第5話 約1年ぶりの再会、そして家族への説明②

「「「っ!?」」」


 3人とも驚いて言葉を失い、炎を黙ってジッと見ていた。


 そこで透かさず俺の簡潔な説明。


「えーこんな感じで……今まで俺、剣と魔法のファンタジー世界にいました」

「「「……はあぁぁぁあっ!?」」」


 先に魔法という証拠を見せたうえで、誰でも分かる単語を使って短く話す。

 完璧だろう。


「え、え、ちょっとみのる。剣と魔法のファンタジー世界って? ん、またふざけてるの?」

「みのる。流石にここまで来て、からかうのは看過できないぞ」

「お兄ちゃん、ついに薬にでも手を出したの……?」


 あれ、誰も全く信じてねぇ……。

 わざわざ魔法まで見せたのに、こんな事ある?


「いやいやふざけてないし、からかってもいないからっ! あと薬もやってねぇよ!!!」

「じゃあ剣と魔法のファンタジー世界って何? 母さんにも分かるようにちゃんと説明して」


 って言われてもな……。

 転生転移モノのアニメとかちょっとでも見てたら、異世界って言えば一瞬で伝わるだろうに。

 どう説明すりゃいいんだ。


「……んーっと、この世界とは別の世界で文化も何もかもが違う……。人が普通に剣とか魔法が使えるって感じの世界。それが、剣と魔法のファンタジー世界……かな?」


 俺がそう説明すると、母さんは少し考える。

 そして何か思いついた様な表情をして言ってくる。


「あ、つまり、さっきの炎はマジックで、みのるは海外のマジックの世界にいたって事?」


 いや待ってなんでそうなる。


「母さん違う違う。さっきのは本物の魔法で、俺は本当に剣と魔法のファンタジー世界にいたんだって」

「おい、みのる。こんな所でもプロの設定を守るのは凄く立派だし、夢を追ってるのならそりゃ親としては応援してやりたい。ただ問題は、なんで俺達に黙って家を出て行ったんだって話だ。俺達が反対するとでも思ったのか?」


 なんで父さんまでマジックの世界にいたと勘違いして、夢を応援してくれてるの!?


「お父さんの言う通りよ。家を出る前に一度相談をして欲しかった。母さんはみのるの夢を全力で応援するのに……。それにしてもさっきのマジック凄いじゃない。母さん驚いちゃった」


 勘違いがどんどん進んでいく。


 もしかして剣と魔法のファンタジー世界って俺の説明が悪かったか。

 なんかこの言い回し、オシャレで好きだから使ったけど、分かりにくくて勘違いさせてる説が……。


 でも、勘違いするとしてもなんでマジックなの。

 剣ってマジックによく使われる剣じゃないよ?

 別に、人に夢を見せるために設定突き通してるわけじゃないよ?

 俺は本当に魔法を使えるし、女の子だってオナラしますよ!(関係ない)


「あーもう分かった。……そうだな、例えばコレ。風魔法――ウィンド」


 唱えると、俺の両手から強めの風が出てくる。

 その風で小物は吹き飛び、ソファに座ってた3人は、髪が乱れ、顔は変顔したみたいになる。


「どう? これでもまだマジックだと思う? あとコレとか」


 俺はテレビのリモコンを持って。


「水魔法――フリーズ」


 そう唱える。

 するとリモコンはあっという間に氷に覆われた。


「流石にこれで、魔法が使えるって信じてくれるでしょ?」


 いくら口で説明しても信じてくれなさそうだったから、明らかにマジックじゃ出来ないであろうレベルの魔法を連続で使ってみた。

 もしこれでも信じないなら、もっと規模の大きい魔法を使うしかなくなるが……どうだ。


 しばらく3人ともポカンと口を開けて黙っていたが、それから少しして母さんが言う。


「マジック……じゃないのよね……?」


 まだ信じてないのか。


「さっきから言ってるだろ? 本当に俺は魔法が使えるんだって」

「ごめんなさい、ちょっと理解が追い付かないわ……」


 そう言って母さんは文字通り頭を抱える。


「みのる、そのリモコン俺に見せてくれ」


 父さんに氷で覆われたリモコンを渡す。


「冷たっ……。本当に魔法……なのか……」


 母さんも父さんも信じた、というよりは理解できない現象に頭が真っ白になっているという感じだ。

 そんな中、話の途中からずっと黙り込んでいた結衣が喋りかけてくる。


「お兄ちゃん……」

「ん、なんだ」

「もしかして、異世界に行ってたの……?」


 ……イセカイ?

