第7話 これからのこと
「すまん銀髪!!!」
銀髪女を家の外で待たせていたことを思い出した俺は、風呂から上がった後、急いで家族に事情を説明し話し合った。
そして結論を出したうえで、銀髪女のもとへ。
「ちょっとあんた! いくらなんでも時間かかり過ぎよっ! 絶対私のこと忘れてたでしょ!」
案の定、銀髪女はキレていた。
しかも俺の胸ぐらを掴んでくるほどに。
が、申し訳ない気持ちはあるが、顔が可愛いせいであまり怖くはない。
「い、いや忘れてないって……」
忘れてたとか正直に言ったら、なんか泣きそうなタイプな気がするから、嘘をついた。
「目が泳いでるわよ目が!」
「泳いでねぇって。ってかそれより、この世界のことなんだが、端的に言うと幻影魔法じゃなかったぞ」
胸ぐらを掴む手を引き剥がしながらそう言う。
「でしょうね。あなた、思いっきり殴られてたし」
「見てたのかよ……」
「そりゃ気になるし見るでしょ」
親とのやり取りを他人に見られるとか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「……とりあえず、中に入ってくれ。そこで色々説明するから」
「わかった」
家の中に入り、俺は家族と話し合って決めた事を、銀髪女に話す。
ちなみに話し合いで決めた事というのは、真実を全て話したうえで、本人さえ良ければ条件付きでうちで面倒を見ようというものだ。
一応、俺は家族に異世界人の危険性とか諸々全部話したが、母さんの「でも、可哀想じゃない」の一言で押し返された。
母さんの優しさの前には誰も勝てないということだ。
ただ一点だけ、この世界には外で魔法を使っちゃいけないルールがある、という事だけは訂正しないでおいた。
これも嘘だって伝えたら、厄介な事になりそうだったからだ。
「で、どうする?」
「えーちょっと待って。今、頭がこんがらがってるから……」
まぁそうなるのも無理はない。
異世界転移転生モノを知っている俺ですら、異世界に着いた時頭がパンクしたんだから。
「えっと、とりあえずここは私がいた世界とは別なのよね?」
「ああ」
「最初に話した時、なんでここはダンジョンから離れた遠い国って嘘をついたの?」
「あーそれはだな……。ぱ、パニックを起こさないように、ついた優しい嘘、みたいな」
「なるほどね」
ふぅ、俺って結構ウソ上手いかも。
と、家族がキョトンと俺を見つめている事に気付いた。
「な、なに?」
「みのる……何語喋ってるの……?」
「え? 普通に日本語だけど」
「いや、どう聞いても日本語じゃないわよ」
「はっ? それってどういう――」
瞬間、思い出した。
そういえばそうだ。
あれは確か異世界に着いて2日目くらい。
俺は、自分の喋る言葉が異世界の人に全く伝わらず、それに絶望しながらも頑張ってジェスチャーを使って色んな人に助けを求めていた。
そんな時、ある飲食店の店主に差し出された紫色の水。
それを飲んでからだった。
異世界人が喋る事を理解できるようになって、俺の言葉が通じるようになったのは。
それは魔法を使って作られた水で、異世界じゃ当たり前の万能な飲み物。
ただ、人に飲ませる事は滅多にないらしく、普通は人に従順な移動用魔物とかに飲ませて、人間の言葉が伝わるようにする飲み物だって店主は言ってたはず。
日本語がなんで通じるようになったのか不思議に思っていたが。
それがまさか、他人から聞いたら、俺が異世界語を喋ってるように聞こえるとは。
俺的には日本語を話してるつもりなんだがな。
なんともまぁ、魔法って偉大だな。
俺がそんな事を考えていると、突然。
「言語魔法――ウィバレイト」
銀髪女はそう魔法を唱えた。
「ちょ、なに魔法使ってんの!?」
「うわぁもうっビックリした。驚かさないでよ……」
「いや驚かさないでよ、じゃなくてだな。なんで魔法使ってんだ!」
「あなた達が何喋ってるか分かんなかったから言語魔法を使っただけよ……。そ、そんな怒る事? 外じゃなかったら魔法を使っても良いんじゃないの……?」
なんだそういう事か。
俺はまだこの銀髪女を信用してないから、魔法を急に使われると警戒してしまう。
「家族もビックリしてるし、急に魔法を使うのはやめてくれ」
「分かった。なんかごめんなさい」
シュンとなる銀髪女。
「すごい……。日本語になった……。これも魔法……」
手で口をおさえながら小声で母さんはそう言う。
どうやら、言語魔法で銀髪女の喋る言葉は日本語仕様になったらしい。
ほんとどんな仕組みしてんだか。
「……てかさ、1つ聞きたいんだけど。私ってもう、元の世界に帰れないの……?」
「それは……まだ何とも言えない。俺がそっちの世界に行った前例があるから、何かしら方法はあるんだろうけど、その方法がよく分かってないからな。帰れるとも、帰れないとも言えない」
「そう……」
この事実は銀髪女にとって相当ショックだろう。
この世界でも、帰れる保証がある留学ですら、ホームシックになる人がいるんだから。
それが元の世界に帰れないって規模の話だとな、かなり精神的にキツイよな。分かるよ。
俺もそれ経験したから。
だがしかし。
「それじゃ、いつになるか分からないけど、帰れるまでお世話になりますっ!」
銀髪女は何も気にしていないかのように、ニッコニコの笑顔でそう言って土足で家に上がる。
「うおいおいおい、靴脱げ靴」
「えっ? あ、脱ぐの忘れてた、ごめんなさい」
なんだこいつ、メンタル鋼か?
