第9話 警察署とショッピングモール

「もう二度と、黙って家出なんてするんじゃないぞ?」

「は、はい」


 警察署に着いた俺は、アリシアと結衣を車に残して、母さんと中に入り事情を説明、ひいては手続きを行った。

 担当の警察にこっぴどく叱られはしたものの、割とスムーズに手続き自体は進み、取り消しは無事に完了した。

 ちなみに、今までどこにいたのか、という質問に対しては「自分探しの旅で日本を巡ってました」と答えた。


 警察署を出ると母さんはどこかに電話をする。

 聞き耳を立てると、どうやら学校に連絡を入れているみたいだ。


 電話が終わり、母さんは俺に話しかけてくる。

 聞くと明日は学校に行って色々説明をしないといけないらしい。


 てっきり、退学になってるものだと思っていた。

 まさか休学という扱いで、籍が残ってるとは。


「あーなんかどっと疲れた。早く帰ろうや~」


 車に戻ってきて一気に疲れがきた俺は早く家に帰りたくて言う。

 しかし、母さんの考えは違うらしく。

 丁度いいからとアリシアの服を買いにショッピングモールへ行くことになった。


「でかっ!!! ひろっ!!!」


 モールに着くと案の定、アリシアは大きなリアクションをとり、周りの注目を集めている。

 俺達は「すみません」と言ってその場を急いで離れ、洋服屋へ向かった。



「私これ着てみる! アリシアちゃんはこれ着てみて!」


 最初に入った洋服屋で、結衣のスイッチが急に入り、プチ試着会が始まった。

 それに呼応するようにアリシアもやる気を出し、楽しんでいた。


 それだけなら全然良かったが。

 時々俺に、洋服が可愛いかどうか、似合っているかどうか意見を求めてきては――。


「なにその中途半端な感想」


 ――批判された。


「仕方ないだろ、俺あんまり分かんないんだよ。オシャレとか」

「流石はお兄ちゃん、モテない男の典型ね」


 お兄ちゃん、もう帰っていいですかね。


 それからプチ試着会は1時間半ほど続き。

 アリシアと結衣は気に入った服を何着か購入して、次はフードコートに来た。


「いい匂い。どれも美味しそうねっっっ!!!」


 アリシアは鼻の穴を大きく広げ、料理の匂いを嗅ぎ興奮している。


「興奮しすぎ」


 とかツッコミを入れつつ、実は俺も久々の、この世界の外食ということで興奮している。


 さーてどれを食べようか!


 ハンバーガーとかのジャンクフードでも良いし、ラーメンとかパスタとかの麵類でも良いし、たこ焼きでもカレーでもステーキでも、何でも良い。

 正直どれもこれも美味いから、いっそ全部食べたいくらいだ。


 俺がどれを食べるか悩みがらフードコートを見て回っていると、アリシアが話しかけてくる。


「ねぇ、あそこの店って美味しいの?」


 そう言って指差している方向を見ると、それはワック、ハンバーガー店だった。


「あー、もうあの店はめちゃくちゃ美味いぞ。個人的に、毎日でも食えるんじゃないかってレベル」

「へぇー。それは気になるわね!」

「食べてみるか?」

「そうね! あの店にする!」

「おっけー。通貨とか色々分かんないだろうから俺も付いて行くわ」


 俺は母さんから金を受け取り、アリシアとワックの列に並ぶ。


 並んでいる間にメニューを決めて貰おうと、アリシアにメニュー表を見てもらうが「どれもよく分かんないから、みのるのオススメで」と言われた。


 オススメと言われればやっぱ、てりやきワックワクバーガーかなぁ。

 てかメニュー見てたら食べたくなってきた。

 俺もここにするか。


 やがて順番が来る。


「いらっしゃいませ、こんにちは。ご注文をどうぞ~」

「っと、てりやきワックワクバーガーのセットを2つで、飲み物はどっちもコーラでお願いします」

「はい、ありがとうございます! こちらで召し上がりですか?」

「はい」

「お会計1400円になります」


 俺は会計を済ませて、待つ。

 数分後、俺とアリシアは商品が乗ったトレーを受け取り、結衣が座っている席へ向かう。


 着くと、結衣はアリシアが持っているトレーを見て言う。


「おお~アリシアちゃんはワックにしたんだ!」

「そう! 美味しそうな匂いがしたから!」

「なるほどねぇ~。って、お兄ちゃんもワックにしたんだ」

「イエス」

「ほんとお兄ちゃんワック好きだよね」

「まじでワックしか勝たん!」

「いやキモッ。――それでアリシアちゃん、どう? 味は!」


 いつの間にかひと口、ハンバーガーを食べていたアリシアは黙り込んでいる。


 もしかしてまずかった?

