第33話 祝賀会――そして登校

「よし、おっけい。そこの2人、こっちに来てくれ」


 スーパーから帰って来た俺は、リビングの机に、買ってきたお菓子とジュースを適当に並べて、スマホをいじっているアリシアと妹を呼ぶ。


 今からするのは勿論、ダンゴムシブラザーズの退学を祝う祝賀会。

 本来、俺が買ってきたジュースやお菓子は治癒魔法を教えてくれたアリシアに渡して終わりだったが(妹の分を買うの忘れてた)、どうせなら皆で祝った方が楽しくないか、と思いこうして2人を呼びつけた。


 人生楽しんだもん勝ちってよく言うしね(こうきのイソスタのプロフに書いてあった)。

 楽しめる時に複数人で楽しんだ方がいいっしょっ!


「なになに?」

「お兄ちゃんなにこれ」


 興味津々なアリシアと、若干訝しげな顔の妹。


「とりあえず座って座って」


 俺がそう言うと、アリシアは「おっけー」と言って椅子に座る。

 が、妹は座らず俺を怪しんで睨んできた。


「え、なんかめっちゃ怪しいんだけど……。お兄ちゃん何企んでんの?」

「何も企んでないって。いいから座って座って」


 嫌がる妹を半強制的に椅子に座らせて、買ってきたジュースを2人に押し付けるようにして勢いよく手渡す。

 そして俺もジュースを手に持って前に出し、大きな声で一言。


「てことで、いじめっ子の退学を祝してえ〜、カンパーイ!!」

「「……???」」


 困惑して顔を見合わせる2人。


「ほらほら、乾杯しようよかんぱい!」


 乾杯を促す。


「お兄ちゃん、なにを祝して乾杯って言った?」


 眉間にシワを寄せながら妹が訊いてきた。


「え? いやだから、いじめっ子の退学を祝して乾杯だって」

「いじめっ子? いじめっ子って誰」

「いじめっ子はいじめっ子だよ。ほら、中学時代俺が引きこもる原因になったあのいじめっ子」

「あーあのいじめっ子ね。って私知らないし。顔も名前も知らないけど?」

「まぁ知ってなくて良いよ。そこは重要じゃないし。とりあえず、俺と因縁のあった奴らが高校を退学になったから、それを一緒に祝ってくれって感じで。このお菓子とかジュース全部俺の奢りだから、好きなだけ食って飲んで良いぞ!」


