第32話 一件落着――イジメっ子なりの誠意ある謝罪

「は、こうき!? マジかよなんだコイツ、まだ懲りてないのかっ!?」


 DMから相手のプロフィールに飛んでみたが、確かにこうきのアカウントだ。

 クソダサい決め顔とポーズで、旧車のバイクと共に撮られた写真を投稿している。


 まだコイツ懲りずに何かしようとしてんのか。

 すげぇな、大した奴だわマジで(皮肉)。


 どれどれ、今度は何の用だ。


 こうきからの長文メッセージに目を通す。


『突然すみません、伊地芽こうきです。みのるさんに連絡を取りたかったのですが、limeの方はすでにブロック消去していて無かったので、こうしてイソスタのDMでメッセージを送らせてもらってます。直接伝えるべきなのかもしれませんが、それは俺が怖いし多分まともに喋れないと思うので許してください』


 ん、想像より数倍、やけに丁寧な文章だな。


『結論から申し上げますと、俺とれん、そして太郎は学校を自主退学します』


「あ!? どういうことや!?」

「お兄ちゃんさっきからうるさい」

「あーすまんすまん」


 自主退学ってどういうことだよ。

 俺の知らない間に話が進んでたのか?


『本来俺たちは、学校側との話し合いの末、停学処分になる予定でした』


「は、停学!?」

「もう部屋に行って」


 妹にしっしと追いやられるようにして、自分の部屋へ戻った俺はメッセージの続きを読む。


『警棒を学校に持ち込んだ事と、みのるさんに対しての行いで停学処分。だったのですが、それだけじゃみのるさんは納得していただけない、と思い俺たち3人全員、自主退学を選びました。また、1週間後には俺らはこの街を離れる予定です。二度とみのるさんの前に現れる事はないし、視聴覚室での話し合いの時に約束したように、妹さんに何かするつもりは全くないです。何があったのかれんと太郎にも話し、すべて納得してもらってます。ですから、どうか俺たちの事を許してください。中学の時のことも本当に申し訳ないと思ってます。自分がバカでした。なので、本当に許してください。お願いします!』


 んーと。色々情報が多くてあれだが、とりあえず何かしてくるって訳じゃないみたいだな。

 よかったよかった。ちゃんとこうきは懲りてるみたいだ。


 流石にイジメっ子といえど、普通にこの日本で暮らしてきたただの高校生にあそこまでの事をしたらそりゃビビるわな。


 ちなみに、視聴覚室で俺が一体なにをしたかと言うと。


 殴って蹴って殴って蹴って、歯が抜け落ちるくらい顔をボコボコにして、パンパンに腫れてきたら治癒魔法で怪我を治して暴力再開っていうループ、異世界式拷問をやった。

 俺が異世界で1度受けた事があるやつだ。


 最初こそこうきは「殺してやるぅ」とか言ってたけど、ローテーション3回目くらいで「やめてくれぇ」って懇願してたな。

 

 異世界式拷問を行うにあたって、魔法をこうきの前で気にせず堂々と使ったわけだけど、ちゃんと脅したしこのDMを見る感じ、誰かに広められる心配は無さそう。

 仮にこうきが口を滑らしたとて、怪我はきれいさっぱりなくなって証拠がないし、信じる人はいないだろう。ないものの証明って難しいし。


 しかしそれよりもだ。学校側がこうき達を停学処分にしたってのが驚きというかシンプルに呆れた。

 あれだけのことをしてて停学って。証拠もしっかり持って行ったのに。

 やっぱ学校ってイジメを甘く見てる節があるよなぁ(主語デカい)。


 俺が魔法を使えてなかったら、またイジメが始まって、悲惨な結果になっていたのかもしれないのにさ。

 なんだかなぁ、こうき達よりも学校側にイライラしてきたわ。


 まっ、何はともあれ、こうき達が自主退学して街を出て行くなら一件落着だな。

 元よりこうき達の事は、再会するまで存在を忘れてたくらいだし、俺と妹に手を出さないってんならこれ以上関わる気は毛頭ない。

 あの手の人間は、追い込み過ぎたら逆効果だし。今が丁度良いだろう。


「あ~なんかスッキリした」


 この件はどうなるのか、一抹の不安はあったから、解決した今凄くスッキリしている。

 気分良いし、治癒魔法を教えてくれたアリシアになんかジュースとかお菓子買ってきてあげるか。

 ついでに妹にも。


 そう思い立った俺はスマホを閉じてポケットにしまい、財布を持って買い物に出かけた。



 木野子れんの視点。


「うっ、これ重いなぁ」

「そうっスね重いっスね」

「こうきくん、これはどの箱に入れればいいのー?」

「あーそれはこの箱に頼む」


 僕と太郎くんは現在、こうきくんが1人で暮らしている家に来て、引っ越しの手伝いをしている。

 僕たちも引っ越しの準備があるのだが、こうきくんはどうしても早くこの街を出たいらしく、手伝って欲しいとお願いして来た。


 友達だし、別に手伝い自体は良いんだけどね。

 ほんの少し、不満がある。

 それは、こうきくんが作業をせずにずっとスマホと睨めっこしている事だ。

 なんで家主が動かず、僕たちだけが荷造りしてんの?


