第10話 学校との話し合い、そして決意固める伊月みのる

 ――次の日、俺と母さんは先生達に説明をするため、学校に来ていた。

 ちなみに結衣とアリシアは車の中だ。


「こちらの部屋でお待ちください」


 今日、俺達が来ることを知っていた適当な先生に連れられ、空いていた進路指導室に入る。

 そして椅子に座り、待つ。


「なんか緊張するな……」

「そんな緊張しなくてもいいわよ。昨日みたいに、今までどうしてたかって事を話して、これからどうするか決めるだけなんだから」

「いやそれはそうなんだけど……」


 別に、俺は先生とのそういった話し合いに緊張しているわけじゃない。


 俺はそもそも中学時代に色々あったせいで、学校そのものに抵抗感があるからな。

 だから学校に入った時点で既に。

 学校に入ったという事実で緊張している。


 ただ、抵抗感の結果が、緊張にとどまっているのは不思議だ。

 以前までの俺なら、学校に入ってすぐに手や足は震え、先生や生徒の視線を凄く気にして動悸と汗が止まらなかっただろう。


 もしかしたら異世界に行って、ある種の自信みたいなものがついたのかもしれない。

 ……知らんけど。


「失礼します。私、1―C担任の岡部です」

「私は学年主任の磯島です」


 しばらくして、担任と学年主任が部屋に入ってきた。

 俺と母さんは立って挨拶をする。


「お世話になってます、みのるの母です」

「初めまして。伊月みのるです」

「お母様、どうもお久しぶりです。みのるさんは初めましてですね、こうして会える事が出来て本当に良かったです。どうぞ、2人ともお掛けになってください」


 率先して話す担任は若い男の先生で、学年主任は厳格といった感じの、髪が白い男の先生だ。


「……っとそれで、今回はみのるさんの休学の件と今後の話ですが、まずは……そうですね。みのるさん、休学の間何があったのか聞いてもいいですか? 一応、お母様と警察から行方不明だったという事は伺っていますが、その間みのるさんに何が起きたのか、いつ家に戻られたのか、一度みのるさん自身の口で説明をお願いできますか?」


 そう訊いてくる担任。


「自分探しの旅をしてました。それで帰ってきたのは一昨日です」


 担任の問いに対して、間髪入れずに答える俺。

 昨日警察に散々説明したから迷いなく答えられる。


「は、はぁ。つまり、家出という事ですか?」


 担任と学年主任の眉間にしわが寄る。


 やべ、ミスった。

 そういや自分探しの旅ってただの家出で、めっちゃくちゃ印象悪いじゃん。

 それをすぐにスパッと言い切るとか、先生からしたら問題児もいいところだよな。


 なんか普通に退学処分とかなりそう。


「い、いや。まぁ、家出になるのかもしれないんですけど、その~色々と訳があったというか。未熟な自分を成長させたかったというか」

「んー。それでも誰にも何も言わず家出は感心できないですね。あの入学式の日、みのるさんが学校に来てないという事で、沢山の先生が付近を探し回ったんですよ? その日以降も空いてる先生が学校周りを探したりしていたんですから。お母様も凄く心配されていて、多くの人に迷惑をかけた事分かっていますか?」


 って言われても!!!

 探してくれたのは普通にありがたいけどさ、本当は家出した訳じゃないんだよ……。

 あー異世界に行ってたって正直に言ってしまいたい。

 けど絶対面倒な事になるし、我慢しないと……。


「すみません」


 俺は申し訳なさそうにする。

 本心はちっとも悪いと思っていない。


「…………分かりました。まぁ、その事を理解してもらえるなら良いです。それでは本題に入るんですが、こちらの紙を見てください」


 先生から差し出された紙を見る。

 それは休学届だった。


「ここに書いてある通り、みのるさんの休学は来月までなんです。そこで、復学するか、退学するか、休学を延長するか決めてもらわないといけないんですが、どうされますか?」


 黙って紙を見ながら考える俺。


 どうしよう。

 休学したら、その後は絶対に復学しないといけないと思っていたから、こうして選択肢が与えられると迷う。


 退学もアリかもしれない、と。


 元々この学校に入ったのも、親を心配させたくないって理由なだけで、別に好きで入った訳じゃないからな。

 1年前の入学式の日なんてガクブルで登校してた位だし、この学校には未練も何もない。


「一応あと2週間は考える猶予があるから、ゆっくり家で決めてもいいですよっ――」

「復学します」


 しかし、俺は復学を選ぶ。


 そのハッキリとした答え方に、母さんは少し驚いた表情をしている。


 退学も正直アリかと思った。

 学校に対して抵抗感があるし、中学時代のトラウマも抱えているからな。

 

 でも、今の俺は、以前とはまったく違う。

 体格は少しデカくなって、異世界で生き方、ある程度のコミュニケーション能力を身につけた。

 そして何より、魔法という武器を手に入れた!


 これらを上手く使えば俺は、友達はおろか彼女だってできる、可能性がある!

 遠い昔、中学生の頃に諦めた、充実した青春を過ごしたいという夢だって、叶える事ができる、可能性がある!!!


 それならもう、やるしかないだろ、行くしかないだろ!!!


「あ、分かりました。では……この封筒の中に入ってある紙に、家に帰ってから記入してもらえますか。どこに何を書けばいいか、例が載ってある紙も入ってるので、それの通りに記入してもらって、職員室まで提出をお願いします」

「了解です!」

「提出してもらったら、それを職員会議に通すので、結果が決まり次第改めてご連絡させて頂きます」


 それから、小一時間ほど話し合いは続いた。

 復学できる事になったらどういう流れになるのかの話に加えて、家出の事で再度、学年主任からの説教もあった。

 鬱陶しいと思いながらもその説教を聞いて――。


「という事で、今日はこれくらいで終わりましょうか」


 その日は解散した。


 そして、次の日には復学する旨を書いた紙を提出して。

 さらに1週間後、復学が認められたという報告と、話し合いの日程調整の連絡が届いた。

 話し合いはできるだけ早い方がいいだろうと、1番近い日付にした。



 ――3日後、学校。


「という感じで、説明は以上ですが。入学式の件は、校長先生が計らいで許可した、本当に特例なのでくれぐれも休まないでくださいね?」


 俺と母さんに復学の事や入学式の説明を終えた担任は、念を押すようにそう言ってくる。


 どうやら担任曰く、俺の事情を聴いた校長先生が、入学式に出席させてあげようと言い出し、特例で許可が下りたらしい。

 だから担任は、俺に何度も休まないでくれと、念を押してくる。


 そもそも入学式に出られない流れだった事にビックリだが、まぁここは素直に校長先生に感謝しよう。

 入学式という行事は、俺のサクセスストーリーに重要なイベントだからな。


「分かりました、ありがとうございますっ」



 ――そうして、これといった変化もなく、月日は流れる。


 担任との話し合いから1カ月が過ぎ、アリシアとの同居生活にも慣れてきた頃。

 ついに俺の、充実した青春の1ページ目、入学式の日を迎えた。




――――――――――――――――――――――――


始まりの第1章、これにて完結です。

次の話からは、第1話の続き、高校生活編のスタートです。

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