第4話 約1年ぶりの再会、そして家族への説明①
ピンポーン。
鳴り響くチャイム。
俺は顔がカメラに映らないように立って、誰かがインターホンに出るのを待つ。
そして。
「はい。どちら様で」
「……っ!」
妹の結衣が、インターホンに出た。
……久々に聞いた、結衣の声。
人は声を一番最初に忘れるというが、やっぱり1年とかそれくらいじゃ忘れないものなんだな。
この、ふてぶてしくて冷たい声!
我が妹だ!
……それで、何て返事をしようか。
ああ、クソ。
まだ今の時点じゃ、この世界は幻影魔法ではない、と決まったわけじゃないからな。
銀髪女から聞いたのは「幻影魔法なら、いくら喋りかけても反応がない」ってことだけ。
もしかしたら幻影魔法で作られた人は、インターホンの様に機械的な物には反応する系なのかも。
そう考えると、「お兄ちゃんの伊月みのるだよ。ただいま!」みたいに普通に返事はできない。
反応が無かった時、なんかお兄ちゃんめちゃくちゃショックだからな。
……んーどうしよう!!!
「あのー。どちら様ですか?」
返事を急かすようにもう一度訊いてくる結衣。
マズイ。このまま黙っていても不審者だと思われるだけだし、早くなんか言わないとっ――。
「た、宅配便でーす」
か細い声で俺はそう返事をした。
咄嗟に思いついた言葉が宅配便だった。
すると結衣は。
「えっ?」
と言ってきた。
反応した!?
これ、俺の声に反応したよな!?
したよなっ!!
ガッ、プツン――。
「あっあれ?」
なぜかインターホンを切られた。
えっ、結衣!?
ちょいちょい何で切った!
流石にこんな夜に宅配便は怪しすぎましたかっ!?
ちょっと誤解を解かないと!
インターホンをもう一度押そうとすると、家の中からドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
そしてバンッと勢いよくドアが開く。
「あっ……。た、ただいま」
父親に母親、そして妹。
家族総出で、怪しさ満点宅配便を出迎えてくれた。
「み……みのる……」
震えた声で俺の名前を呼ぶ母さん。目には涙。
それを見て、俺もなんだか涙が出てきそっ――。
ドゴッ!
「うえっ!?」
突然、母さんに顔を思いっきり殴られた。
なんでっ!?
感動の再会なんじゃ!?
俺が困惑している中、母さんが口を開いた。
「……あんたっ……今までどこ行ってたのよっ! 母さんが……いいえ、家族全員がどれだけ心配したと思ってるのっ!?」
静かな夜に響く母さんの声。
「えっ。い、いや違うっ」
「何が違うの!? なんでっ? なんで急にいなくなったの!? 連絡の一つもしないで、私達家族全員が毎日どれだけ苦しかったか! それなのに……急に帰ってきたと思ったら、宅配便? ふざけてるの!?」
初めて見る、母さんの怒った顔。
初めて聞く、母さんの怒鳴り声。
俺が知っている母さんは誰にでも優しく、全くと言っていいほど怒らない。
だから、母親としての叱りはあっても、ここまで怒鳴っているところを俺は見た事がない。
「……ご、ごめん……。宅配便とか言って……心配かけて、ごめん……」
正直、宅配便と名乗った以外に俺の悪いところは無いのかもしれない。
なぜなら俺は家を出たかったわけでも、帰りたくなかったわけでもなく、異世界に突然転移して帰れなかっただけだから。
でも、母さんの、怒り慣れていないであろう声と表情。
弱々しくも、何故かジンジンと痛みが残る頬。
それら全てが。俺がいない間、母さんが……父さんが……結衣が、どんな思いでいたか容易く想像できるから。
俺は謝った。
「本当にもう……」
「まっまぁまぁ、こうしてみのるが生きて帰ってきたことだし……な? 外じゃ近所迷惑にもなるし、とりあえず中で話そうか」
父さんが仲裁に入る形でそう言ってきた。
「そ、そうね……」
「って事でみのる、ほら」
「う、うん……」
約1年ぶりに、家に入る。
この実家の風景と匂い……懐かしい。
……結局、この世界は幻影魔法なんかじゃなかった。
つまり、俺は本当に帰って来たんだ。
地球に、日本に、実家に。
ああ、めちゃくちゃこの喜びをかみしめたい……ところではあるが。
それよりもまずは、なんで俺が家に帰って来なかったか、その説明をする事に集中しないとな。
手洗いうがいを済ませて、リビングに行く。
リビングでは既に、俺以外の家族全員が話を聞く準備万端といった感じでソファに座っていた。
なんか緊張する。
俺はそのソファの前に立って。
「えーっとまずは……。本当に今まで、心配かけてごめん」
改めて謝った。
すると。
「母さんも、さっきは理由も聞かずに殴ったり怒ったりしてごめんね」
すぐに、母さんが謝ってきた。
「あっいや、母さんが怒る気持ちも分かるし、謝らなくていいよ」
「いいえ。母親として、理由も聞かずにあんな事をしたのは最低だったわ。本当にごめんなさい。…………それで、今までどこにいたの?」
本題に入った。
俺はなんて答えるべきか。
……ここで普通に、「異世界にいました」なんて言っても、信じる信じないの前に、アニメも漫画もラノベもほとんど触れてない親からすれば「異世界ってなに?」ってなるし、そんな親だからこそ、またふざけてるって思われてしまう。
だから俺は、親でも分かりやすく、かつ簡潔に伝えた上で信じて貰える答え方をしなきゃいけない。
そんなの、簡単な事だ。
こうすればいい。
俺は右手を前に突き出し、人差し指だけを立ててナンバーワンのジェスチャーをする。
そして一言。
「炎魔法――ファイア」
そう唱える。すると、その人差し指の先から小さな炎が出てきた。
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