だ。


「ん、どうかしたか?」

「え、いや、さっきと喋り方が全然違くないですか?」

「喋り方? ああ、そりゃそうよ。あれネタだから。本気で『我』とか言ってたらヤバい奴じゃねーか、ハハハ!」


 まじか、本気でああいう喋り方の人だと思った。

 しかしまぁ、なんとも笑いどころが難しいネタだな。


「とりま次の試合、負けた俺達の分も背負って勝ってくれな。――あ、あとりゅうせいって子に『大事な所に当ててごめん』って俺が言ってたって伝えといてくれ。それじゃな!」


 ゴツ男はそう言い、自分のクラスメイトの所へ戻って行った。


 ちょっとちょっと。なんか申し訳ない気持ちになるって。

 いい人パターンとか勘弁してくれよ。俺が悪役みたいじゃんか。


 ……てかそれより、りゅうせいどこだ。


 体育館をざっと見渡してみるが、いない。

 クラスメイトに訊いてみる。


「りゅうせいどこ行ったか知ってる?」

「りゅうせいなら試合途中に保健室行ってたよ」


 途中で抜けてたのか。憂さ晴らしに集中してたから全然気付かなかった。

 うむ、次の試合まで結構時間あるし、軽く様子見に行ってみるか。


 俺は足早に保健室へ向かう。

 が、体育館を出たところで後ろから呼び止められた。


「どこ行くんだー? みのるく~ん」


 厭らしく、小馬鹿にするように俺の名前を呼ぶ男の声。

 ……こうきか。


 ため息をつきながら後ろに顔を向けると、やはりこうきがいた。


 やっぱコイツかよぉ、だりぃ~。


「――何の用? 今俺急いでるんだけど」

「まーまーそんな焦んなよ。俺はただ、2人きりで話したいだけだって」

「俺は別に話す事ないから。それじゃ」


 一切聞き入れようとせず、俺はその場を離れようとするが、こうきが瞬で近づいてきて耳元で小さく囁く。


「お前が俺達の事を殴った件、今すぐ先生に言っても良いんだぜ? したらお前は学校から退場になるわけだが」


 ふと、こうきの顔を見ると、片方の口角が上がっていた。


「それは脅しか?」

「脅しと受け取るかはお前次第だぞ?」

「……」


 コイツまじで言ってんのか。

 先に絡んできたのはそっちだろうが。

 まぁでも、仮にチクられた場合、そんな言い訳は通じないかもしれない。

 あの一件で実際に手を出したのは俺だけだからな。


 ここでマシな選択は、こうきの言う通りにする事か。

 あーこの流れ、前回と同じじゃねーか。絶対なんかしてくるわコイツ。


 ちょっと準備をした方が良さそうだな。


「分かった。話をしよう」

「ふっ、お前が賢くて助かったよ。じゃ、付いてこい」

「あーっと、その前に。俺トイレ行きたかったからさ、先そっちで」

「んー? 逃げんのかぁ~?」

「逃げとかじゃないって。一瞬で終わらせるから、すぐそこのトイレの出口で待っててくれ」

「あ? って、おい!」


 振り切って、体育館近くのトイレに駆け込む。

 そして俺はちょっとした準備をした後、トイレを出てこうきに付いて行く。

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