なんでそんなけろっとしてられるんだ。
普通、不安でたまらなくないか?
知らない世界で、知らない人の家に住むって。俺だったら、そんな笑顔にはなれない。
警戒心と緊張で顔がこわばる自信がある。
「ちなみに、お名前は?」
「アリシアです!」
「アリシアちゃんね。私は伊月かおりって言います。これからよろしくね」
「はい! かおりさん、よろしくお願いしますっ」
母さん、さっきと違ってめちゃくちゃ飲みこみ早いな。
一応そいつ、無期限居候宣言したやつだからね。
警戒していこうね。
「俺は伊月忍夫だ。よろしくアリシア」
「私は伊月結衣です! アリシアさんよろしくーっ!」
あ、あれ。
なんか俺の時より、すごい歓迎ムードじゃない?
「忍夫さん結衣さんよろしくお願いしますー! それで、あなたは……?」
「俺か。俺は伊月みのるっ――」
「アリシアさん! これから私、アリシアちゃんって呼びたいんだけど、いい?」
「全然いいよっ! 結衣ちゃんっ」
「きゃーめっちゃ可愛いんだけど! ほんとお人形さんみたい!」
結衣の割り込みで、俺の自己紹介が途切れた。
結衣、わざとやってないか?
「とりあえず、色々決めたいから、こっち来てくれるかアリシア」
「わかりました」
そうして俺達家族とアリシアで、これからの事を話す。
まずはさっきも言ったように、異世界に帰れるまでは面倒を見るということだ。
ただそれは、ある程度の制限と、家族の一員として手伝いを積極的に行うという条件付きだと説明した。
制限に関しては、実は俺が提案したもので、その内容というのが。
1つ目、勝手に外に出ない(外に出たい場合は家族の誰かと同伴が条件)。
2つ目、魔法を勝手に使わない。
3つ目、自分が異世界人だと、他の世界から来たと他人に言わない。
4つ目、俺の部屋に絶対入るな。
だったが、4つ目は家族に却下された。
どうやら今日のところは、アリシアを俺の部屋で寝させて、俺はリビングのソファで寝てくれとのことらしく、その制限は駄目だと言われた。
自分のテリトリーに入られるのはマジでクソ嫌すぎるから、俺は抗議した。
しかし、別の部屋を明日中に用意するから、今日1日だけ、と説得されたので、仕方なく我慢する。
まぁ、親の部屋とか妹の部屋に入られるよりかは警戒しやすいし、丁度いいか。
「てかお兄ちゃん。その制限っていつまでなの? ずっと続くのはアリシアちゃんが可哀想」
何度も説明しただろ結衣。
当然、アリシアが信用できる奴だと分かるまでだ。
これは家族と、この世界を守る為でもあるんだぞ。
「とりあえずは、アリシアがこの世界に慣れるまでかなー」
アリシアに「アリシアが信用できる奴だと分かるまで」って伝わったら本末転倒なので、慣れるまでと言っておいた。
「あっそ。アリシアちゃん、明日から私と色々なところに遊び行こうね!」
「うん、行こ行こっ!」
仲良くなるの早過ぎだろ結衣。
流石は陽キャ女子な妹。コミュ力は伊達じゃない。
しかしこの展開は不安だ。
先が思いやられる。
「あ、そういえば結衣。アリシアのことをイソスタグラムのストーリーとかにあげたりするなよー? 目立ち過ぎるからなー」
「え。もうしたけど。めちゃくちゃ反応良かったよ、みんな『誰それ可愛すぎ』って」
「いつの間に!? マジでなにやってんだよ……」
「大丈夫大丈夫。みんなには、他の世界から来た人なんて言ってないから」
「それは当たり前だ。全く……」
これ、異世界人ってバレるのも時間の問題なんじゃ……。
そして、一通り話し合いが終わり、夜も遅かったため家族は各々寝床についた。
アリシアにはとりあえずシャワーだけ浴びてもらい、俺の中学時代の服を着させ、部屋に案内した。
そういった諸々を終えた俺は窮屈なソファで横になる。
「あー疲れた」
……やっと家に帰って来れたのに、俺の扱い酷くない?
こんな所で寝かせてさぁ……。
と思ったが、案外ソファも悪くない。
なんせ今までは魔物小屋の藁みたいな草の上か、探索者同士で金を出し合って、大部屋のデカいベッドで全員で寝ていたからな。
これはゆっくり眠れそうだ。
……しかし、警戒心を働かせてたせいで、あまり寝られず朝を迎えた。
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