第23話 銀髪美少女の噂

 俺に絡んできたダンゴムシ3人組(こうき達)をボコして、1週間が経った。


 あの日から2度目の接触はなし。

 あいつ等の事だからてっきり、やり返してくると思ってたのに、今のところ何もない。

 先生に呼び出しくらうとかもないから、チクってもないらしい。 

 少し気味が悪いが、何か企んでいるとしても魔法で返り討ちにするつもりでいるからノープロブレム。


 それよりもだ。

 現在俺に、めんどくさい事が起きている。


 そのめんどくさい事というのは何かというと。

 簡単に言えば、アリシアの存在が噂になっている事だ。


 噂といっても異世界人ってバレたとかそういうのではなく、単純に「みのるが一緒に帰ってる人、可愛いよね」みたいな感じ。

 でもこれが中々に面倒くさい。なぜなら――。


「ねぇみのる君みのる君。みのる君がさ、いつも一緒に帰ってる子って、彼女さん?」


 こんな感じで休み時間になる度、噂を聞きつけた男共に色々訊かれるからだ。

 しかも、アリシアが俺の彼女だとみんな勘違いしている。


 マジで最悪。彼女作りのハードル爆上がりです。


 次の授業の準備をしていた俺は、気怠げに声の方を向くとそこにはクラスの爽やかイケメン、池ユウキがいた。


 次はこいつか……。

 ガチでだるすぎる。


「……彼女じゃないですよ」


 ため息交じりにシンプルに答えた。


 こうやって返事するのも今週だけで何回目だろうな。

 軽く20回は越えてそう。


「へー彼女じゃないんだ。じゃどういう関係性なの?」


 あ、しつこいタイプ。

 大体は「彼女じゃない」って言うだけで去っていくのに。


 てかどういう関係性って質問、結構難しいな。

 なんて言ったら良いんだろ。居候ニートと俺の関係性って。

 友人……と言えるほど仲良くないし、かといって知り合いってほど離れた関係でもないし。


 ……強いて言えば。


「知り合い以上友人未満、かな」


 しっくりくるのはこれだ。


「へ、へぇー? そ、そうなんだ。……それで、みのる君はあの子の事好きなの?」

「え、なんでそうなる?」


 こいつ話が飛躍しすぎだろ。

 しつこいだけじゃなく人の話をちゃんと聞かないタイプですか?

 俺言いましたよね、知り合い以上友人未満って。

 よく恋愛ドラマとかである「友人以上恋人未満かなっ」とは言ってませんよ?

 無理矢理、恋愛フラグ立てようとしないでください。


「いやだって、毎日一緒に帰ったりしてるのに『知り合い以上友人未満』なんて回りくどい言い方するから、ツンデレみたいな感じなのかなって」


 俺のツンデレとか、誰得だよ。


 あのーもう怠いんで、正直に話すとね、彼女は異世界人でね、実家で居候ニートしてるんですよ。

 そして俺の母さんがね、その異世界人と登下校しろって言うから、仕方なく一緒に帰ったりしてるんですよ。

 分かりました?