「ちょっとこうきくん、スマホばかり見てないで作業してよ」

「してっス!」

「――うるせぇ! 俺は今、返事待ちなんだよ!」

「返事待ちって誰? 女?」

「女じゃねーよ、みのるだよ!」

「みのる?」

「ああそうだよ! 1時間くらい前に、お前らと一緒に考えて送ったメッセージの返事が未だに返ってきてねーんだよ、クソがッ!」

「まじ? 既読は?」

「もうとっくの昔についてる! あーもう! 俺は何かミスったのか!? 何か怒らせるような部分があったのか!? あぁーわっかんねーよぉぉ!!!」

「こうきくん……」


 こうきくんはあの日から、すっかり変わってしまった。

 会うたびに「みのるはいないか?」って周りをキョロキョロ見て警戒してるし、家にいてもこうしてずっと落ち着きも無くずっと神経をとがらせて、怯えてる。


 正直、見てるこっちまで怖くなってくるからやめて欲しい。


 僕たちが何度訊いても、みのるに何をされたか教えてくれないし、僕からしたら未知の恐怖があるんだよな。

 まぁ憶測だけど恐らく、みのるのバックに相当大きな組織がいて、脅されたとかだと思う。

 じゃなきゃ、あのこうきくんがここまでビビる訳がない。


 ……あーなんだか僕まで手が震えてきた。怖いなぁ、殺されたくないなぁ。


「クソッ、やっぱみのる様って書いた方が良かったか!? それとも、直接謝った方が良かったか!? でもそれはこえーよぉ!! 頼むから返事してくれ、怒ってるのか何を考えてるのかわからねーからよぉ!」

「……こうきくん、いい考えを思いついた」

「んっ!? なんだれん、考えって!」

「多分ね……返事をしないって事は、みのるは今怒ってる。だから僕たちは、誠心誠意の謝罪をする必要があると思う」

「あ、ああ? で、その誠心誠意の謝罪はどうするんだよっ!」

「それはね……」



 伊月みのるの視点。


「う~ん、悩むな」


 歩いて十数分のスーパーに来ていた俺は、非常に悩んでいた。


 アリシアと結衣が好きな『塩ポテチ』を買うべきか。

 それとも、新発売の『アメリカンドッグのカリカリ部分風味ポテチ』を買うべきか。


 お礼の意味を込めるなら、圧倒的に前者なのだが。

 気になる。気になりすぎるぞ『アメリカンドッグのカリカリ部分風味ポテチ』。

 これ、そんなん絶対に美味しいに決まってるやんって感じの組み合わせだもんな。

 あー食べたい。食べたいけど!


 後者を選ぶと、手持ちの金が一瞬でなくなってアリシア達の分が何も買えない!

 もー高過ぎんだよこのポテチ!

 なんだよ999円って。高級ポテチすぎるって。


 くそっ、こんな事になるんだったら、ちゃんと財布の中身を確認するんだったな。


 財布の中身:1033円。


 どうしようどうしよう!!!

 究極の選択すぎるって!!!


 ――ピロロン!


 悩んでいると急に、スマホの通知が鳴った。


「?」


 今日はいつにも増して通知が来ますねぇ。


 スマホを取り出し確認すると、イソスタからの通知だった。


 おおっとこれは!

 今度こそ、今度こそは女子からなのでは!?


 急いでロックを解除しイソスタを開く。


「ちっ、またかよ。期待させやがって、○ね」


 またこうきからのメッセージ。

 しかも今度は2件。

 さっきのダラダラと長い文で1件だったことを加味すると……うん、読む気失せるな。


「あー」


 まじでしょうもない内容だったら、取り巻きもまとめてぶっ飛ばす。


 俺は苛立ちながら、DMをタップ。

 すると、画像と文が表示された。


「えっ?」


 上に少しスクロールして画像を見てみる。


「ぷはっ、えぇ? なにやってんのコイツらっ」


 こうき、れん、金魚の糞。

 横に綺麗に並んで、まさかの全裸で土下座をしている。

 そして文章の方は『今まで本当に申し訳ございませんでした』と謝罪が。


「ぷ、ぷはっはっはははっ!」


 笑いが止まらん。なにこれコント?

 どういうことよまじで。なんで裸なん?


 もしかしてこれが、こいつらにとっての誠意みたいな感じってことか?

 だったら本当に、どこまでいってもイジメっ子思考じゃん。


 いやでもまぁ、面白いからグッド。初めてコイツらで心の底から笑えた気がする。


『やばすぎ』


 それだけこうきにメッセージを送って、スマホを閉じる。


 あー最高。面白かった。

 これも全て、魔法のおかげだなマジ。

 魔法最高、大好き。


 俺は塩ポテチを手に取り、その後コーラなどの炭酸ジュースを買える分だけカゴに入れて、会計。

 スーパーを後にした。



 ダンゴムシブラザーズの視点。


「おい! 返事きたぞ!」

「なんてきたのこうきくん!」

「教えてっス!」

「やばすぎ。それだけだ」

「やばすぎ……」

「やばすぎ……っスか……」

「おいこれ大丈夫なのかっ!? れん、どういう意図なんだやばすぎって!」

「僕に聞かれても分かんないって!」

「わわわ! 分かんないから早く逃げるっス! 多分それが正解っス!」

「そうだな!!!」「そうだね!!!」


 ダンゴムシブラザーズは脅威の速さで荷物をまとめて、その日のうちに3人とも街を出た。

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