第25話 球技大会1回戦――茶番劇

「ちっ、相手ボールからかっ!」


 りゅうせいが悔しそうに言いながら、後ろに下がる。

 それを見て俺も後ろへ急いで下がる。


 とりあえず、相手チームがボールを保有している間、俺は回避に徹する。

 魔法で身体能力が強化されてるとは言え、無理にボールを取りに行ってミスったら恥ずかしいからな。


 早速、相手チームのごつい体付きの男がボールを勢い良く投げる。

 投げられた先は――左端にいる女子集団だ。


 ――ダンッ。


「いったぁ!」


 ボールは固まっていた女子の背中にヒット。

 そして跳ね返って相手コートに。

 それを拾いあげ、固まった女子集団にまた力強く投げるゴツ男。


 ――バンッ。


「きゃあっ!!」


 避けようとした女子の腕に凄い速さであたる。

 それでボールは跳ね返って、はたまた相手コートにいき、ゴツ男が女子集団に投げる。

 んで当たる、跳ね返る、投げる、当てる……。


 気付けば、俺達のクラスは攻撃する間もなく、半分以上が外野にいっていた。


「あ、あいつ女子だろうと容赦ねぇ……」


 クラスメイトの誰かがボソッと呟いた。


 ほんとそれな、と言いたい。

 あのゴツ男、しっかり女子だけ狙ってる。しかも女子とか関係なく本気で投げて。

 ガチだ、ガチで勝ちにきてる。


「そろそろボール取って反撃しないと、まずいな」


 りゅうせいがそう言う。


「確かにな……」


 壇上に設置されたタイマーを確認すると、残り5分となっている。

 1試合10分の中、5分間ほぼノンストップで攻撃され当てられこの状況。

 という事は、俺達も今からノンストップで攻撃して相手チームの人数を減らさないと確実に負ける。


「……よしっ、俺が取り行くわ」


 覚悟を決めたように言って相手コートに近づくりゅうせい。


「おいおいマジかっ!」

「そんな近づいて、大丈夫なのかよっ!」

「相手は女子でも容赦ない奴だぞ!」

「お前、死ぬぞ!」


 心配するクラスメイトの男達。

 それに対してりゅうせいは「フッ」っと鼻で笑い返し、一言。


「俺に任せろ」


 と言って、構える。


「お前、漢だな!」

「かっけぇよりゅうせい!」

「くっ、やっちまえりゅうせい!」

「死ぬなよっりゅうせい!」


 盛り上がる男子達。

 黙って見る俺。


 ……俺は何を見せられてんだ?


「ほう、男気はあるようだな。気に入った」


 なんかゴツ男も無駄に低く良い声で喋って乗ってきた。


「いつでもいいぜ、先輩!」

「取ってみろ若造!」


 ゴツ男はボールを持った手を後ろに引き――投げた!

 ボールはりゅうせいめがけて真っ直ぐ進む!

 そして――!


 ――バンッ!


「ぐっ」


 りゅうせいはボールを体全体で、なんとか受け止め切った。


「「「「うぉぉおおすげぇえええ!!!」」」」


 感嘆の声をあげ、どのコートよりも盛り上がる一部男子達。


「正面から我のボールを受け止めるとは、中々にやりおるな、若造」


 敵のゴツ男も感心してそんな事を言ってる。


「いえ、とんでもないですよ先輩。まぐれです、まぐれ」

「まぐれだとしても、我のボールを受け止めた奴は今までいなかったからな。誇れ、若造」

「はは、マジすか。そりゃどうもっす――っ!」


 不意をついてゴツ男に投げ返すりゅうせい。

 しかし、簡単に取られてしまう。


「不意打ちとは面白い……が、それまで。我には効かんよ?」

「ま……じか……」

「……若造、最後に名前を教えて貰ってもよいか?」

「りゅ、りゅうせいっす……」

「りゅうせいか。覚えておこう」


 そこまでゴツ男は言って、ボールを振りかぶる。


 ――チンッ。


「がはっ!」


 勢い良く放たれたボールは、りゅうせいのりゅうせいにクリティカルヒット。


「「「「りゅうせーいっ!!!!」」」」


 倒れたりゅうせいに駆け寄る一部、男子達。


「大丈夫かよりゅうせい!」

「生きてるかっ!?」

「大丈夫なのかっ!?」

「何か返事してくれよりゅうせい!」


 りゅうせいは絞りだすような声で。


「……あとは……任せた……」


 それだけ言い残し……すっくと立ち上がって股間を抑えながら外野にいった。


 ……マジでなにやってんの、こいつ等。


 っと、んなどうでも良い事は置いといて、俺は試合に集中しないと。


 残り時間は……3分か。

 かなりマズイ。正直、時間が足りないかもしれない。

 が、ここで諦めたら俺は当分、真に充実した青春を過ごせなくなる。


 それは流石にダメだ。一刻も早く、俺は青い春を過ごしたいんだ!

 だから、やるしかない。俺が本気で相手をぶっ潰して、勝ちに導かないとっ!


「やるか……」


 気持ちを切り替え、俺はりゅうせい当たったあと跳ね返って自コートに転がっていたボールを拾いあげる。


「おいみのる、いけんのか!?」

「みのるが投げて大丈夫かよ!?」

「確かハンドボール投げ結構酷かったよな!?」

「代わりに俺が投げるから、こっち渡せみのる!」


 ぐっ、ほんとうるさいなこいつ等……。


「練習したから大丈夫だって」


 あまりにもハンドボール投げがあれだったからな、ちゃんと俺なりに投げる練習はした。

 そのおかげで、ボールが前に行くようにはなってる。


「その目、マジなんだな……。分かった、俺はみのるを信じるぞ……」

「そ、そうだな。ハンドボール投げ以外はめっちゃ凄かったしなみのる!」

「いけ、やっちまえみのる!」

「りゅうせいの仇を取ってくれみのるっ!!!」


 いつの間にか、俺もこの謎の茶番劇に入れられてねぇか……?


「……次は貴様か」


 突然ゴツ男が話しかけてくる。

 茶番に乗り気じゃない俺は素っ気なく返事をした。


「うんまぁ」

「うんまぁ? 先輩に向かってその言い方、ちょっと口の利き方がなってないんじゃないかぁ?」


 だって同い年だし。


「あ、ミスです。すみません先輩」


 説明するの怠いし、そもそも同学年に年上ってあまり知られたくないから、ここは大人しく謝っておいた。


「ふんまぁいい。さぁいつでもいいぞ生意気後輩! 全力で投げてこい!」


 全力で投げたら多分あんた死ぬぞ。

 でもまぁ新体力テストの時より、ちょっとは本気出すか。時間もないしね。


 ボール柔らかいし、2割か3割程度は出しても大丈夫かな。


「じゃ投げますよ」

「ああ!」


 ボールを右の手のひらに乗せ、左足を前に、左腕を上げて胸を張る。

 そして投げるとき体重がボールに乗るように、重心が右足から左足にいく意識!

 あとは狙いをゴツ男に定めて、思い切り振りかぶる――!


「オラァッ!!!」




――――――――――――――――――――――――


【すみません】


昨日更新できなくてすみません!


リアルの方で用事が立て続けにあり、書く時間がありませんでした。

これから2~3日に1回更新とかになるかもしれませんが、完結までは頑張って執筆していくので、ご了承ください!

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