 テレパシーで伝われとユウキをずっと見つめてみたが、うんダメそうだ。伝わってない。


「あの……?」

「あー悪い悪いボーっとしてた。えっと、好きかどうかだよな。まぁーそうだなぁ、はっきり言うと好きじゃない、けど嫌いでもない。普通だ」

「普通……」

「そっ普通。話はもう終わりでいいかな? ほら、次移動教室だし」


 移動しようと俺は席を立った。

 しかし、ユウキはまだ話があるようで止めてくる。


「あーちょっと待って待って。最後1つ話というか、お願いがあるんだよ!」

「もーなに。早くして」

「そのぉー僕に、あの子の事、紹介してくれないかな?」

「無理」


 即座に拒否した。

 異世界人を紹介出来るわけねーだろ。

 絶対いつかボロが出るし面倒。


「えっなんでなんで!? みのる君は付き合ってもないし、別に好きでもないんでしょ!?」

「ああそうだけど?」

「じゃあ紹介してくれてもいいじゃん。イソスタのアカウントを教えてくれるとかでも良いからさ」


 んだこいつ。マジでしつこいな。

 この鬱陶しさといい、喋り方といい、顔面偏差値の高さといい、ぶっ飛ばしたくなってくるなマジで。


「無理なものは無理。普通に怠いし」

「えー……。んまぁそっか、分かった。みのる君、しつこくてごめんね?」


 うん、謝れて偉いね。分かれば良いんだよ分かれば。


 俺は「あー全然気にしてないよ」と言って教室を後にした。


 ――放課後。


「くぁぁー」


 靴に履き替えて校舎を出た俺は大きく伸びをした。


 今日ばかりは本当にゴミイケメンのせいで疲れた。

 マジでしんどい。早く帰りたい。


 全く、あのゴミイケメン調子乗りやがって。

 謝った癖にその後もずっと「やっぱ紹介してくれないかな」ってお願いしてきやがってよ。

 トイレにまで付いてきた時は、本当に手が出そうになったわ。


 まぁこれが明日も続くようであれば、流石に先生に相談するか。

 自分で解決(物理)しようとしたら、退学処分食らいそうだし。


 そんな事を考えながら俺は校門に向かう。

 校門を出ると俺に気付いたアリシアが「今日も学校お疲れー」と言ってきた。


「うーす」


 いつものように軽く返し、家に帰ろうと俺とアリシアは並んで歩き出す。

 すると急に。


「みのる君ー。一緒に帰ろうよー」


 うしろから声を掛けられた。そしてその声の主は肩を組んでくる。


 このクソムカつく声、ゴミイケメンか。

 こいつ、俺が紹介しないと分かって、無理矢理アリシアと関係を築く作戦に切り替えたな。うっざ。

 ウザ過ぎて、目を合わせただけでぶん殴っちゃいそうだから、顔を見ないよう正面だけ向いておく。


「みのる君ー。無視しないでよー」


 完全無視のスタイルで歩く。

 が、アリシアはそれに反応する。


「みのる、なんか喋りかけられてるわよ? 反応しなくていいの?」


 あぁ、反応するなよアリシア!

 反応しちゃったら、ゴミイケメンはターゲットをお前に変えるって!

 元々ゴミイケメンの目的はお前なんだから!


「え、だよね、ほんと反応してよみのる君ー。ねぇーこの対応、君も酷いと思わない?」


 案の定、標的を変えアリシアにそう話しかけるゴミイケメン。


「えっ? ま、まぁ」

「だよねだよね。てか、えっ君、すごい髪の毛綺麗だね!」

「ん、あっ私?」

「そう君! 目もめちゃくちゃ大きくて綺麗だし、ハーフ? もしくは海外の人?」


 アリシアが分かりやすく困って俺の方を見てくる。

 怠いが流石に俺がなんとかした方が良さそうだな。


「この子は海外から交換留学で来てて――」


 割って入って嘘の説明をしようとすると。


「あーみのる君には聞いてないから」


 ゴミイケメンが舐めた態度でそう言ってきた。

 しかも続けてアリシアの隣に行き話しかける。


「君、交換留学生だったんだねー! なら、めちゃくちゃ日本語上手いじゃん! 可愛いのに頭も良いって非の打ち所がないなぁ!」

「は、はぁ」


 あーもうコイツやっちゃいますっ!?

 やっちゃいますか!?

 二度とナンパできなくなるレベルまでトラウマ植え付けようかなっ!?


「てか僕ユウキって言うんだけど、君はなんて言うの?」

「アリシアですけど」

「アリシアちゃんかぁ、可愛い名前だねっ。アリシアちゃんはイソスタとかやってないの?」

「やってないです」

「今時珍しいねぇ~。LIMEはやってる?」

「いえ」

「あーそっか。LIMEって確か海外ではあまり普及してないんだっけ? それじゃアリシアちゃんの国では連絡に何使ってるの?」


 ボロが出そうだから、早くナンパを止めたいんだが……。

 入る隙が無い!

 というかむしろ、これが巷のナンパ術かぁと感心して聞き入ってる俺がいる!

 どうしよう!


 ムカつく相手でも吸収できる所は吸収して活かす。

 異世界で覚えた処世術の1つだ。


 と、アリシアが俺に耳打ちをしてくる。


「この人、遠回しに拒否ってんのに、しつこいしウザいんですけど。しかもナルシストぽいしなんかキモい」


 草。

 うん、ゴミイケメンから吸収できるモノは何もなかったみたいです。

 それならさっさと退場してもらいますか。


「っとユウキ君。あのー、アリシアが困ってるみたいだし、もうそこら辺にしてもらえる?」


 俺がそう言うと、ゴミイケメンが少し不機嫌になった。


「えっ、なんでみのる君が話に入ってくんの?」

「は? いやアリシアが困ってるから――」

「アリシアちゃんが困ってるって、なんでみのる君が勝手に決めつけてんの?」

「ん? あの、決めつけじゃなくてだな――」

「決めつけでしょ普通に。なに、アリシアちゃんの事好きなの? だから嫉妬してるみたいな?」


 こいつの話の飛躍具合マジで凄いな。

 イケメンだからこその自信とかも関係してんだろうな。

 もう正直、イライラ越して感心する。


「はぁ、そうじゃなくて――」


 先ほどアリシアが言ってきた内容をそのまま伝えようとすると。


「みのるの言ってる通りなんで、もうどっか行ってもらえます?」


 アリシアが割り込むようにして冷たくそう言い放つ。


 おおっ!

 こんなアリシア、見たことない。

 なんか、かっけぇ!


「えっ、えっ、はっ、えっ?」


 頭を掻きながら、あたふたしているゴミイケメン。


 プププ、ナンパしてた相手にあんな冷たく言われたら、そうなりますわな。

 いい気味いい気味。


「まっ、そういう事らしいんで」


 立ち止まって固まってしまったゴミイケメンを置いて、俺とアリシアは足早に歩く。

 ちょっと離れた位置から後ろを振り返ると、まだゴミイケメンは放心状態だった。


「フッ、相当ダメージあったらしいな」

「ええ、あれだけで? メンタル弱すぎない?」

「多分ああいう風にナンパ断られたの初めてだったんじゃないか? アイツ、イケメンだから学校でもかなりモテてるし」

「あんなキモい男がモテるって、こっちの世界どうなってんの?」

「ほんとそれな!?」


 珍しく考えが一致した俺達はその後、ゴミイケメンの悪口大会をして帰路に着いた。

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