 ……異世界っ!?


「結衣、いま異世界って言ったか!?」

「え、うん言ったけど」

「マジか! そう、そうなんだよ、異世界に行ってたんだよ! やっとお兄ちゃんの話を信じてくれたか!」

「いやまぁ、あんなの見せられたら、ね? 手から強風とか、一瞬でリモコンを凍らせるとか、魔法でしかないでしょ」

「だよなだよな。いやぁ~流石我が妹! 理解が早い! にしても結衣、異世界って単語よく知ってたな~」


 結衣は親よりかはアニメを観るが、昔からやっている有名どころのアニメしか観ていなかったから、異世界を知っているのは驚きだ。


「最近流行ってたアニメが、異世界が舞台の話だったから知ってるよ」

「ああ、なるほど流行りね!」


 結衣が流行りのアニメを観るようになってたか。

 いいね、そこからアニメの沼に入るといい。


「ていうかそんな事はどうでもよくて。お兄ちゃんは今まで魔法が使える異世界にいたんだよね。で、そこにはどうやって行ったの? 教えて!」


 結衣はニコニコしながらソファから立って、そう言ってきた。

 こんなニコニコした顔の結衣、俺が不幸な事にあった時以外じゃ初めて見るかもしれん。


 上目遣いでキュートな表情。

 ここまで結衣に可愛い顔されたら、お兄ちゃんとしてはぜひ教えてやりたいんだがな……俺もよく分かってないんだよなぁ。


 と、そこに両親も話に入ってくる。


「ちょっと待って、その前に教えて。みのるはそもそもなんでその異世界って場所に行ったの? ……さっきの話が冗談じゃないってのは母さんも分かった。でもね、そこに黙って行く必要はあったの? なんで連絡もくれなかったの?」

「そうそう。俺達に何も言わず、なんでその場所に黙って行ったんだ。あと異世界ってなんだ。アニメとどう繋がるんだ」

「ねぇーお母さんお父さん待って。私の質問が先。――それで、異世界にはどうやって行くのお兄ちゃん!」


 一気に質問される学校の先生の気持ちが、今はめちゃくちゃ分かる気がする。


「ちょっと3人とも一旦落ち着いてくれ。ゆっくり順番に答えていくから。……っとまず、異世界にどうやって行けたかって質問だけどー、実は俺もよく分かってない」

「は」


 一気に冷たい表情になる結衣。

 いや結衣の顔こっわ!

 さっきまでのニコニコ顔はどこにいった!


「い、いやその、いつの間にか異世界だったからさ。俺もあんまり分かっていないというか……。あ、強いて言えば、霧だ霧! 霧の中を進んだら異世界に行けたって感じ!」

「は? 霧? はっ?」


 結衣の表情に動揺しながらも頑張って説明をしたが、それは満足のいく答えじゃなかったらしく、結衣の表情はさらに冷たくなる。


 何言っても満足しなさそうだし、もう結衣は一旦放置だ放置。


 俺は、恐ろしく冷たい視線を飛ばしてくる結衣を無視して話を進める。


「え、えっと次に、なんで異世界に行ったのかって質問ね。これ真面目な話、異世界に行ったのは別に俺の意思じゃないんだよ。さっきも言った通り、いつの間にか異世界だったってだけで、俺が行きたくて行ったわけじゃない。あとそんなだから、帰りたくても帰る方法分かんなかったし。それに異世界だから電波なくて連絡取れなかった」

「はーつかえねー」


 誰よりも先に結衣が冷たくそう返答してくる。

 あーやっぱこいつ可愛くないな。


「……母さん、聞けば聞くほど話がよく分からないわ。ねぇみのる。霧を進んだらとか言ってたけど、入学式の日、一体なにがあったの?」

「大型トラックにでも轢かれたんじゃない?」

「ええっ!」

「ちげーよ! 結衣余計なこと言うな。んで、何があったかって言うとだな――」

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