第9話 警察署とショッピングモール
「もう二度と、黙って家出なんてするんじゃないぞ?」
「は、はい」
警察署に着いた俺は、アリシアと結衣を車に残して、母さんと中に入り事情を説明、ひいては手続きを行った。
担当の警察にこっぴどく叱られはしたものの、割とスムーズに手続き自体は進み、取り消しは無事に完了した。
ちなみに、今までどこにいたのか、という質問に対しては「自分探しの旅で日本を巡ってました」と答えた。
警察署を出ると母さんはどこかに電話をする。
聞き耳を立てると、どうやら学校に連絡を入れているみたいだ。
電話が終わり、母さんは俺に話しかけてくる。
聞くと明日は学校に行って色々説明をしないといけないらしい。
てっきり、退学になってるものだと思っていた。
まさか休学という扱いで、籍が残ってるとは。
「あーなんかどっと疲れた。早く帰ろうや~」
車に戻ってきて一気に疲れがきた俺は早く家に帰りたくて言う。
しかし、母さんの考えは違うらしく。
丁度いいからとアリシアの服を買いにショッピングモールへ行くことになった。
「でかっ!!! ひろっ!!!」
モールに着くと案の定、アリシアは大きなリアクションをとり、周りの注目を集めている。
俺達は「すみません」と言ってその場を急いで離れ、洋服屋へ向かった。
*
「私これ着てみる! アリシアちゃんはこれ着てみて!」
最初に入った洋服屋で、結衣のスイッチが急に入り、プチ試着会が始まった。
それに呼応するようにアリシアもやる気を出し、楽しんでいた。
それだけなら全然良かったが。
時々俺に、洋服が可愛いかどうか、似合っているかどうか意見を求めてきては――。
「なにその中途半端な感想」
――批判された。
「仕方ないだろ、俺あんまり分かんないんだよ。オシャレとか」
「流石はお兄ちゃん、モテない男の典型ね」
お兄ちゃん、もう帰っていいですかね。
それからプチ試着会は1時間半ほど続き。
アリシアと結衣は気に入った服を何着か購入して、次はフードコートに来た。
「いい匂い。どれも美味しそうねっっっ!!!」
アリシアは鼻の穴を大きく広げ、料理の匂いを嗅ぎ興奮している。
「興奮しすぎ」
とかツッコミを入れつつ、実は俺も久々の、この世界の外食ということで興奮している。
さーてどれを食べようか!
ハンバーガーとかのジャンクフードでも良いし、ラーメンとかパスタとかの麵類でも良いし、たこ焼きでもカレーでもステーキでも、何でも良い。
正直どれもこれも美味いから、いっそ全部食べたいくらいだ。
俺がどれを食べるか悩みがらフードコートを見て回っていると、アリシアが話しかけてくる。
「ねぇ、あそこの店って美味しいの?」
そう言って指差している方向を見ると、それはワック、ハンバーガー店だった。
「あー、もうあの店はめちゃくちゃ美味いぞ。個人的に、毎日でも食えるんじゃないかってレベル」
「へぇー。それは気になるわね!」
「食べてみるか?」
「そうね! あの店にする!」
「おっけー。通貨とか色々分かんないだろうから俺も付いて行くわ」
俺は母さんから金を受け取り、アリシアとワックの列に並ぶ。
並んでいる間にメニューを決めて貰おうと、アリシアにメニュー表を見てもらうが「どれもよく分かんないから、みのるのオススメで」と言われた。
オススメと言われればやっぱ、てりやきワックワクバーガーかなぁ。
てかメニュー見てたら食べたくなってきた。
俺もここにするか。
やがて順番が来る。
「いらっしゃいませ、こんにちは。ご注文をどうぞ~」
「っと、てりやきワックワクバーガーのセットを2つで、飲み物はどっちもコーラでお願いします」
「はい、ありがとうございます! こちらで召し上がりですか?」
「はい」
「お会計1400円になります」
俺は会計を済ませて、待つ。
数分後、俺とアリシアは商品が乗ったトレーを受け取り、結衣が座っている席へ向かう。
着くと、結衣はアリシアが持っているトレーを見て言う。
「おお~アリシアちゃんはワックにしたんだ!」
「そう! 美味しそうな匂いがしたから!」
「なるほどねぇ~。って、お兄ちゃんもワックにしたんだ」
「イエス」
「ほんとお兄ちゃんワック好きだよね」
「まじでワックしか勝たん!」
「いやキモッ。――それでアリシアちゃん、どう? 味は!」
いつの間にかひと口、ハンバーガーを食べていたアリシアは黙り込んでいる。
もしかしてまずかった?
