第8話 急遽開催、ゲーム大会

 ――早朝、リビング。


「おはよ~」


 寝ぐせで爆発した髪をポリポリと掻きながらリビングに来て、挨拶してくるアリシア。


「ちっ。お前はよく眠れたみたいだな」

「ええもうぐっすり。――こっちのベッドは本当に凄いわね。めちゃくちゃフワフワで貴族になった気分だったわって、うわ酷い顔ね。みのるは眠れなかったの?」

「ああそうだよ、色々考え込んでてな。……てか、昨日言ったように俺の部屋の物には何も触れてないだろうな?」


 昨日、俺の部屋にアリシアを案内した時。

 アリシアは部屋に置いてある、ありとあらゆる物に興味を示して触ろうとしていた。

 他人に自分の物を色々触れられるのは好きじゃないから「絶対に何も触るな」と言っておいたんだが。


「そういえば、そんな事を言ってたわね。安心して、なんにも触ってないから」

「そうか、ならいい」


 と、そこで。


「おはよう~。2人とも早起きね~」

「ふぁ~。おっ、2人ともおはよう」


 母さんは元気そうに、父さんは目を擦って眠そうにしながらリビングに来た。


「おは」

「おはようございます~」


 そう返事をする俺とアリシア。


「アリシアちゃんよく眠れた~?」

「はいもうバッチリ!」

「よかった~。みのるは眠れ――なかったみたいね……」


 俺の顔を見て察した母さん。


 そんな分かりやすいくらい酷い顔してんのか俺。

 警察署に行く前に仮眠しておくか。


「母さん、行方不明者届の手続きって何時ごろ行く?」

「えーっと今が7時半でしょ。今からお父さんの準備とか色々やる事があるから……10時くらいかな」

「分かった。じゃそれまで寝とくわ。アリシア、9時になったら起こしてっ……」

「あ、うんいいよって寝るの早っ」



「おーきろっ!」

「いっだぁっ!」


 バチンと頬を誰かに叩かれた。

 何事かと思い飛び起きて周りを見渡すと、俺の近くに結衣がいた。


「結衣が叩いたのか……?」

「うん」

「なぜ……?」

「9時になったから」

「ああ、それはありがとうだけど、叩いて起こす必要ある……?」

「妹に叩かれて起こされるの好きかと思って」

「そんなドMじゃねーよ。てか俺は、アリシアに起こすのを頼んだんだが……そのアリシアはどこだ?」


 ざっとリビングを見てもアリシアはいない。

 まさか、 逃げた!?


「アリシアちゃんは今トイレ」


 結衣がそう言った瞬間、ジャーっと流れる音が聞こえてきた。

 そして。


「ふぅー、こっちのトイレ快適すぎない? 便座が暖かくてマジ最高」


 そんな事を言いながらアリシアが来た。


 なんだただのトイレか。

 ちょっと警戒しすぎたか。


「暖房便座良いよねー。とりまアリシアちゃん、次はこのゲームしよー?」

「おっけー」


 ふとテレビを見ると、結衣はレースゲームを起動していた。


 おいおい結衣。

 異世界人にテレビゲームとか出来るわけないだろ。


 あっ、いやそうか。

 結衣はゲームが下手だ。

 全くそういった物に興味がない父さん母さんにすら勝てないド下手だ。


 そんな中、やっと勝てそうな相手、異世界人が現れたから、どうしても戦って無双したいんだな!?

 アッハッハッハ、可愛いやつめ。


 結衣の初めてゲームで勝つ姿をちょっと見とくか。


 そして結衣は、アリシアに操作方法を一通り教え。

 ついにレースゲームがスタートした。


 結衣はスタートダッシュで素早く前に進み、対するアリシアは普通に発進する。


 結衣、かなりずる賢い女だ。

 スタートダッシュを教えずに、自分だけ使うとは。

 ふふ、流石俺の妹。


 1週目。

 今のところ、結衣の順位は1位。

 アリシアの順位は最下位。


 まぁ当然だ。

 結衣はドリフトの仕方すら教えなかったからな。


 ドリフトは、このレースゲームで1位になる為には必須なテクニックだ。

 そんなテクニックを使わないとなると、アリシアはNPCにすら勝てないだろう。


 そう思っていたが。


 2週目。

 アリシアはコースの最短ルートを綺麗に進んで行き、どんどん順位を上げてきた。

 一方結衣は、慢心のせいかNPCに抜かされ3位に落ちていた。


 アリシアが思ったよりも操作が上手くてビビる。

 異世界人なのに、デジタルに慣れるの流石に早くないか?

 てか結衣がテレビについてどうやってアリシアに説明したのかめちゃくちゃ気になる。

 あとで聞こう。


 3週目。

 結衣はなんとか1位に戻ってキープしている。

 えーっとアリシアは……。


「っ!?」


 えっぐ!

 アリシアはいつの間にかドリフトをかまして、4位まできているじゃないか!


 これ、どうなるか分からんぞ!


 ついにラスト半周!

 結衣は1位、アリシアは2位!


