第24話 球技大会!

「ついに来たな、この日が」


 充実した青春を過ごすという俺の夢。

 それを現実なものに近づける為のイベント、行事というものが高校生活には存在する。


 例えば、先日行われた新体力テスト。

 あれはその典型だ。

 いかに自分が運動できるのか、スクールカーストのどの位置にいるのか、そのアピールの場として機能するイベントであった。


 新体力テストに関しては100点満点の立ち回りができたと思う。

 結果を出したことで、陽キャ男子達に俺の存在が認知されたし、女子にだってイソスタフォローされるまでに至った。

 もう言うところなし。俺は今、完璧で最高な状況にいる。


 しかし、それはあくまで1年生の中だけでだ。

 俺と同い年の2年生、1個年上の3年生には友達がいないどころか、認知すらされていない。


 真に充実した青春を過ごす奴は同学年だけじゃなく、先輩だろうが後輩だろうが関係なしに認知され、確たる地位――スクールカースト上位の立場を確立している。


 実際に、りゅうせいは先輩達に認知されて可愛がられているし、俺の妹は1年生の筆頭1軍として2年生、3年生の1軍女子と仲良くしている。


 だから俺も彼らと同じく、真に充実した青春を過ごす為、他学年に認知されなければならない。

 

 して、何を隠そう今日という日は、他学年に自分をアピールできるイベント――球技大会の日である!


 球技大会は全学年参加のクラス対抗、体育祭・文化祭と並ぶビッグイベントの1つであり、他学年にも(主に女子に)カッコいい所をアピールできちゃう最高な行事の1つ!


 ここで活躍すれば俺は、先輩方にも認知されて、晴れて真のスクールカースト上位者に、モテ男になれるというわけだフハハハハハ。

 青春を過ごすなんて楽勝だなアハハハ。

 最高だ、ニヤケが止まらないぞ。


 しかも俺は運がいい。

 毎年、球技大会のやる内容は変わるらしいんだが、今年はドッジボールみたいで、俺の魔法と相性が良さそうだ。

 バレーとかバスケだったら、魔法の強みが分かりやすくは出ないからな。


 ドッジボールなら、思い切りぶん投げて当てればいい。

 たったそれだけで、活躍できてモテる。

 なんと簡単な流れ作業だろうか。


 さて、ちゃっちゃと無双して、青春を掴みにいきますかね。


「身体能力強化魔法――フルフィジック」


 誰にも見られないよう、校舎裏で俺は1人、そう呟く。

 すると魔力が体内を駆け巡り、力がみなぎってくる。


 よーし、これで、同学年も先輩方もみーんな、ボッコボコにしちゃうぞー。

 ふはは。


「ふはっ、フハハハハハッ!」

「次は、1年C組と2年C組、2年E組と3年A組、1年D組と2年J組の対決です――」


 高らかに笑っていると、体育館からアナウンスの声が聞こえてきた。


「まずっもう始まるじゃん! 早く行かないと、っその前に――」


 俺は近くに落ちていた小石を拾い、木に向かって軽く投げつけた。


「これなら優勝も余裕だな」


 小石は綺麗に木を貫通して、奥のレンガに埋まっていた。



 急いで体育館に戻ると、すでにクラスメイト達と対戦相手のクラスの人達がコートラインに並んで待っていた。


「みのる、何やってたんだよ」


 りゅうせいが小突きながら言ってくる。


「ちょっと準備運動をね~」

「ふーん、それが役に立つと良いけどな。この間の新体力テストのハンドボール投げみたく、地面に叩きつけないでくれよ?」

「おいそれ忘れろよ」

「あれは中々忘れらんないって~」

「うぜぇー」

「はははは、おもろ」


 りゅうせいとくだらないやり取りをしつつ、俺は左右のコートを見やる。

 左のコートも右のコートも、同じように生徒達が並んで試合開始を待っている。


 3試合同時進行かー。

 これじゃ相当活躍するか、決勝までいかないと目立てないな。

 まっ、俺が目指している所は優勝なんで、目立つのは必然だし心配しなくても良いんですけどね、アッヒハ!


 と、先生が「それじゃ挨拶して」と生徒に指示を出す。

 俺達生徒は「お願いしまーす」と挨拶をしたのち、ジャンパー役(先生がトスしたボールをジャンプして自分たちの陣地に入れる役)をコート中央に残して、全体に散らばる。

 俺がいない間に決めたのか、何人かは外野の方へと向かう。


「いよいよ始まるな……」

「なに、みのる緊張してんの?」

「むしろ興奮してる」

「きしょすぎ」


 全員配置についたのを確認した先生が「始めるぞー」と言って、笛を吹き、ボールを上に投げた。

 ジャンパー役はそれに飛びつく。


 ――タンッ。


 ボールは相手クラスの陣地へ舞う。


 1回戦が今、始まった。

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