 妹に詳しく説明をすると、「同じ高校にいたんだ」と驚きつつもなんとなく状況を理解したのか「じゃ遠慮なく」と言ってジュースを飲んでお菓子を食べはじめた。

 アリシアもそれを見て、同じく飲んで食べだした。


「んーどんどん食って飲んで食って飲んで~」


 乾杯をして少し経つが、妹もアリシアもスマホをいじってばかりで会話がなく、正直、祝賀会ってほどの雰囲気ではなかった。


 若干、というか結構寂しいけどまぁ、勝手に急遽やりだした会だし仕方ないだろう。


 あ、そうだ。ここら辺で、アレ見せてみるか。


「ちょ2人とも、これ見てみ」


 俺はスマホを取り出してイソスタを開き、ダンゴムシブラザーズたちの全裸土下座写真を2人に見せる。


「こいつらが俺を虐めてた奴らなんだけど、急に今日こんな写真を送ってきたんだよね」

「キモッ、なんで裸で土下座なん。――え、てかこのマッシュ知ってる! この前私をナンパしてきた人じゃん!」

「あ、そうそうその人。結衣めっちゃ拒否ったんでしょ?」

「うん。なんかナルシスト入ってて無理だったんだよね。友達はイケメンとか言ってたけど。てかなんでお兄ちゃんが知ってんの?」

「あ、それは――」


 色々言い訳した結果、結衣に俺が妹の恋愛を管理している激キモお兄ちゃんというレッテルを貼られた。

 内容としては、妹をナンパした男に対し、俺が魔法で脅して全裸土下座写真を送らせた、という風になった。


 激キモお兄ちゃんと言われるくらいなら、真実を言った方が良かったのかも……。

 今更後悔しても遅いがな……。


「それよりさ、思った事あるんだけど。なんでお兄ちゃんだけそんなに魔法を外で使ってんの? ズルくない? ねぇアリシアちゃん!」

「確かにそれはそうよ! こっちの世界じゃ魔法は外で使っちゃダメなルールなんでしょう?」

「それは前にも説明したが、学校は建物の中だから外判定じゃないしオッケーなんだよ」

「え、じゃあ私も学校の中なら使っていいってこと???」


 真剣な顔をして結衣がそう訊いてくる。


「いやまぁそれはそうなるけど。結衣は魔法使えないだろ?」


 魔法は唱えれば誰でも使えるって訳じゃない。

 才能もいるし、そもそも特別な手順を踏んで魔力解放って儀式をしないと使えないからな。


 まあ俺が儀式のやり方を教えれば、もしかしたら結衣も魔法を使えるようになるかもしれない。

 でもそれをすると、色々と面倒ごとが増えそうだからやってない。


 なので諦めてくれ、妹よ。


「――フッフッフ、舐めて貰っちゃ困るよお兄ちゃん」


 突然ニヤリ笑い、そんな事を言い出す結衣。


「え、まさか……?」

「フフフ、そのまさかだよ!」

「なっ! なにっ!?」


 結衣は右手をナンバーワンの形にして前に突き出す。

 そして――。


「炎魔法――ファイア!」


 可愛い声でそう唱える!

 すると、細い人差し指の先から小さな炎が出てきた。


「おいおいマジかよ……」

「マジだよ!!! ビックリした? お兄ちゃん!」


 いつの間にか、妹の結衣も魔法を使えるようになっていた。


 ……アリシアお仕置きだなこれ。



 ――2日後。


「ん~、なんて気持ちのいい目覚めだろうか」


 アラーム音が鳴る前に、俺は目を覚ました。


 こうき達が学校を自主退学したと知っている状態で迎える初めての登校日。

 信じられない程よく眠れて、信じられない程スッキリとした状態で俺は起きた。

 まるで長年悩まされた肩こりが一気に解消され、軽くなった気分。


「天気も良いし最高だなっ」


 俺はデ〇ズニーのプリンセスみたく優雅にスキップしながら、学校に行く準備をする。


 歯磨きをして、朝食を食べて、寝癖をなおして、部屋に戻って制服に着替えて。

 諸々の準備を終えた俺は玄関に行き、靴を履く。


「みのる、忘れ物は無いね?」


 あとは出かけるだけの俺に、母さんがそう訊いてくる。


「うん、ないけどさ――」


 隣を見やると、アリシアが眠そうにしながら壁に寄り掛かっている。

 俺はそれを見て、母さんにため息交じりに訊く。


「アリシアが付いてくるこのルール、いつまで続くの???」


 母さんはニッコリと笑い、答えた。


「高校いっぱいまで」

「?????」


 伊月家において、母さんの権力は絶対である。

 母さんの言うことに逆らう事は、絶対許されない。


 つまり、俺は高校生の間『彼女と登校♡』が出来ない事が決定した(まだ彼女いないけどね)。

 高校生らしい、朝の充実した青春が過ごせない事が決まった瞬間だった。


「ほら、遅刻するよ。ボケっとしてないで早く行きなさい?」


 母さんは、棒立ちの俺と眠っているアリシアを追い出すように押して家の外へ。


「それじゃ2人とも行ってらっしゃい!」


 ――ガチャン。


 ドアを閉じ鍵をかけられた。


「はぁ……行くぞアリシア」

「ふぁい」


 あくびをするアリシアと共に、俺は仕方なく学校へ歩き出す。


 ……しかし、本当にいい朝だなぁ。


 雲がほとんどない青空、少し冷ややかな風、鳥の鳴き声だけが聞こえる静かな住宅街、そして植物の良い匂い……いや、少し臭いな。


 とりあえず、いい朝なのには変わりない。

 だって、学校に行ってもこうき達がいないんだからね!

 本当に最高過ぎる!!


 まぁ実際は先週からいなかったみたいだけど、その時はまだ正式には退学してなかったっぽいし、そもそも俺が知らなかったしね。


 いやまじで気持ちいいなぁ。ここまでスッキリするもんだとは正直思ってなかった。

 頭の中では、虐めとか過去の事だしって整理できてたつもりだったけど、やっぱどこかでプレッシャーみたいなのは感じてたのかもな。


 あぁーったく、中学の時の俺に聞かせてやりたいよ。

 こうき達が俺にビビって学校を退学したよって。

 多分言っても信じないだろうけど、それで多少心が軽くなるだろうからな。


 ……この状況は全部、折れずに頑張ったおかげ。自分自身で切り開いた状況だ。


 虐められて、ビビりながらも耐えて生き続けて。

 意味も分からず異世界に転移しても、自分で生きていく方法を見つけて。

 帰ってきてからは自分磨きをして、魔法を駆使して自分の立場を確保して。


 結局魔法のおかげって言えばそれまでだけどね。


 俺も成長したなぁ……。


 俺1人で、なんとか色々頑張ったから、ここまでやってこれた。


 ……違うか、アリシアのおかげでもあるのか。

 こっちに来てから結構魔法を教えて貰えたしな。感謝するべきだ。


「アリシア、ありがとな」

「ん、え? ごめん聞いてなかった、何?」

「色々魔法とか教えてくれてありがとうな、助かったよ本当」

「なに急にこわ。みのる死ぬの?」

「ちげーよ。今の状況のこと、頭の中で色々考えててな。アリシアのおかげでここまでやってこれたんだろうなって」

「ここまでってどこまでよ。ほんと、どうしたのみのる。なんか悩みあるなら聞くよ?」


 急に感謝を伝えると、こんなにも心配されるのか……。


「茶化すな茶化すな。マジで感謝してんだから。ほら、一昨日見せた全裸土下座の写真、あの裸の奴ら退学したって話したろ? アリシアが教えてくれた魔法がその退学の件で役立ったんだよ」