 さぁどうなる!


「ゴール!!!」


 1位がゴールした事を知らせるセリフがテレビから鳴る。

 栄えある1位になったのは――。


「よっしゃぁっ! 勝った!」


 アリシアだった。


「レースでも負けたぁぁぁあ!!!」


 手と膝を床につけて、がっくりといった感じで悔しがる結衣。


 妹が勝つ姿を見るつもりだったが、プププ。この負けてる姿も悪くない。


「プッ」


 思わず笑ってしまう。

 するとそれに気付いた結衣がすかさず。


「笑ってないでお兄ちゃんも戦ってみなよ。絶対お兄ちゃん負けるから! アリシアちゃんゲーム何でもめっちゃ強いから!」


 そう言ってきた。


 何でも……?

 あーそういやさっき結衣「レースでも負けた」って言ってたし、他のゲームでも負けたのか。

 結衣ってマジでゲーム下手だな。


 アリシアがいくら慣れが早いとはいえ、ゲームで異世界人に負ける人なんてこの日本で結衣くらいだろ。

 俺が戦うまでもない。


「ブランクがあるとはいえ、俺がゲームで負けるわけないじゃん。それに初心者を屠る趣味、俺にはないからパスで」


 断った。


 普通にお腹も減ったしな、朝飯なにか食べるか。

 そう思い、冷蔵庫の方に向かおうとすると。


「とか言ってー、私に負けるのが怖いんでしょープププ-」


 アリシアがそんな舐めた事を言ってきた。


「あ? 受けて立とうじゃないか。お前ごとき、朝飯前だ!」


 そして俺は、さきほどと同じレースゲームでアリシアと勝負して。


「がっ……。ま、まけ……た……俺が……?」


 普通に負けた。

 いや意味がわからん。


「ちょ、これおかしいだろっ! チート、いや魔法か! なにか魔法使ったな!」

「チート……? はよく分からないけど、魔法なんて使ってないわよ。はぁー負けて悔しいからってズルを疑ってくるのはねー。なんというか、ダサいっていうかープププ」

「ほんとそれ、ダサい超えてみっともない。言ったでしょお兄ちゃん。アリシアちゃんマジで強いんだって」

「うっうるさい! もう1回! もう1回勝負だ!」

「おっけー。いくらでも勝負してあげるよー」

「さっきは油断してただけだからな。次は余裕で勝つ!」

「はいはーい」


 数分後。


「ゴール!!!」


 また負けた。

 しかも圧倒的に、アリシアに負けた。


「な、なぜ……」

「いやーこれが才能ってやつかなー。私、昔から遊び系は割となんでも勝てるんだよねー」

「違う。これはなにかの……間違い! そうだ! 朝飯を食べてないからだ! 腹が減っては戦ができぬって言うし。朝飯を食べれば!」

「アニメのかませ犬みたいで滑稽だね、お兄ちゃん」

「あれっみのるさっき、朝飯前って言ってたよーなー。ま、何でもいいから早くして」


 俺はすぐに、食パンにピーナッツバターをぬって食べた。


「よしこれで完璧。次こそは」

「あー負けちゃうかもー。わー大変だー」


 勝ってこいつの鼻をへし折ってやる!

 今のうちに勝者の気分を味わっておくがいい!


「さぁ勝負だっ!」


 数分後。


「参りましたー!」


 もう無理、勝てない。

 自己ベストを更新したんじゃないかってくらい完璧な走りで負けるなら、もう無理だ。


「アハハハハハ! 最初からそう言ってれば良かったんだよー」

「俺のこと弟子にしてください!」

「弟子募集はしておらんのだよ、つって」


 アリシアにレースゲームで勝てない事は分かった。

 が、そもそも俺が得意なゲームは他にある。

 だから、今はアリシアをいい気持ちにしておいて、次勝負する時に、そのゲームでボコボコにしてやろう。

 楽しみに待ってろ!


「あ、てかもうこんな時間」


 時計を見ると、9時半になっていた。


「準備しないと」


 俺は急いで自分の部屋に行き、服を着替えた。

 そしてリビングに戻ると母さんが既に用意を終わらせて椅子に座っていた。


「それじゃ、行こうか」


 俺に気付いた母さんがそう言ってくる。


「うい」

「おっけー」

「はーい」


 俺が返事をしたら、アリシアと結衣も母さんに反応した。

 よく見たら2人とも着替えている。

 しかもアリシアは勝手に俺の別の服を着ている。


「え? 2人も付いて来るの?」

「そうよ。みのる的にも、一緒に連れてきた方が都合がいいでしょ?」


 母さんは目で合図するように俺に言ってくる。


 なるほど。

 確かに結衣をアリシアと2人きりで家に置いておくのは不安だしな。

 その方がいいか。まぁ勝手に別の俺の服に着替えているのは納得できないが。


 それから俺達は母さんの車に乗り込み、行方不明者届を出した警察署に向かった。


「この荷車はやっ! すごっ! どうなってんの!?」


 その間、アリシアは常にうるさかった。

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