 異世界人の口には合いませんでしたか、俺のオススメ。


「……ナニコレめっちゃ美味しいんだけど!」


 大きな声でそう叫ぶアリシア。


 そっちか。

 美味しすぎて黙ってたパターンね。


「あはは、アリシアちゃん声でか」


 笑いながら言う結衣。


「ごめんね、でもマジで美味すぎてビックリ! こんな美味しい食べ物この世にあったんだって感じ!」

「そう言ってるアリシアちゃんめっちゃ可愛い、写真撮らせて」


 結衣はスマホを取り出し、バクバクと食べるアリシアを何枚も撮る。


「それ、イソスタに――」

「あげないあげない、もう分かってるって。お兄ちゃんはホントうるさいなー」


 昨日、一度ストーリーにあげてたくせに……。

 まぁいいや。俺も冷めないうちに食べよ。


 そう思い、てりやきワックワクバーガーをひと口。


「うっまぁ!!!!!」

「びっくりしたー、お兄ちゃん声デカすぎ恥ずかしいからやめて」


 アリシアと俺の対応の違い酷いな。

 いやそんな事はこの際どうでもいい。


 なんだこれ、なんだこのハンバーガー美味すぎだろ。

 こんな美味しい食べ物この世にあったのか!

 感激、感動、生まれて良かった、帰って来れて良かった!


 俺は黙々と勢いよくハンバーガーとフライドポテトを平らげ、コーラを一気に飲み切った。


「あー美味すぎご馳走」


 と、そこで遅れて母さんがやって来た。

 母さんはどうやらステーキにしたみたいだ。


「2人の声がこっちまで聞こえたわよ~」


 それを聞いて、周りを見渡してみると、確かに数人程こちらを見ているような気がする。

 ちょっと恥ずかしい。


 ピピピピピピ!


「あ、私のもできたみたい。取り入ってくる」


 結衣はアラームを持って受け取りに行く。

 そして1分もかからず戻ってきた。

 結衣は明太子パスタだった。


「「いただきまーす」」


 母さんと結衣は食べ始める。

 アリシアと俺はすでに食べ終わっているから、それを黙って見る。


 ステーキも明太子パスタも美味そうだなー。


「俺にちょっと頂戴」


 母さんと結衣に聞くと。


「いいわよ~。はい、アリシアちゃんの分も」

「あんがと」

「ありがとうございます!」


 母さんは少し、俺とアリシアにくれた。

 が。


「はい、アリシアちゃん」

「ありがとうっ」


 結衣はアリシアにはあげて、俺にはくれなかった。


 チクショウ!

 なんだこの格差!


 あなたをそういう風に育てた覚えはありません!

 あなたのような妹、俺は知りませんよ!


 しかし、少しして結衣は「お腹いっぱいだから」と言って、残った分を俺にくれた。


「食べ残しか~」

「文句言うならあげないけど」

「ごめんごめん。残飯処理班行きます」

「はは、言い方きっしょ」


 そうして昼飯を終えた俺達は、その後適当にモール内を数時間ほどブラブラ見てまわり、帰路に着いた。


 家に帰ってからは、風呂や晩飯などを済ませた後、結衣とアリシアはゲームをしていた。

 それを見ながら俺は、充電しておいたスマホを確認する。


「うわ、LIMEの通知すご……」


 連絡アプリ、LIMEの通知が300件を超えていた。

 友達の少ない俺が、こんな通知の数を見る事は二度とないだろうな。


 LIMEを開くと、やはりというべきか、ほぼ公式からの連絡で。

 下の方にスクロールすると、あとは家族からの連絡だった。

 母さんに父さん、そして結衣。みんな俺を物凄く心配してた事が分かる内容だ。


 あれだけ俺に悪態ついている結衣も、ちゃんと心配してくれてたんだな。


 肌身離さず、充電が切れてからもスマホを持ち歩いてて良かった。

 もし異世界に忘れてきていたら、このメッセージは見れなかったからな。


ゆい:お兄ちゃんどこにいるの!早く帰って来てよ!!!!!


「もう寝るか……」


 深夜を過ぎていたため、俺と結衣は自分の部屋に戻り、アリシアは新たに用意された別部屋にいって、それぞれ眠りについた。

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