「あー、そうなんだ?」

「それだけじゃなくて、他にも役立った場面が結構あってね。そんな感じで、ありがとうって」

「んーどういたしまして?」


 アリシアはあまり分かっていない様子だったが、まぁいい。

 俺が感謝してるって事だけでも伝わればな。


 それからしばらく無言で歩いていると、アリシアが口を開く。


「ねぇみのる」

「ん、なんだ?」

「私に感謝してるんだよね?」

「ああ、してるけど」

「……そう」

「なんだよ、そうって」

「いやね、なんていうか」

「なんていうか?」

「私に感謝してるならさ、1個、本当に1個だけで良いから、許して欲しい事があってね?」

「あ?」

「その……実は…………」

「もじもじするな、はやく言え」

「実は、みのるの部屋にあるフィギュア壊したの……私なの……」

「?」

「あの、私がこっちの世界に来た初日さ。私、みのるの部屋で寝る事になったじゃん? その時にね、うっかりフィギュア触って落として壊しちゃったの……ほんと今まで隠しててごめん!」


 急になんの暴露……?

 フィギュア? 壊した? 来た初日?


「――あ」


 一瞬で思い出した。

 そういえば、俺の部屋に飾っていたフィギュアの1体が、いつの間にか腕がもげて壊れていた。


「俺はてっきり、異世界にいってる間に自重で勝手に壊れたものだと!」

「私のせいなの……ごめん……」

「え、え? は? てか俺、あの時確か部屋の物に触るなって忠告したよな? なのにそれを無視して触ったのか?」

「うん、うっかりして」

「うっかりってなんだよ! 自分の意思で触ったんだろ?」

「自分の意思でうっかりね……」

「それはうっかりって言わないんだよ!! ったく、あれいくらすると思ってんだよ! プレミアム価格つくくらいレアなんだぞ!?」

「そんなん知らないわよ! もう、正直に謝ったんだから良いじゃん!」

「いやよくねーよ!! てかなんでお前がキレてんだ!」

「うっさいわね! 謝ったんだから許しなさいよ!」


 コイツがなんでこんな上からくるんだ!?


「許すも許さないも俺が決める事だろ!? もう返せ! 俺の感謝を返せ! そしてフィギュアも返せ!」

「無理に決まってるじゃない! 男らしくないわね!」

「あーそんな時代錯誤な事を言うのかお前は! じゃもういい、家から出てけ! 疫病神!」

「あそこはあんたの家じゃないでしょ!」

「ぐっ」


 せっかく、最高な朝だったのに。

 アリシアのせいで最低な気分になった。


「……結衣にいつの間にか魔力解放と魔法を教えてるしよ、お前ほんと余計な事しかしないな」

「余計な事しかってなによ!」

「余計な事しかしてないだろ! はぁ……ったく、先が思いやられる……」


 そういえば結衣のやつ「私も学校で魔法使う!」って言って聞かなかったからな……。

 俺の、充実した青春を過ごす野望が邪魔されないといいけど……。



 ずっとぶつくさ言ってるアリシアを横に、俺は学校へトボトボ歩を進める。


 これからの高校生活に不安を、アリシアと結衣に不満を――抱きながら。


――完――



あとがき


これにて異世界帰りの高校生は完結です。


ずっと投稿してなくて本当にすみません……。

もっと早くにこの話を投稿する予定だったんです。本当ですよ?

ただ色々と忙しい+新作に浮気してました。


本当にすみません。


でも、こんな投稿の間隔をあける私みたいな者が完結までかけたのは奇跡、ではなく読んでくれた皆さんのおかげです。

ブックマーク、評価、感想コメント、思った以上に励みになりました。


投稿してない間もちょくちょく通知が来ていて、「続きを書かないと!」と使命感にかられました。

マジで感謝です。長い間ありがとうございました。


と、話は変わりますが。

先ほど書いた新作についてです。


実は、既に完結まで書いてある新作を2024年2月16日、22時ごろに投稿予定です。

短編ではありますが、よければ読んでいってください。

ちなみにジャンルはNTRの復讐系です。

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【完結】異世界帰りの高校生、銀髪美少女と同居~そんなことより充実した青春を過ごしたい~ 松本ショウメン @MatsuMirai01

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