異世界人の口には合いませんでしたか、俺のオススメ。
「……ナニコレめっちゃ美味しいんだけど!」
大きな声でそう叫ぶアリシア。
そっちか。
美味しすぎて黙ってたパターンね。
「あはは、アリシアちゃん声でか」
笑いながら言う結衣。
「ごめんね、でもマジで美味すぎてビックリ! こんな美味しい食べ物この世にあったんだって感じ!」
「そう言ってるアリシアちゃんめっちゃ可愛い、写真撮らせて」
結衣はスマホを取り出し、バクバクと食べるアリシアを何枚も撮る。
「それ、イソスタに――」
「あげないあげない、もう分かってるって。お兄ちゃんはホントうるさいなー」
昨日、一度ストーリーにあげてたくせに……。
まぁいいや。俺も冷めないうちに食べよ。
そう思い、てりやきワックワクバーガーをひと口。
「うっまぁ!!!!!」
「びっくりしたー、お兄ちゃん声デカすぎ恥ずかしいからやめて」
アリシアと俺の対応の違い酷いな。
いやそんな事はこの際どうでもいい。
なんだこれ、なんだこのハンバーガー美味すぎだろ。
こんな美味しい食べ物この世にあったのか!
感激、感動、生まれて良かった、帰って来れて良かった!
俺は黙々と勢いよくハンバーガーとフライドポテトを平らげ、コーラを一気に飲み切った。
「あー美味すぎご馳走」
と、そこで遅れて母さんがやって来た。
母さんはどうやらステーキにしたみたいだ。
「2人の声がこっちまで聞こえたわよ~」
それを聞いて、周りを見渡してみると、確かに数人程こちらを見ているような気がする。
ちょっと恥ずかしい。
ピピピピピピ!
「あ、私のもできたみたい。取り入ってくる」
結衣はアラームを持って受け取りに行く。
そして1分もかからず戻ってきた。
結衣は明太子パスタだった。
「「いただきまーす」」
母さんと結衣は食べ始める。
アリシアと俺はすでに食べ終わっているから、それを黙って見る。
ステーキも明太子パスタも美味そうだなー。
「俺にちょっと頂戴」
母さんと結衣に聞くと。
「いいわよ~。はい、アリシアちゃんの分も」
「あんがと」
「ありがとうございます!」
母さんは少し、俺とアリシアにくれた。
が。
「はい、アリシアちゃん」
「ありがとうっ」
結衣はアリシアにはあげて、俺にはくれなかった。
チクショウ!
なんだこの格差!
あなたをそういう風に育てた覚えはありません!
あなたのような妹、俺は知りませんよ!
しかし、少しして結衣は「お腹いっぱいだから」と言って、残った分を俺にくれた。
「食べ残しか~」
「文句言うならあげないけど」
「ごめんごめん。残飯処理班行きます」
「はは、言い方きっしょ」
そうして昼飯を終えた俺達は、その後適当にモール内を数時間ほどブラブラ見てまわり、帰路に着いた。
家に帰ってからは、風呂や晩飯などを済ませた後、結衣とアリシアはゲームをしていた。
それを見ながら俺は、充電しておいたスマホを確認する。
「うわ、LIMEの通知すご……」
連絡アプリ、LIMEの通知が300件を超えていた。
友達の少ない俺が、こんな通知の数を見る事は二度とないだろうな。
LIMEを開くと、やはりというべきか、ほぼ公式からの連絡で。
下の方にスクロールすると、あとは家族からの連絡だった。
母さんに父さん、そして結衣。みんな俺を物凄く心配してた事が分かる内容だ。
あれだけ俺に悪態ついている結衣も、ちゃんと心配してくれてたんだな。
肌身離さず、充電が切れてからもスマホを持ち歩いてて良かった。
もし異世界に忘れてきていたら、このメッセージは見れなかったからな。
*
ゆい:お兄ちゃんどこにいるの!早く帰って来てよ!!!!!
*
「もう寝るか……」
深夜を過ぎていたため、俺と結衣は自分の部屋に戻り、アリシアは新たに用意された別部屋にいって、それぞれ眠りについた。
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